読書感想 『シニア右翼 日本の中高年はなぜ右傾化するのか』 「すでにあった現象の明確化」
ここ数年、あちこちで見聞するようになったのは、スマホを手にするようになった高齢になった親に会いに、久しぶりに実家に戻ったら、外見は変わらないようだったのだけど、話をしたら驚くほどの変化があった、という話だった。
そして、その言動は「ネット右翼」といわれてもおかしくない変化で、その生々しい体験を本にした著者がいて、分断から理解に至るまでの親子関係というものまで考えさせてくれる優れた作品で、紹介させてもらったことがある。
それは、とても個人的な話でありながら普遍的なことでもあったので、これで、シニアになってからの右傾化というのは、かなり理解できるのではないかと思えるほどだったのだけど、実は、まだ、実際の現場を明確にしつつ歴史的な視点から考える、という大事な部分をわかっていなかったことを、貴重な経歴を持った著者・古谷経衡によって、改めて見せられた。
読んでみないと、その部分を理解していなかったことに気がつけなかった、と思う。
『シニア右翼 日本の中高年はなぜ右傾化するのか』 古谷経衡
著者が、2010年代以降の「保守」の世界に詳しいのは、20代で「保守論壇」にデビューし著書も出版し、その後、その論壇に失望し、そこから出る、という経緯をたどっているので、近い距離でも知っているし、その世界をふかん的に見ることもできるからだ。
そして、少しでも考えてみれば、「保守論壇」の世界に今もいる人は、詳しいのは当然だけど、そこを批判的に見るのは難しい。また「保守論壇」の世界の外にいる人には、その内部のことは、当然ながら、よくわからないはずだ。
だから「ネット右翼」といったことが注目されるようになった2010年代以降で、著者のような経験と、分析や解釈もできる能力を持った人は、とても貴重なのではないかと、今回、この著書を読んで改めて思った。
「保守論壇」
このことは、他の分野であれば、ごく普通のことかもしれず、いわゆる新入社員であれば、さらに若いのも通常であるのだけど、この20代で論壇に入ったことの意味が、とても大きいことを、著者自身でも、入った後により理解していく、というような状況だったようだ。
書籍を読むとき、その内容によっては、著者の年齢を確認することも少なくないが、保守系言論人の年齢が、これだけ高齢化していることは、こうして伝えてもらわないと、あまり気がつかなかった。
このことは、久しぶりに実家に帰ると、高齢の親が「ネット右翼」になっていた、という見聞した話とも符合していると思う。
そのために、「保守論壇」の世界で注目を集めるのも早く、だからこそ、この世界をよく知ることになった、とも言えそうだ。
「保守界隈」
その上で、著者がコメンテーターをつとめていたネット番組のことは、のちにそこから離れるだけに、時間が経つほどに、あまり「いいエピソード」はないようだった。
例えば、著者よりも若い貴重な言論人は、こうした状況だった。
さらに、アラフォーのコメンテーターの状況にも厳しいものがあった、という。
そして、著者は「保守論壇」を去ることになるのだけど、その間の経験によって、そうした番組を支持する層も見てきて、構成する人たちの具体的な像を明らかにしていることは、時間が経つほど重要な意味を持つようになってくると思う。
「シニア右翼」になる理由
「右翼とは何か?」「保守とはどんな立場か?」。そのことを、歴史を踏まえて考えれば、現在の「ネット右翼」と言われるような人々は「保守」とも「右翼」とも言えないのではないか、と著者は指摘しながらも、「シニア右翼」になる主な理由として、テクノロジーに関することと、思想的なことの2つを挙げている。
書籍や雑誌も買ってはいるが、それで必ず読んでいるとは限らないのは、著者自身の体験でわかっていたようだ。
そして、どうして「動画」によって、「シニア右翼」になるかと言えば、一つには、「動画」に対してのリテラシーの問題があるという。
さらに、思想的な理由としては、もともとの戦後日本のあり方、という大きい環境も関係しているという指摘もある。
それについては、戦前から戦後にかけての歴史を具体的に振り返りつつ、大づかみでもありながら、それゆえに、大きな流れが見えやすい視点を提示している。
こうした指摘だけを読み、乱暴だと思う方ほど、できたら本書を手に取って全体を読み通していただきたいと思います。
かなり説得力があるだけに、現実の厳しさと、変わらなさをより強く感じ、気持ちは暗くもなるのですが、まず、現実をなるべく正確に把握したい方や、「親がネット右翼になってしまった」という方にも、オススメできると思います。
(こちらは↓、電子書籍版です)。
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