見出し画像

企業やビジネスパーソンに、もっと「きちんとしたコミュニケーション」をとってほしい理由。

 ドラマを見ていて、そこがメインテーマではないから、シリアスさやリアルさは足りないのかもしれないけれど、「M&A」のことが主人公たちの課題となっていた。

M&A

 個人的には、とても少ない知識だけど、「M&A」というのは、企業買収だと思っていた。

 M&A(エムアンドエー)とは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略です。M&Aの意味は、文字通り「企業の合併・買収」のことで、2つ以上の会社がひとつになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。つまり、企業または事業の全部または一部の移転を伴う取引を指し、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。M&Aと聞くと、以前は外資系企業(ハゲタカ)が会社を乗っ取るイメージもありましたが、近年は企業の成長戦略の手段としての意味合いが強くなってきています。

 冒頭にあげたドラマでも、主人公が、「M&A」にもいろいろとあって、お互いの企業にメリットがあるために、その方法を選択した、という話をしていた。反射的に、「そんなにうまいことがあるのだろうか。ドラマだから、そういう展開なのだろう」といったことを思っていたが、だけど、ストーリーから言えば、好ましい流れなのだろうとも感じた。

 ただ、そんなことは、本当に可能なのだろうか。

合併

「M&A」という言葉の前は、企業の「合併」という表現をよく聞いた。その頃も、企業同士の「合併」が公に発表される時は、企業のトップ同士が握手をして「対等」を強調する場面を、情報に弱い私でも何度も見てきた。

 だけど、実際は、「対等」ではないことを、間接的に知ることも少なくなかった。「合併」をするときは、たとえば2つの企業のどちらかが大きいと、より小さい方の企業に所属していた社員は、リストラにあったり、いじめにあったりといったことは、どこまで本当のことかは分からないのだけど、様々な媒体で目にしたり、耳にしたりしていた。

 順調に昇進してきたのに、突然の合併で降格の憂き目に遭う人は珍しくありません。国内外の競争が激しくなる中で会社の生き残りをかけたM&A(合併・買収)が活発化しています。合併発表では、両社の「対等合併」を強調し、トップ同士がニコニコしながら握手している光景がテレビで映し出されますが、内実はそんなものではありません。

 合併後は、重複する部署などの組織のスリム化が断行され、当然ポストも半減します。合併を経験した大手IT企業の人事部長は「そもそも合併に対等などはありえません。強い会社が主導権を握り、一気にリストラや人事制度を改革し、ポストを一新する作業を進めなければ、ゼロサムの競争の世界では生き残れないのです」と言います。

 「人事ジャーナリスト」という肩書きを持つ人が書いているのだから、少なくとも私のような人間より、はるかに詳しいのだから、やはり「M&A」や「合併」の後には、どちらの企業もより成長したり、幸せになったりすることは難しいようだ。

 だけど、本当に、企業合併や「M&A」は、どちらかの「企業」に地獄を見せるだけなのだろうか。

システム障害

「失われた30年」の間に進んだことの一つが、銀行の統合だと思う。

 いわゆる「メガバンク」が目立つようになり、それは、どれだけ収入が低くても、金融機関には口座を持つ必要があるから、自分にも全くの無縁ではない。

 その「メガバンク」の中で、何度もニュースになったのが「みずほ銀行」で、それもシステム障害について、だった。

 大きな障害は、3回目で、だから、こうしてその理由も「外部」で分析されるようになっている。この記事の中で、私にも理解しやすい理由もあった。

■経営とIT現場のコミュニケーション不全

 経営者とシステム開発の現場のリスク感覚に関する意思疎通ができていなかったことも、大きな原因と考えられる。
 2019年4月にみずほのCIOに就任した人物は人事や企画畑が長く、システムには精通していない人物だった。そのため、経営トップの方針をシステム部門に伝える役割だけが機能して、システム部門の視点での適切な進言を経営トップにすることができなかったと考えられる。
 その結果、システム部門の感覚では、リスクが高まるレベルまで人員やベンダーの要員を削減してしまったのではないか。

 この中で、「上」から「下」へは意志が伝えられても、専門分野であっても「下」から「上」はきちんと意志が伝えられないことが述べられている。それは、忖度の世界に思える。同時にそれは、組織にいた年数が少ない私にとっても、とてもなじみがある光景にも思える。

 企業が統合したとしても、21世紀になっても、そうした状況を変えるのは難しいのだろうか。 

半沢直樹

 「半沢直樹」という銀行を舞台にしたドラマが始まったのが2013年だった。当初は、そのドラマに関心がなかったものの、複数の人に、現代に生きているのなら見たほうがいい。リアルだから。といった同じような言い方ですすめられた。

