そして少女は

あの日からずっと、私は寂しくて寂しくて仕方がない。もう面倒になって、いつものように手放した。それなのに、寂しくて狂いそうだ。あの曲を聴くと鮮明に思い出す、あの頃の匂い。
あの街の、あの夜の、あのホームの、あの人の匂いが、まだ忘れられない。


少女は、自分の気持ちを終わらせる為に好きだったと送った。春が匂い出した、真昼間だった。読まれても、読まれなくても、伝わらなくても、もうなんでもよかった。これで終わりだ。全部終わりだ。好きだった。それでいい。それが全てだ。
既読と返信は思ったよりも早かった。
「そうだと思ったから返信をやめた。俺はふさわしくないから」
怒りが先にきた。けれど、手は動いてしまう。もう全部終わりのはずだったのに。こんな時だけ誠実なふりをして返事なんてしないでほしかった。


本当はもしかしたら自分から手放したんじゃなくて、もうとっくになかったものをあると信じていて、自分から手放したと思いたいだけなのかもしれない。もうよくわからないけれど、寂しくて寂しくて、ずっと寂しいことは確かだ。それだけは今でも鮮明にわかる。


少女と男は初めて電話をした。長い長い時間に感じた。寒かった。2月の終わりだった。
「卒業式が終わって、もしよかったら連絡して」
それは全てを少女に委ねる言葉だった。自分からは拒否をしない。今ならわかる。自分が傷つかずに、相手を遠ざける方法だ。俺は君が会いたかったら会う。けれどそれ以上にはならない。そう言っているのがわかった。伝わった。だから少女は足掻いてみたくなった。惨めだと思った。けれどもう遅い。もう、私はとっくの昔から惨めだから。
けれど、突然ぷつっと糸が切れる。あんなに好きだったのに、もうどうだってよくなってしまった。だから少女は卒業式の日、もう会わないと連絡した。返ってきたのはスタンプ1個だった。なんて、あっけない。ロマンチックでもなんでもない、ただのどうでもいい話だった。これ以上は、時間の無駄だ。

▫︎▫︎▫︎

いつになったら、忘れられるのだろう。あれからもうすぐ1年が経つ。私は全部を忘れたい。あなたと、あなたの思い出、あの街、あの場所、あの歌、全部を消したかった。そうすれば私はもうふとした瞬間に思い出したりして、息苦しくなったり、悲しくなったり、寂しくなったりしなくていいのだから。早く全部を消したい。思い出だけは綺麗だなんて思えない。早く、早く、早く、消えてくれ。
けれどそんなことは無理だとわかっている。出会ってしまった時点で終わっていたのだ。
面倒だと手放した。あそこで会っていれば何かが変わったか。思い出を抱きしめることができたのか。そんなことはもうどうでもいい。何も消えてくれなかった。消せなかった。もうどうしようもないのだろう。忘れられないのならそのままで生きていく。それは諦めにも似た、小さな覚悟。どうかしてた、と言えるくらいには忘れたし、そんなもんだ。この話はロマンチックでもなんでもない、リアルで陳腐な話だ。大丈夫には一生ならない。思い出は消えないし忘れられない。そのままで生きていくしかない。それはおそらく、端からみれば悲しい人だ。寂しい人だ。辛そうだ、苦しそうだ。けれど、もうそうしなければ、生きていくことなんてできない。


爆弾は今でも、少女の手の中に。

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