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健康診断を受けたら、すでに「近未来」になっていたことに気づいた。

 基本的に健康診断は、自分が住んでいる区の「健康診査」を受けている。

 とはいっても、いつも年度末の3月ギリギリに受けることが多く、そのときにはがん検診などは終了していることも多いから、レントゲンで肺の状況を確かめてもらったり、血液検査や尿検査や問診で一通りのことは診てもらえる。

 その時は、病気になったら最初に通っている隣町の医院に自転車に乗って向かって、診察室に呼ばれ、医師と会話をしながら、そのそばのベッドに横たわって心電図を測定してもらったりする。

 その時間は静かに淡々と過ぎて、そして、レントゲンなどはすぐに結果を伝えてもらえるが、項目によっては後日にお伝えできますと言われ、そのときは、やっぱり、もしかしたらどこかが悪いのかもしれないといった不安はある。

 だから、後日、再び、同じ医院に来て結果を聞くまでが、健康診断なのだけど、基本的には医師以外は誰も関わってこないようなプライベートな印象だった。そして、診察室という閉じた場所でひっそりと行われる行為だと思っていた。


健康診断の印象

 介護のために仕事を辞めて、10年以上、無職で介護だけをしていたことがあった。だから、その後は仕事をするとしても、たとえ資格を取ったとしても、介護を続けながら、ということもあって、常勤の仕事に就くことは難しかった。もちろん、年齢のこともある。

 だから、19年間の介護が終わった後も、いわゆる非常勤やアルバイトのような形式で働くことが続いていて、これからもそうした方法で働き続けていくのだろうし、それは、介護以前にも、フリーランスで働いていたから、それほど変わらないことではあるから、その不安については慣れているはずだけど、やはり、自分が歳を重ねていくことで、また違う気持ちの重さは加わっていた。

 それでも、そうした仕事を始める際に、健康診断が義務付けられたりしていることもあり、そうしたときに、区の健康診断の時期が過ぎてしまっていたら、自費で、いつもの医院に行って、健康診断を受ける。

 他の病院や施設で健康診断を受けることなく、すでに10年以上が過ぎていて、もしかしたら、他の場所で、そうした経験をするイメージが湧かないまま、さらに年月が経った。

 あるとき、非正規で、週に1度働いているに過ぎないし、最初にそうした検査結果を提出したはずなのだけど、何年か経ったせいか、健康診断を受けるように、といった指示があった。それも、その病院も指定されていて、そこで健康診断をするのであれば無料、ということだった。

 それはありがたかったけれど、予約が必要で、その上、その検査日は、病院の方から指定されるらしい。

 そこに不安はあったのだけど、サイト上で申請をし、郵便物が届いて、そこにあった日程は自分にとっても都合がいいものだった。

 ただ、午後だから、そこまで飲食物も控えなくてはいけなくて、そのことは、ちょっと不安だった。

病院のシステム

 地図を見ながら、初めての病院に向かう。

 午後2時過ぎの予約で、10時間は食べ物も、水やお茶以外の飲料も口に入れないほうがいいという注意書きで、それは、健康診断では常識なのも知っていたけれど、これだけ午後遅くの時間は初めてで、やっぱり少しお腹が空いていたけれど、20キロの減量に成功し、10年以上リバウンドもしてないから、昔よりも空腹に強くなった気はした。

 新しいビルに入る。

 まず、その病院に行くまでの道筋で建物の中で迷い、自動改札機に似たゲートのそばに立つ警備のスタッフの方に聞いたら、建物の隅にあるガラスの自動ドアをさし示してくれた。

 確かにホームページにも、ここの説明はあったはずなのだけど、ビルの大きさとか、動線の複雑さに緊張し見えていなかったようだ。

 それから、その病院のある階にエレベーターで向かう。

 ドアが開いたら、そこはすでに自分にとっては知らない種類の病院だとわかる。

 全体的に乳白色の空間

 新しい商業ビルの受付にいるような女性スタッフが座っている。

 窓がなく、細長いつくりになっているが、外からこのビルを見たとしても、どんなふうにレイアウトされているかイメージしにくい構造。

 この受付に、持っていった書類と、検尿のためのボトルも提出する。ここから見えるのは、細長い廊下があって、その両側に部屋があり、それが診察室になっているようなのがわかる程度だった。

