鈴を持つ者たちの音色 第五十七話 ”大獣?”
ミューマンにフュージョンしたキックス兄弟は艦に追いついた。
艦の中をミューマンの透視線(パーティクルン・アイ)で外側から艦内の状況を確認する。
いた。”アイツラ”だ。‥
キックス①:「残るは6体。艦の操作室に2体。広いブリッジに3体。艦尾に1体!」
キックス②:「巡回員グリーンの姿が見えない。なぜ透視線(パーティクル・アイ)にうつらないんだ?でも大体見当はつく。操作室にきっといる。」
キックス①:「兄ィ。艦尾の1体はきっと見張りだぜ。俺たちにもう気付いているかも知れない。早速やっちまっていいかい?」
キックス②:「ああ。いいぜ。俺はもう少し巡回員グリーンを探してみる。いいか。優先すべきは①巡回員グリーン
②艦
だ。くれぐれも艦を破壊しないように。
そのままの状態で返してやるんだ。隊長”GI(ジーアイ)にね。」
キックス①:「わかってるって。」
キックス②には小さいながら不安がよぎっていた。巡回員グリーンだ。
見つからないわけがなかった。ミューマンの透視線(パーティクル・アイ)はどんな構造物でも透視が出来る。
透視レベルをあげる。5段階の”3”に合わせる。それでも見つからない。
キックス②:「しょうがない。このままはじめてしまおう。」
キックス②は攻撃体制にはいった。
透視スイッチを変換モードに切り替える。
変換モードのダイヤルを回していく。身体が透けていく。
キックス②:「いいかい?”透かしモード”は長くても3分以内だ。これはバッテリーの消耗が激しいからな。気をつけろ。」
キックス①:「分かった。兄ィ。
バッテリーが消耗したら大変だ。
充電するには”静止タイム”が必須だからな。さすがに”アイツラ”を目の前に”静止タイム”は自殺行為だからなー。
気をつけるよ。」
※注)ミューマンの仕様書:バッテリー補充はセルフ単体で出来るが、それには時間を要する。1ミリたりとも動けば充電は遅くなる。あくまでも充電は”静止”した状態で行うこと
キックス①も、後を追うよう直ぐに身体を透かした。
ふたり:「突入す!」
キックス①は艦尾へ。
キックス②は操作室へ侵入した。
キックス②は侵入後に”透かしモード”を解除。
キックス①は侵入後、”透かしモード”のまま”アイツラ”と対峙。。監視していた”アイツラ”の1体が、何かを感じとり広めのブリッジへ走ろうとしたからだ。
キックス①は”透かしモード”のまま”アイツラ”に襲いかかる。
”艦を破壊しないように”戦うのは頭を使う。大技1発喰わらせれば終わるが、この狭い艦内では艦を傷つける。
”透かしモード”のままの格闘は3分を超えてしまった。
瓦礫のようになった”アイツラ”の横で”透かしモード”を解除した。バッテリー残量をみる。
バッテリーはすでに3割減っていた。
キックス①:「(フュージョン後の”透かしモード”3分超えで、3割かよ。ミューマンの課題はまだまだあるな。)」
キックス①は広いブリッジの方向へ歩き出した。
キックス②は操作室の状況を監視していた。巡回員グリーンを探す。
”アイツラ”は艦をもはや自分達の持ち物のように操作している。
2体の”アイツラ”は”グランドライン”への最短ルートをサーバー上で検索していた。
もはや”グランドライン”への道筋を立てるのは時間の問題だろう。
キックス②はふと延命装置に違和感を感じた。人の気配がする。艦の船首側から数えて二つ目の延命装置。
キックス②:「もしかしたら‥」
キックス②は延命装置を確認する必要があった。しかし、そこには”アイツラ”に気付かれるリスクもある。
キックス②:「(どうやって確認する?)」
キックス②は考えた。このまま強襲で今そこにいる2体を壊すことはできる。しかし、艦の操縦はどうする?
