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暮らしの断想 

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#記憶

一人称を巡る問題 その2

一人称を巡る問題 その2

 幼稚園で"ワス"と名乗ることに決めた僕は、小学校に入学しても変わらず名乗り続けた。

 まだ常識を知らない同級生は"ワス"をすんなりと受け入れ、イジメを受けることなくクラスに溶け込んだ。

 しかし小学校生活も五年が過ぎるとワスの心に変化が生じた。
 自分だけが違う一人称を名乗ることが堪らなく恥ずかしくなったのだ。"オレ"を名乗るイケてる友達が羨ましかった。

(なんで"ワス"なんて言い出したん

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一人称を巡る問題 その1

一人称を巡る問題 その1

 幼稚園の頃、ふと一人称に気がついた。

 園内のお友だちは皆んな、ぼく、おれ、わたし、或いは自分の名前を名乗っていた。

 それに気づくまでの自分が何を名乗っていたのかは記憶にないが、

 自分はなんて言ったらいいんだろう、、

と、4歳の僕は突如として決断を迫られた。一度名乗ったら死ぬまでその一人称を使い続けなければならない、それくらい重要なことのように感じられた。人生で初めての重大な決断であ

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最初の記憶(400文字)

最初の記憶(400文字)

 はじめて世界で独りぼっちだと感じた不安の痕跡。
 旅先のトウモロコシ畑で姉妹や従兄弟とはぐれてしまい迷子になった。僕を囲ったトウモロコシの稲は、まだ幼い僕の前に壁のように高くそそり立ち、そのせいで夏の空は青いのに、辺りは狭くて暗かった。稲が密集しているせいで先は黒く、通り風で擦れる葉の音が胸を潰し、闇雲に進むとより独りぼっちになる気がして足がすくんだ。広大に思えるトウモロコシ畑の中で、僕は小さく

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