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鈴を持つ者たちの音色 第五十八話 ”大獣?②”

大獣はキックス①を海底に打ち続けていた。

キックス①の身体はなぜか可動停止状態だという。
キックス②:「どうして動きが止まったのだ?」

キックス②は考える。
今行けば同じ目に合う。

しかし、キックス①を放って置けない。
既に何度も地面に打ちつけられ顔が変形してきた。イケメン顔が。

キックス②:「海の中‥海水‥電力‥、?」

その時1匹の深海魚が大獣の頭にぶつかった。
大獣が蚊を振り払うように1匹を振り払った。

キックス②はすぐにキックス①へ″念伝″する。

キックス②:「(おい。大丈夫だろうな。何となくヒントを得たぞ)」

キックス①:「(おお‥兄ィ‥。段々と頭が働かなくなってきた。早くたのむよ)」

キックス②:「(さっきな。一匹の深海魚が大獣の頭にぶつかったんだ。これが何を意味しているかわかるか?)」

キックス①:「(そんなことあるわけないでしょう。兄ィの見間違いじゃないの?)」

キックス②:「おまえはー、怒。ほんとにひょうきんなやっちゃなぁ。今、言った言わないのやり取りしてる暇なんてないんだ!素直に聞け。
いいか。魚の側線器官が働いていない、ということは大獣が何かしらのものを発している証拠だ」

キックス①:「‥‥圧力変化だな。水流や水圧の圧力変化。尻尾を巻きつけられて海底に打ちつけられながらずっとヤツを見ていたんだ。

なぜ大獣はずっと海中にいても息が続くのか。
なぜ大獣はこんな海の底にいてもこんなに速く動くことができるのか。いや、息も動作もむしろ扱いやすく弄っている。じゃなきゃこんな動きはできない。
大獣は元々海の中に生きていた。そうに違いない」

キックス②:「ヒントは答えになったな。ヤツは素早く動く時は自分の水圧を軽くし、お前には尻尾を巻きつけ水圧の重みで動きを封じていたんだ」

キックス①:「理論はわかった。あとはどうやってこの水圧を軽くできるか。だ」

キックス②:「さっきの様子で気になった点がひとつある。ヤツは小さなたった一匹に対して手をあげた。振り払った。″コツン″とだよ。コツンとしかヤツには当たらなかった。
それなのにヤツは手をあげた。

そしてその振り払った手は一匹に当たらなかった。一匹はその手ににも気付かずにそそくさと逃げていったよ」

キックス①:「兄ィ。その当たった部分はどの辺だった?」

キックス②:「うん。耳のあたりだ」

キックス①:「大獣は耳で水圧を感知している。だなっ」

キックス②:「同意!」

大獣の尻尾はひとつ。
素早い尻尾ほど両腕は速くない。

キックス②:「耳を切り落としにいく。おそらくどちらか一方だけで済むだろう。ヤツは俺を捕まえようとする。その時に尻尾を離すはずだ。その時に逃げろ。逃げて巡回員グリーンを救出してくれ」

キックス①:「‥耳を切り落とす?そんなことしたら大獣は海の中で能力を失うじゃないか?」

キックス②:「わかっていることを確かめるな。その為に切り落とす」

キックス①:「ダメだ。そんなことをしたら!」

キックス②:「お前!何言ってる?助かりたくないのか!」

キックス①:「兄ィ。ダメだ。違う方法はないの!」

キックス②:「…おまえ。頭打たれておかしくなったか?」

キックス②は大獣に向かおうとした動きを止めた。

キックス①:「いや。何か違和感を感じるんだ。ヤツの気配。。悪いヤツじゃない気がして‥」

キックス②:「はぁーん?殺されかけているのにかぁ?…うーん…わからんわからん」

キックス①:「兄ィ‥。俺、思いついちゃった…」

キックス②:「はん?何を!(怒)」

キックス①:「戦わなくて良い方法さ」

キックス②:「はん?そんなのあるのか?(怒)」

キックス①:「試してみようよ…″アタッチメント″を」

キックス②:「ゲッ。″アタッチメント″!」

キックス①:「そうさ。ちょいと図体はバカでかいけど、理屈からいったらできるだろ?」

キックス②:「…んー。理屈からいったらそーだなぁ…。ってか、お前すごいな!俺、そんなこと思いつきもしなかった。お前の頭の中はどーして、そんなに落ち着いて物事考えられるんだよ」