今は艦を操作してグランドラインの位置を知るのは巡回員グリーンと、今目の前にいる”アイツラ”だけだ。
強行突破はできない。なら‥。
キックス②は右手の人差し指をポキンと爪先だけを外す。
延命装置の真上側を指差す。
「ポシュンッ」
と、指の先から何か出た。
ロープだ。
空気に触れると実体化する。
細めのロープは延命装置の斜め上に付いてあるミラーに絡みついた。
キックス②はそのミラーの柄本をギリギリと折り曲げ延命装置側が写る様にした。
キックス②の目は遠くからでもそれは見えた。
キックス②:「(やはりな‥)」
キックス②が気配を感じ取ったように、その延命装置には巡回員グリーンの姿があった。
キックス②:「OK。巡回員グリーンは生きている。」
”アイツラ”は巡回員グリーンを人質にしていた。
動けない様に延命装置に縛り付けてある。
そうとわかったキックス②の動きは速い。
操作室にいた”アイツラ”2体を速攻で撃破した。
艦を傷つけずに”アイツラ”が攻撃する間もなく‥。その動きはまるで忍者のようだった。
残るは3体。
キックス②は延命装置の中にいた巡回員グリーンを抱え出してやった。
キックス②:「大丈夫か?ひとりで心細かったろう?もう大丈夫だ。この艦内に潜入した”アイツラ”は残り3体だ。数は確かか?」
巡回員グリーンは”YES”と答える。口にはガムテープがそのまま貼りついている。
キックス②:「それじゃぁ、あとは操縦を頼む。その3体を始末してくる。」
”ラジャー”と巡回員グリーンは手をあげた。
キックス②が広めのブリッジへ行った時には既にキックス①は3体の”アイツラ”と対峙していた。
生きのいい大きなドス声が聞こえる。
キックス①:「3対1は卑怯だぞ。せめて2対1で戦おうぜ」
と交渉しているつもりか‥
交渉の余地もなく”アイツラ”は3人がかりで襲ってきた。ゴングは鳴った。
キックス①の戦いはいつも荒い。
この様な狭い箱の中での戦い方はまだ知らないに、付け加え3体の相手だ。
もはやキックス①には艦を第二に‥の頭はまわらない。
容赦なくいく。
ひとり目の”アイツラ”が走り寄りキックス①に壁を背に砕く正拳突き、
それを右肩上で滑らすように正拳を交わし、そのまま”アイツラ”の助走の勢いをつけて一本背負だ。
「グシャリ」とテコの原理で叩きつける。
ミューマンの攻撃形はこの一撃打が特徴だ。
1発で仕留める。
無駄に2回3回の攻撃は時間を長くする。
戦いとは、時間との勝負でもある。
戦いが長引けば長引くほど勝利の可能性は低くなる。
過去の戦いのデーターを元に1発KOをプログラムされている。
もちろんそれだけのパワーあってのことだ。
ふたり目の”アイツラ”は気動砲を放つ仕草をしていた。ひとり目の攻撃時から仕込んでいた。
ひと呼吸つく間もなく、狭い艦内の通路キャパ限界一杯に気動砲が発射された。
細い瓶一杯に水を入れたように逃げ場がない。
「ドドド!ドーン!」
「??」…。
巻き上がる白煙
煙が晴れるとキックス①の姿。
なぜか爆破したのは”アイツラ”の方だった。
艦内に爆発音が連呼する。
かろうじて館内にはダメージがない。
もう1発同じものが放たれると艦内にも穴が開くだろう。
キックス②は安心し切って肩肘を付いて、横になりその戦いの様子を見ていた。
スローモーションで解説。
”アイツラ”が放った気動砲。
気動砲がキックス①めがけて飛んでいく。
よく見ると気動砲が、鏡で反射し屈折するようにキックス①の身体を跳ね返して”アイツラ”へそのまま跳ね返っていた。
キックス②:「(弟め。気動砲が放たれたと、同時に反射鏡を取り出し、防御に備えていたか。機転の効くやつだ。)」
※注)反射鏡とは‥手鏡である。この場合は特別に強固なレジンなどを配合して薄い膜に引き伸ばした鏡のアイテムだ。相手の攻撃をそのまま跳ね返す使い方もできるが、その他の使い方もある。
キックス②は日に日に強く成長していく弟が可愛くてしょうがなかった。
最後のさんにん目は、もはや戦う気力が無いように見えた。
しかし、逃がさない。全て残らず壊し切る。
「あん?」
キックス②は身体を起こす。
”アイツラ”は何かを不意に、転がしてきた。
「コロン」
と、キックス①の足に当たり止まる。
キックス②:「飛べ!!やばいぞ!!」
暴発!!
