第二夜

 こんな夢を見た。あの少女を見つけたのは、神社からの帰り道、海辺でのことだった。いつの間に海ができたのか、いつもとは違う帰り道にやって来てしまったのか、そもそも海なんて不意にできるものなのかわからなかったが、いつも通り神社からの帰り道に、僕は少女を見つけた。少女は白いワンピースを着て、麦わら帽子をかぶっていた。その下は多分、長い黒髪に白い肌。そしてサンダルを履いて、海辺に立っていた。僕はつい見とれてしまって、うっかり手を触れてしまった。少女は特に驚いた様子もなく、ゆっくりとこちらを振り返り、「どうしたのですか?」と聞いた。僕はとても驚いた。その顔が、小さいころによく遊んだ、好きだった女の子によく似ていたから。とはいっても、その少女の歳は僕と同じくらいだと思うが。
「えっと、いや、別に、その、」
 驚きのあまり、しどろもどろになっていると、少女はクスッと笑い、「よかったら、少しお話しません?」と言った。
 僕たちは海辺を並んで歩いた。海岸には終わりが来るはずなのに、不思議なことにいつまでも続いた。それをいうと彼女は、たまにはそういう場所があってもいいじゃないですか、と笑った。僕は彼女と話している間中ずっと、あの女の子のことを考えていた。確かあれは小学生のころだ。こういう海辺でほとんど毎日のように一緒に遊ぶ女の子がいた。すごく楽しかった。好きだった。でもあの日、あの大雨の日。その日も僕たちは二人で遊ぶ約束をしていた。でも、生憎の台風で、僕は親に止められていけなかった。あの子もきっと、この雨じゃ家にいるだろう。そう思った。今日、言おうと思っていたことがあるけど、また明日言えばいい。でも確か昨日、僕はあの子にこう言ったんだ。伝えたいことがあるから、明日は何があっても絶対にここに来て、って。
「あの、聞いていますか?」
 気がついたら、彼女の綺麗な顔が僕の真ん前にあった。
「もう、聞いていませんね。どうしました?もう帰りますか?」
「待ってくれ!まだ、まだ、一緒にいてくれ」
 僕は急に必死になって、彼女に腕を強くつかんだ。なぜだろうか、彼女とはこれきり、もう会えないような気がした。
「そんなに強く握らなくても、私はどこへも行きません」
 と、彼女は笑ってそっと、僕の手を離した。
「でも、いつまでもはいられませんね。私はもう、いないのだから」
そう言った寂しい笑顔を最後に、僕の最後の叫びも虚しく、ぼろぼろと、彼女は崩れ、僕の視界は歪み、僕は目を覚ました。


 次の日、これで最後にしようと思い行った神社の帰り。ふと思い立って今は立ち入り禁止となっている海に行ったら、そこには誰かが落としていったと思われる麦わら帽子があった。

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