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湯沸かし器の見積もりで、喜んでしまった日

 10年以上、使ってきた台所に瞬間湯沸かし器が、突然、調子が悪くなった。

 とはいっても、外見も一部欠けてきたし、仕方がないと思いながらも、一応は、修理を依頼することにした。

 修理のスタッフが2人もきてくれて、あれこれ確認してもらったが、結局は、すでに部品もなく修理もできず、買い替えることになった。

 ただ、その値段によっては、うちが貧乏なため、湯沸かし器を新しく買うのをあきらめ、また水道だけの生活になることも覚悟していた。

 見積もりの人がきてもらうのは、修理が無理だと思ってから約1週間後に決まっていた。


示されていた高い金額

 もう、10年以上前のことになるのだけど、今回、壊れてしまった瞬間湯沸かし器を新しく買ったときに、やってきたガス会社の人から、ちょっと困ったような顔で言われたのは、ガスの配管のことだった。

 今住んでいる家は、古い木造で築50年以上は経っているはずで、そのせいか、あちこちの設備が古いシステムのままのようだ。

 台所も、ガス台につながるガス管は、わりとすぐそばにあるから問題ないようだったのだけど、湯沸かし器につながっているガス管は、ビニールのホースを使用していて、しかも、それが長すぎると指摘された。

 安全面を考えたら、湯沸かし器のそばまでガスの元栓を移動するべきで、そうなると、湯沸かし器の買い替えだけではなく、別の工事が必要になる。そんな話をされたものの、その時は、湯沸かし器の料金で精一杯だったので、今回、まだ大丈夫であれば、湯沸かし器だけを替えてください、とお願いをするしかなかった。

 それで、さらにその取り替えに来てくれたスタッフに話を聞いたら、ガスのシステムに関して、いろいろと話が広がり、今も、お湯を沸かす風呂がまは、浴槽の隣で手でひねって点火する昔ながらのシステムのままだったことにも触れた。

 だから、おそらく、その時は、家のガスのシステムそのものを全部取り替えたほうがいい、といった話題になったのは、ガス会社の営業としては、とても正しい姿勢だとは思うのだけど、そうした全部をかえることになると、という仮定で、かなり大雑把で、という断りが入ったものの、そこで示された金額は、何十万という単位だった。

 今回、壊れた湯沸器を購入したときは、今のホースで使うのもギリギリ赦されたのかもしれないけれど、次に買うときは、いろいろとかえなくてはいけないこともわかっていた。

 だけど、その時に示された何十万円といったイメージだけが残っていて、だから、今度湯沸器が壊れたら、そんな金額が払えずに、また湯沸かし器のない生活に戻るかもしれない、という話は妻としていた。

 今は、まだ気温が高いから、ひげそりなどで熱いお湯が必要なときは、やかんでお湯を沸かしたり、もしくは保温ポットに入っているお湯を使って、なんとかすればいいなどと思えるけれど、これから寒くなり、食器を洗うときに、これまで当たり前のように使っていた湯沸器がなくなれば、その度に熱いお湯を準備しなくてはいけなくなって、それは、想像以上に面倒臭いことは想像ができた。

 だけど、あまり高額だと、うちの経済力では、とても払えない。

 だから、見積もりの日まで少し緊張して過ごしていた。

電話

 その日のほぼ予定通りの時刻に電話があった。

 これから伺いますが、大丈夫でしょうか?

 そういった丁寧な内容だったのだけど、その女性の声や話し方で、豊富な経験を積んだベテランだと思ってしまい、そのことを妻にも伝えていた。

 そうしたら、やってきた女性スタッフは、かなり若い人だった。声で、物事に動じない気配を感じていた。失礼な話だけど、完全に違っていて恥ずかしく、その見誤ったことを、妻にこっそりとあやまった。

 台所で、湯沸かし器を見て、ガスの配管を確認し、テキパキと作業は進んでいるようだった。

 やっぱり、ずっと緊張していた。

見積もりで、喜んでしまった

 一通りの確認が終わったようで、スタッフの女性は説明をしてくれた。

 落ち着いた話し方だった。

 湯沸かし器の本体は、修理はできないので買い換えになること。

 そして、ここからがこちらにとっては問題だった。説明は丁寧に続く。

 まず、今使っているゴムホースは使えないこと。使うにしても、いってみれば強化ホースを使用しなくてはいけないのだけど、今回は、ガスの元栓から湯沸かし器まで距離が長過ぎて、それができない。

 だから、室内でガス管を長くして、元栓を湯沸かし器のそばに新たに設置しなくてはいけないから、そのための配管工事が必要になって、費用もかかること。

 ここまでの説明はわからない点はなかったし、だから、問題は、いくらかかるかということだった。

 全部を含めて、10万円台でなんとかなるらしい。

 うちにとっては大金で、また貧乏が進むのは間違いないにしても、昔の記憶によって、もっと高い金額、30万円とか、さらには、50万とかの金額がかかることも覚悟していて、その際は、湯沸かし器をあきらめよう、という話を妻としていたから、それなら、なんとかなると思った。

 ここまでのことは、私一人で対応していたのだけど、このタイミングで、他の用事をしていた妻が、台所にやってきた。

 心配そうな表情の妻に、見積もりのだいたいの金額を伝えた。

 ほんと。やったー。

 妻は、小さく飛び上がって、喜んでいた。

 30万、もしくは50万などいう金額も覚悟していたから、提示された金額もうちにとっては大金なのに、ほっとしたのだと思う。ただ、どうやら、妻の記憶では、私が「100万」という数字も口にしていたから、怖ささえ感じていたらしい。なんだか、申し訳ないが、だから、うれしかったようだ。

 これからも湯沸かし器のある生活が続けられる。

 私も実際に支払うことを考えると気持ちが重かったが、それでも、その金額だったら支払うことを決めた。

 ガス会社のスタッフに、工事をしてくれることをお願いし、それでその日は、ガスのことは終了した。

 やっぱりほっとした。

 工事は、また1週間後に決まった。

 それなりの見積もりの金額で、喜んでしまったのは、初めてだった。

 それにしても、昔、示されたあの高額な金額は、なんだったのだろうと思った。それは、この古い家の昔すぎるシステムを見て、それを全部変えるための金額だったのだろうか。

 少し不思議だった。




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おちまこと
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