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ランドマークと少女と
目の前にそびえ立つ、皆が待ち合わせの場所にするであろう高すぎる建物を見て、少女はこの建物になら殺されてもいい、今ここで、この大きな大きなビルが倒れてきても私は逃げないだろうな、と思った。今ここで死んだってよかった。
何か、きっかけがあればよかったのに。一言でもよかったのに。一言、「もう会わない」と言ってくれさえすれば、私は自由になれたのに。これが小説や漫画なら、何年後かに再会を果たしたりするのだろうか。もしくはこの物語の終わりに、連絡がきたりするのか。しかしながらそんな奇跡のようなことが起こったとして、何年後かでは全く意味がない。たとえ今連絡が来たとて、一度抱いたこのどうしようもない寂しさと悲しみにはなんの効果もない。
少女は初めて見る都会の景色に、ただただ寂しさだけを感じていた。
連絡が途絶えることはよくあった。そういう人なんだと言い聞かせていた。2週間、3週間と時が過ぎ、電話をかけても繋がらない。そのまま、5ヶ月も経ってしまった。何度も連絡して、電話をして、もうわかっていた。もう連絡は来ないし電話にも出ない。それでも、理由だけがわからなくて、伝え損ねた私の気持ちだけが置き去りになって、どうしようもなくなった。こんなことになるなら、絶対に繋がる連絡先を聞いておけばよかった。家に誘われた時、すぐに行けばよかった。余計な駆け引きなんていらなかった。もっと早くに気持ちを伝えていればよかった。楽しんでいる暇なんて、なかった。
今でも、思い出そうとするともうどうしようもなくなっておかしくなりそうだ。大好きだった映画館には行けなくなった。あの人とのことを思い出すからだ。観る映画は決まって私が観たいものだった。思い出の場所、なんて腹立たしいけど、あの街に行くといつでも探してしまう。待ち合わせには必ず遅れてきたり、上手く出会えなかったりした。その度に、もやもやさせられたけど待つこと以外の選択肢はなかった。誘ってきたと思えば風邪をひいた、夜勤だったとドタキャン。ご飯は必ず私が食べれるものを選んでくれてさりげなく払ってくれた。歩くのは早くて、追いつくのに必死で手を繋いで歩くなんて夢のまた夢だった。スマホを新幹線に忘れて約束をすっぽかす。それでも好きだった。