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夏目葉月
2019年5月4日 02:31
目の前にそびえ立つ、皆が待ち合わせの場所にするであろう高すぎる建物を見て、少女はこの建物になら殺されてもいい、今ここで、この大きな大きなビルが倒れてきても私は逃げないだろうな、と思った。今ここで死んだってよかった。何か、きっかけがあればよかったのに。一言でもよかったのに。一言、「もう会わない」と言ってくれさえすれば、私は自由になれたのに。これが小説や漫画なら、何年後かに再会を果たしたりするのだろ
2019年5月6日 23:55
東京タワーのてっぺんに、爆弾を片手に持った少女が立っていた。初夏といえどまだ真夜中は寒かった。上着を着てくればよかったと少女は思った。ここ、東京には、あの人と来るははずだったんだ。そう言ったはずだった。夏はどうしたってあの人を思い出させる。あの人との思い出しかないから。少女は東京タワーのてっぺんから、まだちらほら見える人間を見下ろす。ほとんどの人がスマホを片手に俯いている。空を見上げている人なん
2019年5月20日 18:15
こんな夢を見た。あの少女を見つけたのは、神社からの帰り道、海辺でのことだった。いつの間に海ができたのか、いつもとは違う帰り道にやって来てしまったのか、そもそも海なんて不意にできるものなのかわからなかったが、いつも通り神社からの帰り道に、僕は少女を見つけた。少女は白いワンピースを着て、麦わら帽子をかぶっていた。その下は多分、長い黒髪に白い肌。そしてサンダルを履いて、海辺に立っていた。僕はつい見とれ
2020年2月20日 18:26
あの日からずっと、私は寂しくて寂しくて仕方がない。もう面倒になって、いつものように手放した。それなのに、寂しくて狂いそうだ。あの曲を聴くと鮮明に思い出す、あの頃の匂い。あの街の、あの夜の、あのホームの、あの人の匂いが、まだ忘れられない。少女は、自分の気持ちを終わらせる為に好きだったと送った。春が匂い出した、真昼間だった。読まれても、読まれなくても、伝わらなくても、もうなんでもよかった。これで
2021年1月31日 23:36
それはよく晴れた春の日だった。父が死んだと電話を受けた時、私はまさに辛ラーメンを食べようとしていた。私は「そう」とだけ言い、電話を切った。そして出来立てほやほやのラーメンを伸びないうちに食べた。世間的にみると不謹慎かもしれないが、人なんて一日に何人も死んでいる。ただそれが父親という、名だけの身内なだけだ。もう何年も会っていない私には関係のないことだった。例え血を分けた親子だとしても、過ごした思い