 そんなにすすめられることも珍しいから、録画して見てみたが、私には、その面白さが分からなかった。もしかしたら、熱心な視聴者と比べると粗い見方になってしまうのかもしれないけれど、同じ銀行の上司にあたる人間(香川照之が演じていた)が、実は「敵」に当たる人物で、主人公(堺雅人が熱演していた)が「倍返し」の復讐を果たす、というストーリーについていけなかった。

 見進めるたびに、疑問が湧いてきてしまった。


 どうして、同じ会社の中で、こんなに争っているのだろう。

 社内政治に、こんなにエネルギーを使っていたら、会社そのものの生産性や、成長には、マイナスにならないだろうか。

 もし「敵」が明らかであれば、違う会社に入って、もしくは起業して、その「敵」ごと、その銀行をつぶそうとするほうが理解しやすいし、自分がいる「組織」を成長させることにもつながるから、日本全体の経済にも貢献できそうなのに。

 それに、私にとっては、何より、ドラマの舞台の、この会社は居心地が悪そうで、とても自分が(採用もされないだろうけど)勤め続けられそうな気がしなかった。

 このドラマの舞台になった銀行も、どこかの銀行と合併し、メガバンクと言われる存在になった時に、社内のコミュニケーションがうまくいかず、システム障害を起こしそうだった。

 そんなことを思っていた。


 でも、このドラマは2020年に続編も放送され、高い視聴率を記録したということは、共感を持って見られたはずで、私のような見方をする人間は少数で、おそらく、「半沢直樹」のようなことが、日本のあちこちの企業でも起こっている可能性がある。

 このドラマの原作は、バブルの頃に入社した銀行員を主役にしているらしいので、フィクションとはいえ、この「半沢直樹」が入行してからの年月は、ちょうど「失われた20年」もしくは、続編が放映された時までを考えれば「失われた30年」に重なる。

 この状況は、本当に変わらないのだろうか。

「失われた30年」

 あまりにも頻繁に使われすぎて、そして、その年月の中で生まれ育った人にとっては、不快な表現だとも思うのだけど、「失われた30年」という言い方はよく使われる。

 これは「バブル崩壊後」の日本社会の、特に経済的な側面を指していて、最初は、「失われた10年」だったのが、ずっと基本的には不況が続き、いつの間にか、失われたのは「30年」になってしまった。

 それは、印象だけではなく、さまざまなデータも示している。

 世界で3番目の経済大国であるはずの日本の労働者の所得水準は、先進国の平均値より低い。今や経済協力開発機構(OECD)加盟国中22位と韓国より下位で、物価も東南アジアの国より低いというのが現状だ。

 これに関しては、政策の失敗など色々な指摘もあるものの、この記事は2021年11月なので、それから約1年経った今は、物価は上がっているのだから、さらに生活は苦しくなってしまっている。

日本の時間当たりの労働生産性は38カ国中23位

 最下位ではないという見方もできるのだろうけど、生産性も決して高くはない。

 国際機関「世界経済フォーラム」の記事には、「日本人会社員の不幸度(を示す結果)は、国際的な職場調査のもはや定番のようなもの」と書かれています。確かに、あらゆる国際調査で「世界一不安で、不満で、不幸な日本人労働者」の実態が浮かび上がっています。

 どうして、こんな状態なのだろうか、と気持ちも暗くなるが、この記事には、その解決策までいかなくても、その状態を少しでも良くするための方法が示唆されている。

 単に「労働時間を減らす」といったことだけでは、仕事は楽しくなりません。もっと包括的に、日本の働き方を変えていく必要があるわけですが、まずは「職場のコミュニケーションの抜本改革」が求められていると言えるのです。

(「東洋経済」ONLINE より)

 この文章で、ここ何年かでよく聞くようになった言葉を思い出した。
 それは「心理的安全性」という単語だった。

心理的安全性

 個人的には、この言葉を発する人を初めて見たのは、ピョートル・フェリークス・グジバチ氏だった。あの「グーグル」で人材育成を担当した人物だった。

 心理的安全性とは、端的に言えば「メンバー一人ひとりが安心して、自分が自分らしくそのチームで働ける」ということ。自分らしく働くとは、「自己認識・自己開示・自己表現ができる」ということです。要は、「安心してなんでも言い合えるチーム」が心理的安全性の高いチームなのです。

 もし、「安心してなんでも言い合える」会社があったら、私でさえ勤めたいと思うけれど、おそらく現実は、今だけでなく、これまでも、そうではなかったのは、組織に長くいなかった私でさえ知っている。

