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記事一覧
狂わない桜 // 240520四行小説
青々と繁る桜の木の下で君は懐かしむように仰いだ。目に映るのは、葉ではなく、空でもなく、記憶の人だということを俺は知っている。それはもちろん俺ではない。
この木は秋になると狂い咲きの花を咲かせるのだが、狂い始めていたのはもっとずっと前の、例えば今日のような日からだったのかもしれなかった。
美味しい関係 // 240204四行小説
人によってアレルギーがあるように、逆に相性の良い食物というものもあるように思う。朝はパン派、コーヒーを飲むと仕事が捗る、とかそういうもの。
自分にとって妙に相性が良い気がするなと思う果物があり、それは金柑だったりする。食べた次の日はどこか調子がよく肌質もいい。そういう食べ物を多く見付けることが、健康への近道になるのかもしれない。
貫入の手 // 240202四行小説
左手の甲が、ひび割れている。
肌のキメの三角をなぞるように赤い血が滲んでいた。
遠目に見れば釉薬に細かいひびの入った食器にも似ている。
長い時間を掛けて使用してきた故のヒビだと云うならば、こんな手でも愛着が沸く気がした。
白い窓辺 // 230523四行小説
白い窓辺から見える風景には川があった。その川縁を犬の散歩をする人やジョギングをする人、通勤に行く人など朝の日常が広がっていて、寄せては引いていく波を見るような気持ちでそれを眺めている。
部屋にいる自分とは時間の進みが違っているようで、自分が窓の向こうにいないことが不思議だった。休息を取るべきだと分かってはいても、この風景に気持ちが急いてしまうのは仕方ないと思う。とはいえ何も出来ないことは分かっ
コツコツ // 230522四行小説
コツコツと何かをすることは苦手だった。
小さなハードルをいくつも越えることで出来ることは次第に増えていく。前に進めば進むほど見える景色も変わってくる。
ふと振り返ったときに、歩んできた軌跡を見れば毎日一歩ずつ進んだだけなのにここまで来たのかと少し驚いた。
苦手だけれども、苦手なりに半歩でも前に行けば出来ることは増えるらしい。
進んだ道のりを思い出しながら、次に見える景色はどんなものだろうかと胸を躍