と、ともに艦の天井に大穴が開く。
大量の海水が艦内に入ってくる。
ミューマン2体は瞬時に艦外へ”飛び”暴発からは身を守った。
巡回員グリーンは延命装置の中に再度押し入れた。
艦は推進しているが、徐々に水の重さで傾いていく。沈没は時間の問題だろう。
3体目の”アイツラ”の姿は無い。
先ほどの暴発で消し飛んでしまった。
巡回員グリーンを助けようと動いたその時、
ミューマンを立ち塞ぐ大きな山のような影が現れた。
キックス①:「兄ィ…。、こんなことが‥。」
キックス②:「あぁ。まさかなぁ…。。」
目の前に立ち塞がっているのは”大獣”だった‥、、、。
キックス①:「”アイツラ”め!!しっかりしてやがる。最後の切り札を出してから、いなくなった。」
=====その頃 グランドライン本部 ///
大叔母:「なぜこのタイミングで大獣!?」
WO(女):「それも”アイツラ”が持っていた」
WA(輪):「それも”グリップ”(容器)に入れて持ち運んでいた。もしかしたら、ここ”グランドライン”に放つつもりだった?」
GA(我):「大獣はもういなかったのでは?」
RI(凛):「過去から連れてきたんだ。それも我が知る限り、”あれは初代だ。」
WA(輪):「初代!?ああ。わかった。片目の?”グランドライン1代目”の大獣。人間がまだ寄りつかない時代、獣同士の争いで鳥獣バーディングを倒し、当時の”グランドライン”頂点に立った大獣ウルフ!!」
RI(凛):「そうだ。これは厄介だぞ。大丈夫か?ミューマンたら」
大叔母:「…。」
///本部別室 部品倉庫///
BOO(武):「さっきからおかしいな。卵の中で大獣が頻繁に動いている。」
大男ガイム:「そろそろ出ちゃう?」
BOO(武):「いや、まだタイミングは早い。きっと何かに反応しているんだ。」
大男ガイム:「戦争が近い?」
BOO(武):「まぁ。それもあるけど、それじゃない気がする。とりあえず卵は監視を続けよう。ふたりでこのままここにいると怪しまれる。卵はひとつずつ持ちながら別々に行動しよう。何かあったら連絡して。」
大男ガイム:「もし、卵に亀裂が入ったらすぐ生まれる?」
BOO(武):「うーん。亀裂が入ってから一晩は大丈夫。その時はすぐ教えて。」
大男ガイム:「ああ。わかった。」
=====大獣とミューマンとの戦い///
キックス兄弟は考えた。
キックス②:「いいか。状況をまとめる。まず、鑑船だ。大獣が鑑内から鑑外に出る時に大きな穴をぶち抜いた。鑑船はそのうち自走不可能になり沈没する。巡回員グリーンはまだ鑑内にいる。すぐに救出しなければならない。
そして、こやつ。大獣だ。気配からして”アイツラ”をとうに上回る。本来なら2人で息を合わして戦うべきだ。
しかし、状況はそうもいかない。」
キックス①:「うん。兄貴が言うのも分かるよ。どうする?こやつと戦うの。俺でいい?」
キックス②:「いや。こやつに関してはデーターがない”アイツラ”とも動きが違う。
俺がいく。
見ろ。こやつの眼。ひとつ無い。何やらいわく付きらしい。」
キックス①:「兄ィ。気をつけて。こやつは”アイツラ”が最後の手段として開けた玉手箱かも知れない。」
キックス②:「ああ。そっちの段取りは任せる。上手く巡回員グリーンを確保してくれ。」
キックス①:「ああ。(片手でグッドラックの合図をしてキックス①は去ろうとした‥その時!)」
大獣が動く。
キックス①を逃さない。2人とも殺さないと気が済まないらしい。根っからのファイター。
大獣は水中戦が得意なのか気がついた時にはキックス①の脇腹に鎖のような尻尾を巻きつけてある。
キックス①は振り上げられ何度も地面に打ち付けられた。何度も何度もそれは繰り返された。
キックス②:「おい!意識はあるんだろ!尻尾を握れ!力じゃ負けない。それか斬りあげろ!」
キックス①:「それが…動かない‥力が入らない‥」
キックス②が大獣に向かう。
キックス②:「(力が入らない?なぜだ?)」
キックス①:「兄ィ。こっちにきちゃダメだ!今来ると兄貴だって同じ目にあう。先ず原因究明を先に!」
キックス②は足を止めた。
さて、どうする?
こうしている間にも艦船はどんどん沈みかけている。先を走る鑑船。そして相性が悪い大獣との戦い。
天下のミューマン最初の危機だ。