 ある日本の大手企業の管理職の方が飲み会の席でこんなことを言っていました。
「オレは自分の上司には絶対に本音を言わない」
 以前から日本人は上司に本音を言えない傾向が強いとは思っていたのですが、「言えない」ではなくて「言わない」―。頑なな物言いに少なからず驚いたので、自分のフェイスブック上で簡単なアンケートをしたこともあります。結果は250人中、4人に1人が「上司に本音を言うべきではない」、3人に1人が「上司に本音を言っていない」と回答。 「上司は危険」などと考えていたら、心理的安全性が高まるわけがありません。

 「半沢直樹」はフィクションだとしても、リアリティがあるから支持されたわけで、このピョートル氏のプライベートな調査だけではなく、「上司は危険」と思っている人は、現在も多数派であり、会社の「心理的安全性」は今も低いことは間違いない、と思う。

 この「安心してなんでも言い合えるチーム」が、「グーグル」で実現されているとしたら、それはなんだかうらやましいことでもあるし、もしかしたら、それは一部の「日本」のビジネスパーソンにとっては「ぬるい組織」などと言われそうだけど、グーグルは、世界のトップ企業まで成長しているのだから、「失われた30年」状態の日本にとっては、学ぶ必要もあるのではないか。

「高度経済成長」時代は、欧米のスタイルを素早く取り入れ、それで成長してきたのに、いつの間にか、それすら忘れてしまったのだろうか。

きちんとしたコミュニケーション

 それでも「心理的安全性」は、ビジネス界では、微妙なブームになっているように思える。

「心理的安全性」とは、このように組織やチーム全体の成果に向けた、率直な意見、素朴な質問、そして違和感の指摘が、いつでも、誰もが気兼ねなく言えることです。

 ただ、実際は、今の日本の企業では、まだ『心理的「非」安全性』↓が主流に思える。

「良かれと思って行動しても、罰を受けるかもしれない」リスクのことです。

「無知」だと思われたくない→必要なことでも質問をせず、相談をしない
「無能」だと思われたくない→ミスを隠したり、自分の考えを言わない
「邪魔」だと思われたくない→必要でも助けを求めず、不十分な仕事でも妥協する
「否定的」だと思われたくない→是々非々で議論せず、率直に意見を言わない

 この方↑が、日常的な光景にもみえ、「心理的安全性」の方が、大げさかもしれないが、今も届かない夢のようにさえ思える。

心理的安全性はチームのためや成果のために必要なことを、発言したり、試してみたり、挑戦してみたりしても、安全である(罰を与えられたりしない)ということなのです。

「心理的安全性」は、表現を変えたら、「きちんとしたコミュニケーション」であり、「丁寧で率直な話し合い」であり、本来であれば、複数の人間で何かに取り組むときに、優先されるべき方法だったはずだ。

 いつの間にか、そういうことが、ほぼ忘れられるようになり、企業だけではなく、社会の中でさえ、大人になったら、「率直な意見や素朴な質問」なども許されなくなってきたように思う。

 社会の中の「心理的安全性」自体が、とても低いままになっている。

 もしも、コミュニケーションの基本に立ち返り、どんな組織であっても、そこに所属する人間が、思ったことを言え、考え、そのことによって罰が与えられることもなく、時間もかけて話し合いを続けることができれば、もしかしたら「M&A」も、「企業合併」も、どちらかの企業が地獄を見るのではなく、そのことをきっかけとして、これまでとは違った企業に変わることで、そこに所属する人間が、より働きやすくなったりすることは、可能なのではないだろうか。

 この「失われた30年」については、様々な要因がからみ合い、とても少数の原因を挙げることもできないのかもしれないが、社会自体の「心理的安全性」が低く、十分なコミュニケーションもとれない環境であることが、その一つであるのは間違いないように思えてくる。

 さらには、「給与の上がらないこと」も「生産性が低いこと」も「仕事が世界一、苦痛なこと」も、不十分なコミュニケーションが関係しているのではないだろうか。

 
 
 だから、企業もビジネスパーソンも、もっと丁寧な「コミュニケーション」をとることを心がければ、ほんの少しでも生きやすくなる社会に近づいていくように思う。

 それが、「きちんとしたコミュニケーション」をとってほしい理由です。




(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



#最近の学び    #多様性を考える   #心理的安全性
#コミュニケーション   #M &A   #合併  
#システム障害   #コミュニケーション不全 #銀行
#半沢直樹   #失われた30年   #平均給与
#労働生産性 #毎日投稿

いいなと思ったら応援しよう!

おちまこと
記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。