キックス①:「わからない。頭打ちつけられたから良い案もうかんだのかもなー」

キックス②:「お前の頭、昔のテレビかよ」

キックス①:「あっ。それ、知ってるー。叩けばなおるってやつねぇー」

キックス②:「よし。お前のいう通りやってみるか。″アタッチメント″!
はじめてにしてはブツが大きすぎるけどな」

キックス①:「よし。やろう。取り込みはどっちがやる?」

キックス②:「さすがに身体が動かないお前には頼めないだろー。俺が取り込むよ」

キックス①:「よし。わかった。″アタッチメント″にはオートフォーカスで枠をとらえ、ロックオンするんだ。オートフォーカスには電波が必要だから水中では最低でもヤツとは3メートルの距離まで接近する必要がある」

キックス②:「ロックオンさえできれば、あとは背中のバックパックに取り入れるだけだ。
気掛かりなのは”取り入れた”後だ。
”アタッチメント″は別称”TORIKOMI”だ。
あんな大獣を取り込んだら人格どころか、あり余るパワーだって抑えきれるかわからない。
弟よ、もし俺がヤツに逆に、取り込まれたらその時は反動スイッチを押してくれ。
実体化する前に吐き出すから」

キックス①:「オーケー。何事にも副作用がある。この”アタッチメント″だってそうさ。命がけで挑むさ」

キックス②:「よし。行くぞ。ヤツに接近する!」

キックス①:「…」

キックス②は動いた。
そしてドレミの”ド”を大声で吐いた。

”ド”!!

吐き出した”ド”に乗る。

なぜか?

音波だ。

※音は空気中より、水中の方が伝導率が5倍の速さ。5倍の距離となる。何よりも誰よりも、速く動く為には”音”に乗る必要があった。

大獣が驚く暇もないほどの速さで3メートル以内の距離へ接近した。
オートフォーカスは既に起動している。
”ロックオン”!!

大獣はキックス②へ”アタッチメント″された。

同時にキックス①は巻かれた尻尾から解放される。

キックス①はキックス②の状況を確かめる前に直ぐに巡回員グリーンが閉じ込められている艦船へ向かう。

キックス①はドレミの”レ”の音を吐き出す。

キックス①は”レ”の音に乗り直ぐに沈みかけた艦船へ追いついた。
艦内から巡回員グリーンを見つけると急いで”アタッチメント″する。
巡回員グリーンを取り込んだのだ。

キックス①の身体は全体が緑色に変わり、少し潰れたイケメン顔は柔らかい優しい顔に変わった。

キックス①が大獣のいた場所へ戻る。

キックス②のビジュアルは勇ましいものに変わっていた。
身体の大きさは変わらないが、頭から足先までが毛だらけ、筋肉は隆々となり口には牙が2本下顎から鼻先まで突き出ている。ほぼ野獣と化した。

キックス②:「あー。力がみなぎる。早く誰かと戦いたくてしょうがないよ。あいつの心はいつもこんな感じなんだろーなぁ。悪どい感じは無い。ただいつも力を余しているんだ」

キックス①:「兄ィ。取り込みはうまくいったね。良かったよ!」

キックス②:「お前のおかけだ。なんかお前もイメージ変わったな。そうか。巡回員グリーンを取り込んだのか。確かに。その方が安全だものな」

キックス①:「よし。戻ろう。我らの”グランドライン”へ」

キックス②:「ああ。本当の戦争はこれからだ」



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