最初の記憶(400文字)
はじめて世界で独りぼっちだと感じた不安の痕跡。
旅先のトウモロコシ畑で姉妹や従兄弟とはぐれてしまい迷子になった。僕を囲ったトウモロコシの稲は、まだ幼い僕の前に壁のように高くそそり立ち、そのせいで夏の空は青いのに、辺りは狭くて暗かった。稲が密集しているせいで先は黒く、通り風で擦れる葉の音が胸を潰し、闇雲に進むとより独りぼっちになる気がして足がすくんだ。広大に思えるトウモロコシ畑の中で、僕は小さくて無力だった。
気づくと、どこからか母の声が聞こえた。僕の名前を呼んでいた。モノクロームに沈んでいた心に彩りが満ちた。青々とした稲をかき分け、声のする方向に自然と足が進んだ。その先に、母の笑顔があった。
母は僕や姉妹、従兄弟たちをベンチに並べて写真を撮った。カメラを向ける時も、やっぱり母は笑っていた。
これは、母の微笑みがまだ世界のすべてだった頃の、未熟な喜びの痕跡でもある。
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