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菊池謙太郎『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』

本書は『ラップスタア誕生(現:ラップスタア)』のディレクター・菊池謙太郎によるインタビュー集である。インタビュイーとなるのは菊池と親交のある10名のラッパーたちで、彼らの子供時代のエピソードが中心に語られている。菊池は本書を制作するに至った経緯を以下のように述べる。

番組のためのインタビューというのは、ある程度できあがりを想定して質問を投げかけ、撮れた中からキャッチーな部分を採用し、なるべく的確にラッパーの魅力が伝わるように取捨選択をしていくことになります。
(中略)
僕はいつからか、それらが日の目を浴びないことを残念に思うようになりました。特に子供の頃の話には興味深いエピソードがいくつも見つかりました。

前述の通り、「子供時代のエピソード」というテーマは共通しているものの、話していくうちに話題は多方面に広がっていく。家庭環境、出自、仕事、学校生活などなど。語られる内容は十人十色でありつつも、どのインタビューも創造の源泉を掘り当てているように感じた。

中でも印象に残ったのはTOFUのインタビュー。トラックメーカーである盟友・ホムンクルスとのエピソードには思わず吹き出してしまうような内容が多く、自分が思い描いていた人物像とギャップがあって面白かった。もちろん笑えるだけではない。サイファーを通じて親睦を深めていき、互いの信じる道に向かって結託していく展開には胸が熱くなった。地元でバカにされていた2人が、今やシーンの中心で活躍しているというのは痛快極まりない。本書を通じて最も印象が変わったラッパーだった。

登場するラッパー全員に共通して言えるのは、音楽と出会ってから人生が好転しているということ。コンプレックスがあっても、劣悪な環境に身を置いていたとしても、マイク1本で人は生まれ変わることができる。いつの時代であっても、ヒップホップは声なき者に声を与える音楽であり続ける。


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