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植物への「気持ちの距離感」が違うこと。

 急に、妻に言われた。
 
 近くのマンションのところに、3色の葉っぱがある。

 妻の熱量の高さは分かったのだけど、その内容が、最初は分からなかった。

 マンサクの木があって、その葉っぱが3色になっている。

植物への気持ちの距離感

 何か珍しそうだったし、すぐそばだったし、写真を撮ろうと思って、出かける。妻に確認したら、その角を曲がってすぐ。と言われる。

 歩いて、30メートルくらい。
 マンションの角を曲がって、すぐのところに樹木はあったけれど、どうも違うみたいで、微妙にとまどいがあったが、さらに、先へ歩く。
 そこから、また15メートルくらい。
 そこに、妻が言っていたマンサクらしい樹木があった。

 そばで見たら、確かに色がついていて、よく見たら3色だった。

 それはたいした距離ではないし、すぐかもしれないけれど、もし自分が説明するとしたら、曲がって、ちょっと行ったところ、という表現になるはずだし、その葉っぱは、そんなに大きくなくて、どちからかといえば、細かいから、道路を歩いていたとしても、気がつきにくい。

 わたしも、この道を歩いているし、近くのコンビニにも、たぶん前日も来たはずだったのだけど、そこにマンションがあるのは分かるし、その前に、様々な樹木や植物が植えられているのも知っていたのだけど、ここの葉っぱが3色であることに気がつかなかったし、妻に教えてもらわなかったら、これからも気がつくことがないのは間違いなかった。

 普段から思ってはいたのだけど、植物への距離感が圧倒的に違うのを、改めて知らされた。

 たぶん、同じところを歩いていても、見えている景色が全く違うのだろうし、興味がある分だけ、妻にとっては「近い」のだろう。そういえば、一緒に歩いている時も、ずっとメガネをかけているし、近視だから、遠くはそんなに見えないはずなのに、興味があるものは、発見するまでが早いことも思い出す。

 おかげで、近くに3色の葉っぱがあるのを知ったし、撮影もできた。
 同じ枝なのに、先端が紫で、まんなかが濃い緑で、根元が黄緑だった。

3色の葉っぱを見つけるまで

 妻は、植物でも、樹木よりも雑草のような草花が好きなので、視線は下向きになっている。だから、マンサクの花が咲いている時に、赤っぽい。どちらかといえば、赤紫の花が咲いていて、それは多く見かけるマンサクは黄色なので、珍しいと気にしている程度だった。

 もともと、マンサクの花が、はたきみたいで、形がおもしろいから、注目はしていた。ドレッドヘアーまではいかないけれど、くしゅ、くしゅとしているのは、不思議な感じはしていた。マンサクは、咲く時は花だけになっているし。

 だから、花が毎年咲くと、見ていたのだけど、葉っぱはそんなに関心がなかった。

 ただ、今年は、その道路を通った時に、紫の葉っぱが目に入った。

 あれ、と思って近づいたら、同じ枝なのに、先が紫色っぽくて、まんなかが濃いめの緑で、枝の根元が黄緑の若葉色で、わーっ、3色だ、と思った。

 妻は、初めて見たという。

 木の新芽は、緑じゃないのが、けっこうある。
 赤だったり、紫だったり、緑じゃない新芽を見ると、気持ちが、ちょっと盛り上がる。
 若々しい黄緑だけじゃないのが、不思議だと思っているらしい。

 今回は、葉っぱが3色で、それも古いはずの根元のほうが、黄緑になっているから、よけいに気になった。

 そんなことを思って、妻は盛り上がったらしいが、最近、いろいろなことに興味を持ってきた夫にも教えようと思って、伝えてくれたらしい。

 3色の葉っぱの裏に、そんな熱量があったのは知らなかったが、妻に教えてもらわなかったら、そこにマンサクがあるのも知らなかったし、3色の葉っぱがあることも、ずっと知らないままだったと思う。

ベニバナトキワマンサク

 毎年咲くマンサクの花の色のことを、妻は覚えていたので、その画像を検索したら、どうやら、ベニバナトキワマンサクという品種らしい。

 そこまで話が進んで、「そういえば、たしか名前の札があったはずだから、見てくる」と、すぐに席を立って、見にいってくれた。行動が素早かった。かわりに行くから、と声をかけるタイミングもないくらいだった。そして、帰ってきたら、もう古くて、その名前の札はどこかに行ってしまっていたらしい。でも、このベニバナトキワマンサクで間違いないらしかった。

 あとは、それでも、花が咲く季節がちょっと楽しみになった。

 これまで見えても、見えていなかった。すでに違う視野を、わたしも、ひそかに獲得したのかもしれない。



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