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【短編集】 誰でもない誰かの話

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音楽に乗せて読み進める暗がりに転がった 小さなストーリーを書いています。 少し未来が見える話たち
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#猫のいるしあわせ

【短編】港町の真っ白

【短編】港町の真っ白

【朝】
薄暗い冬の朝が好きだ。
雪が降るのならなおのこと。耳鳴りのするくらい静かな空気の日はとても落ち着く。波の音も穏やかでいて心地良いのだ。
羽毛布団と毛布の間に、猫がいて。僕が起きようとするのを拒む。それもまた好きで、君となら一生一緒にいようと思う。猫の名前は、スノー。真っ白だから。目が緑と青だ。僕と一緒で左右の目の色が違う。僕の目は、茶色と青だ。
僕は、あまり人から目を見られたくないから出か

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【短編】いびつ 〜彼女と僕とその猫の〜

【短編】いびつ 〜彼女と僕とその猫の〜

僕の手に残ったのは、力強く脈打つ静脈の感覚。儚くも虚しい恋は、もう二度と誰かを愛することを許さないと、僕を締め付けるのだった。

歪む愛の形。

愛が歪んでいるんでしょうか。僕が好きな人は僕を半分だけ愛している。体と心ならば体の方と言えるだろう。何度抱き合おうともそれはとても歪だった。仕方なく、そうしているとでも言いたげで。

「明日は雨らしいです。傘、ちゃんと持って行ってください。」
彼女にそう

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【短編】独立靴下よ永遠に【前編】約4000字

【短編】独立靴下よ永遠に【前編】約4000字

誰でもない誰かの話

また無くした。
かと言って誰に責められることもないので、ふっと笑って然るべき場所に投げ入れた。

相方を無くした。
そんな気分だろうか。多分10足くらい。片方になってしまった靴下の群れは行き場がなくそこにいる。

その群れの中、どれひとつとしてペアを成立させることはできない。だが、偶然にも偶数である。

他の洗濯物は律儀に角を揃えて形を整えてたたむのに対しそれだけは無造作に投

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