読書感想 『母親になって後悔してる』 オルナ・ドーナト 「名づけるのを拒まれていた感情」
自分にとって信頼できる人が、楽しいとか興味深いとか悲しいとか、そんな単純な感情だけではない表情をして、内容を語っていた書籍だった。それで、より興味を持てた。
これまで、ある意味では無視されてきた人間の感情に関する重要な記録だった。
『母親になって後悔してる』 オルナ・ドーナト
この書籍は、イスラエルの社会学者が、厳密な手続きを踏んで調査をし、そのことで集められた貴重な声をもとにして、分析し、考察された内容だった。
その調査の対象となる女性を選ぶのに、2つの質問に対しての答えが基準になった。
この質問自体がタブーと思われている可能性はあるし、この研究が批判されることもあったようだ。ただ、そうした反応は、もしかしたら、これまで見えていたけれど、見ないようにしていたこと。それを明確にすることへの恐れだったのかもしれないとも思えた。
同時に、私自身が、男性であり、配偶者はいるが、子供もいないこともあり、本当に自分は知らないことばかりだと思い知らされながら、ページを読み進めることにもなった。
例えば、女性が子どもを産むまでについて、自分が、どれだけ見えていなかったのか。
どこかでわずかでも、そんな気配に気づいていた可能性はある。だけど、それをきちんと見ようとしてなかったし、考えようとしてなかった。
声
この本では、「母親になったことを後悔してる」23人の人の声が、豊富に紹介されている。
こうした感情が存在することを明確にするだけでも、研究の意味はとてもあると思う。
愛と憎しみの区別
母親になったことを後悔している。
そんな言葉を聞くと、おそらくすぐに考えが及ぶのが、子どもの存在に対して否定的になることへの、恐れのようなものだ。だからこそ、母になった後悔はタブーとされてきた部分もあると思えるが、この研究で明らかになった重要なことの一つが、この2つの要素の区別だろう。
これは少し分かりにくいが、具体的には、いつか子どもへ伝えたいこととして、こう語る母親がいる。
こうした言葉や、何より、これまで無視されがちだった感情が明らかになったことは、繰り返しになってしまうが、とても大事なことだと思う。そして、今回は一部の引用に過ぎないので、全体を通して読めば、この区別についても、さらに理解が深まるのは間違いない。
母であること自体の苦しみ
子どもの存在への愛情と、母であることへの憎しみ。
そうしたことを考えると、反射的に浮かぶのが、産んで育てるための社会環境の整備について、だった。支援が十分であれば、その感情が変わってくるのではないか、という推察だった。
今回、この感情に、それだけではない複雑さや深さがあることは、恥ずかしながら、本当に初めて知った。
ここからも、母親であること自体の困難に関して、考察は続き、それは、この本で、すべてに明確に結論が出されているわけではないが、そこから、さらに考えを進めていくには、必要な前提が提示されていると思えた。
おすすめしたい人
ここまでは、本書のごく一部に触れたに過ぎないと思います。
それでも、もし、この紹介を読んで、少しでも興味を持ってもらった、すべての人に、おすすめしたいと思っています。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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