見つけてくれ、隠れミッキーを!/After going to Disney !
ディズニーランドは糞もかりんとうになるような夢の国だった。パークの中央に悠然と建つシンデレラ城は、巨大なおもちゃが空に張り付いているように見えたし、放射状に伸びる街並みはパリの凱旋門を模していて洒落ていた。二足歩行のネズミが人間に愛想を振りまき、季節外れに咲いた花々の香りを妖精が運び、ポップコーンやチュロスの甘い匂いで鼻くそがこんぺいとうに変わった。身も心も軽く感じたのはブーツに羽が生えたからなんだろう。そう思えるくらい、夢の国であった。
「隠れミッキーいるかなぁ」と、友達の井上が目を輝かした。井上は前日から隠れミッキーを沢山見つける!と息巻いていた。
そこで僕は考えた。自分の身体にミッキーマークを油性ペンで描いて、井上ともう一人の同行者の荒木に見つけてもらおう!と。自分自身がパークのギミックになるという発想だ。井上の意気込みに応えつつ、自分自身も能動的にディズニーを楽しみたいと思った。
あるよ!あるよ!ここにあるよ!!
すぐに腕時計の下に描いたミッキーを見せたかったが堪えた。二人が発見してこその隠れミッキーである。自己申告したらそれは単にミッキーの落書きじゃないか!だから少し大袈裟な素振りで腕時計を見て、ミッキーマークをちらつかせた。
けれど話題はすぐに逸れてしまった。残念。でも一日は始まったばかり。まだチャンスはある。
しばらく無目的に園内を散策していると「こういう所にあるんだよなぁ~」と井上が再び話題に上げた。荒木もキョロキョロした。再びチャンス到来である。
僕はさっきより極端に腕を振り、二人の視界にミッキーが入るように大袈裟に身体をビシッ!と捻った。
二人はまったく脈絡のないタイミングで時間を気にしてる僕を不自然に思うだろう。その小さな違和感が観察眼を育み、僕の手首のミッキーを見つけるはずである。完璧な計算だった。
そして荒木が僕の手首を一瞥して、いよいよ口を開いた。
「そろそろ美女と野獣の時間ですかね?」
嘘だろ!?気付かねぇのかよ!!ホクロだと思ってるのだろうか、それともチョコチップにでも見えたか。ここ夢の国だし。
その後も何度か挑戦したが、全く見つけてくれる気配はなかった。
業を煮やした僕は諦めて、次の機会に自分で発見するという大芝居を演じた。
「隠れミッキーねぇ…、ん?あれ!?あれれ!?!?ここにいるよ!!!」
ウケた。まことに自作自演も甚だしいが、めっちゃウケたのだ。二人は破顔し、僕も一緒に笑った。僕たちの笑い声は天まで響き、雲が割れるんじゃないかってくらい笑った。そこから射した光がウクライナを照らせばいいと思えるほどにピースフルであった。
全身五ヵ所に仕込んだ隠れミッキ―だが、それ以降は取り立てて話題に上がることも少なく、僕たちはディズニーを思い切り楽しんだ。隠れミッキーに頼らなかったことがディズニーを楽しんだ何よりの証な気もする。
後日、最後まで披露することがなかった尻の割れ目に仕込んだ隠れミッキ―は、トイレットペーパーで拭き取った。
夢の欠片はかりんとうにならない糞と共に水に流れ、僕のディズニーランドは終わりを告げた。
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