「丸ビル」の意味。
久しぶりに東京駅で降りた。
駅前は、かなり前に広くなったはずなのに、それほど頻繁に来ていないせいか、その広さが、毎回、新鮮に感じる。
さらに開発が進んでいるようで、高いビルが増えているような気がする。
その中に、今も「丸ビル」がある。
「あれ、へりが丸くなっているから、丸ビルだよね?」
妻に聞かれた。
「違うよ。丸の内にあるから、丸ビルだって」
そんなことを笑って答えながら、自分も同じような会話をしたことを、思い出した。
丸ビル
おそらく、今よりも、「丸の内」は、特別な存在で、だから「丸ビル」という響きも、その言葉を聞いて、すぐに「丸の内だから、丸ビル」と思えたのは、昭和の時代までかもしれない。
とても個人的なことだけど、小さい頃から「丸ビル」の名前を聞いていたのは、母親が、このビルの中にあるオフィスに勤めていたせいで、その頃は神奈川の横浜の隅っこの町で育って、そのあとは、岐阜県に引っ越したから、東京の都心は遠かったし、その価値もわからなかったから、母親にとっては自慢でもあったのだろうけど、そのことも全くピンと来なかった。
だから、その後、東京駅に行く機会があっても、丸ビルを目にしているはずだけど、それほどの印象もなく、記録によると、2002年に建て替えられるまで、ほぼ建設当時の姿のままのはずだったけれど、記憶にもなかった。
もっとも覚えているエピソードは、母親の勤務中に、窓の外を落ちていく人を見た…おそらく飛び降り自殺のことなのだろうけど…という話で、その時に職場のベテラン男性が、「女の子は見ないで」と叫んだ、ということまで聞かせてくれたのだけど、それが、丸ビルでの出来事なのか、別の場所なのか。
それも母が亡くなった今では、よくわからなくなっているが、ただ、昭和のかなり昔の時代でも、当然だけど、そういうことがあった、というような記憶として残っている。
母との会話
母親は晩年、介護が必要になり、私自身も心臓の発作を起こしたため、病院に入ってもらったことがあった。そこに、かなり頻繁に通っていて、もしかしたら、その頃が一番、母親と話をしたかもしれない、と思うことはある。
それまで聞いたことがないような話も、ふと、唐突に話題に出たりもするのだけど、母親の調子がいいとき、昔、勤めていた話になった。
「丸ビルに勤めていたんでしょ?」。
「そうよ」。
「そういえば、丸ビルって、あのふちが丸くカーブを描いているから、丸ビルって言うのかな?」。
母は、笑った。
「何言ってるの。丸の内にあるからよ」。
だから、恥ずかしながら、自分がかなりの年齢になるまで「丸ビル」の意味を知らなかったことになる。
それは、無知のせいもあるけれど、「丸の内」という場所の価値観が、世代によって、その重要度が変わってきた、ということも関係あると思った。
妻との会話
それから、さらに10年以上が経って、すっかり変わった東京駅と、高層ビルになった「丸ビル」を前に、妻と、冒頭の会話をした。
ほとんど同じ内容だったけど、違うのは、私が「丸ビル」の意味を伝えたことだった。
ただ、高層ビルになった「丸ビル」も、下層階は、以前の面影を残すように、真四角ではなく、少し柔らかいカーブを描いた造形になっているから、それを見たら、「丸いから、丸ビル」といった言葉を言いたくなる気持ちはわかった。
そんなふうに、ビルが単体で、象徴的な意味を持つことは、「丸ビル」以降は、渋谷の「109」以外は、あまり覚えていない。
すぐに思い出すのは、「六本木ヒルズ」だけど、あれは、その一帯を表す名称で、あの高層ビルは「六本木ヒルズ森タワー」と言うそうだけど、そちらを正確に覚えている人は、少ないかもしれない。
「ミッドタウン」も「虎ノ門ヒルズ」も、その「場所」を指しているのだし、渋谷も高層ビルが立ち並び始めたけれど、個別の名称よりは「渋谷再開発」と、まとめて呼ばれることの方が多いように思う。
「丸ビル」のように、関係した人たちが愛着をこめて語り、広く知られるような建築物は、これからも出てくるのだろうか。
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