 私が向かうのは、ここのスペースではないのはわかった。

 少し後ろの方にロッカーと着替えをする場所があり、そこで検査着に着替えてから、健康診断を受けることを指示される。

 レントゲンなどもあると思い、一番下には半袖のTシャツを着ていったのだけど、プリントが入っているものは、できたら避けてほしい、といったことも言われた。

 ただここには人も多く、私と同様に健康診断を受ける人たちもかなりいるようで、とにかくロッカールームのような、緩やかに仕切られたスペースに向かう。

 その前には棚があって、微妙な度合いの茶色をしたやや集めの検査着が置いてあって、サイズごとに重ねてある。その中から、上と下を選んで、ロッカールームのような場所に入る。

 そこは思ったより狭かったけれど、でも、何十個もロッカーがあって、だから、かなりの人数が使える場所でもあり、先に2〜3人の人がいて着替えていたけれど、それほど狭さも感じない。

 とても合理的なつくりになっていて、最小限のスペースだけど、無理をしないような感じだった。

 そのロッカールームで、もし、所持品が必要だったら、受付で小さい袋のようなものがありますので、お申し付けくださいといった言葉を見つける。

 これから、どれくらいの待ち時間があるかわからないので、持っていった本や、それを読むための老眼鏡や、サイフと手帳も持っていこうと思って、再び、受付へ戻って、その小さなトートバッグのようなものも借りてこれた。

 着ていた服や靴などをロッカーに入れた。

 寒がりなので、検査着だけだと不安だったけれど、建物の中は空調によって温度は保たれているし、検査着のようなものは厚手だったので、それほど寒さも感じなかった。

 小さい袋に、自分にとって必要なものを入れて、かなりふくらんだけれど、これから時間がかかりそうなので、必要なはず、などと思っていた。

定期健康診断

 入ってきたのとは、逆の方向の出口へ向かう。

 そこを出ると、最初に見た構造と似ていた。

 窓がなく、縦に50メートルはありそうな細長いスペース。

 真ん中は広い廊下のようで、何ヶ所か大きいソファーが置かれていて、検査着を着た人たちが座って、スマホを見ている。

 そのかなり縦に長い楕円形のような構造の周囲には、部屋がいくつもあって、それぞれの場所で違う検査が行われるようだ。

 すでに私は、番号を割り振られ、その番号の札を首から下げて、この場所では名前ではなく番号を呼ばれることになるが、この空間全体は清潔感にあふれ、乳白色で満たされていて、窓もなく、密閉されているはずなのだけど、閉塞感はない。

 印象としては、昔見た近未来を舞台にした映画で、よく見かける空間と似ていた。

 そしてそこには何十人も、私と同じように健康診断を受けるであろう人たちが性別を問わず、同じ薄い茶色の検査着を着て、番号で呼ばれ、人が動き、検査が進んでいく。

 だから、移動するのは検査を受ける人間で、回遊するようにあちこちへ動いていく。私もその一員になり、番号を呼ばれ、検査を受け、終わったら、廊下のような場所のソファーに座って次に呼ばれるのを待つことを繰り返した。

 血圧は最初は上が、110を超えていたので、いつもよりも高いと思ったら、2回目は106に戻っていた。やはり低めは変わらないようだった。

 レントゲンは、いかにもレントゲン室、というのではなく、他の部屋と同じような白い空間の中にあって、撮影はスタッフの指示に従って、淡々と進んでいく。

 検査の途中で、ロッカーのことを思い出した時があった。ダイヤルで、自分のパスワードの番号を決めてから、本当はもう一回、ダイヤルを回して数字を変えないといけないのに、そのままにしてしまっていたような気がした。それだと、そのままロッカーは開いてしまうから、鍵をかけた意味がなかったので、ロッカールームに戻ったら、番号はパスワードのままだった。このまま引っ張れば開くはずで、焦って、中を一応確かめて、次はきちんと閉めた。

 また、さっきの空間に戻って、検査は、続く。

 心臓の検査も久しぶりだった。心房細動の発作を起こしてからしばらくは、頻繁に測定し、ホルダーをつけて24時間体制で計測したこともあったが、こうした基本的な心電図を計測するのも久しぶりだった。

 血液検査も同じようにスムーズに進められる。不思議なくらい女性スタッフばかりだった。

 身長と体重を測る部屋では、去年より身長が縮んだことに軽いショックを受けた様子を見てくれたのか、計り直しますか?といった声もかけてくれ、もっと背筋を伸ばそうかと思ったりもしたが、この検査のシステムに滞りをつくってしまうだろうし、という思いもあり、弱々しく大丈夫です、と断った。

 視力検査では、これまで経験のなかった検査機械で、もう見えないと思ったらボタンを押してください、と言われていて、まだ見えそうで、見えるような、でももう面倒くさいと思って押した。

 そうしたら裸眼の視力が出て、「1・0すごいですね」と、その担当の女性スタッフに言われたが、2年くらい前に近所の眼科では「1・5」で、その視力が自分の密かな自慢になっていたことに改めて気づく。「1・0」は、年齢としては見える方かもしれないけれど、なんだかがっかりして、もっと粘れば良かったのかなどと後悔に襲われていたのだけど、すごいと言ってくれるので、ありがとうございます、とさらに弱々しく答えただけだった。

 最初の受付で、検査のオプションを提示されていたけれど、今回は、ごく基本的な検査だけにしていて、1時間くらいは経っていたと思うのだけど、最後は医師による問診だった。

 ここも女性医師だった。胸に聴診器を当てられ、異常がないらしいことを伝えられ、何かありますか?と聞かれ、気になっていた頻尿のことを尋ねた。

 するとスムーズに淡々と答えが返ってきた。睡眠時に3回も4回も起きてしまうのは、まずは頻尿だと指摘され、考えられるのは前立腺肥大ですね、と告げられた。

 そうかもしれない、と思って、御礼を言って、診察室を出た。

 これで今日の検査は全て終了だった。

 とてもきれいで、近未来のような空間で新鮮だったのだけど、なんだか緊張もし、微妙に疲れた。

合理的なシステム

 検査を受ける側が移動をして、検査を受け続ける。それは、私にとっては初めてのシステムだったのだけど、大勢をいっぺんに健康診断をするには合理的な方法だと思えた。

 そして、この健康診断の場所のスタッフは全員女性だった。医師も女性だった。

 健康診断を受ける側は男性が多めだったけれど、女性も少なくなかったから、勝手に考えたのだけど、もしスタッフが男性で、医師も男性だった場合、女性の被験者にとっては抵抗のある人もいるのではないか。逆に、私もそうだが、男性の被験者の場合は、スタッフや医師が男性でも女性でも大丈夫な気がする。

 その感覚には、社会的な構造の様々なことがからんでいるのかもしれないけれど、何しろ、現状に適合した合理的な方法だと思えた。

 健康診断も、人数を大量に検査を受けるようにした方が、病院の経済的にも正解だろうし、検査を受けてもらう会社にとっても、もしかしたら個人の病院よりも値段が安いのかもしれない。

 それは邪推に過ぎないのだけど、そんなことまで思ってしまった。

日常

 もう一度、ロッカールームのような場所で着替えて、荷物を整理して、着ていた検査着を、使用済みの方のボックスに入れて、最初の受付に戻る。

 やはり乳白色の空間で、印象はさっきまでいた健康診断の場所と変わらない。

 結果については、後日、郵送いたします、と言われ、御礼を言って、その場所を去る。

 ビルの上階から降りて行って、街に入る。

 日常に戻ってきた気がした。


 後日、大きな封筒が届いた。その表には「重要至急開封」とあり、私が外出中に届いたので、妻は心配したようだった。帰ってきてから開けたら、コレステロールだけが少し高かったのだけど、今回の検査での項目はあとは問題がなかった。

 それは、やっぱり安心できることだった。





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おちまこと
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