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四行小説

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だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
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記事一覧

蚕の白は何処から // 24521四行小説

 白い姿が桑葉を食む。蚕はどれだけ緑を食べようとも、姿は絵の具を乗せたような真白のままだった。人間は少し蜜柑を食べただけで手が黄色くなるというのに。
 美味しそうに食べている姿を見れば、美味しいのだろうかと気になるもの。味を聞けば口は止めないままに微かに頷いた。
 ならばとまだ口を付けていない葉をちぎり、口に入れれば草のような柏のような緑の味が広がった。美味しいとは、言いがたかった。
 このまま食

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狂わない桜 // 240520四行小説

 青々と繁る桜の木の下で君は懐かしむように仰いだ。目に映るのは、葉ではなく、空でもなく、記憶の人だということを俺は知っている。それはもちろん俺ではない。
 この木は秋になると狂い咲きの花を咲かせるのだが、狂い始めていたのはもっとずっと前の、例えば今日のような日からだったのかもしれなかった。

美味しい関係 // 240204四行小説

 人によってアレルギーがあるように、逆に相性の良い食物というものもあるように思う。朝はパン派、コーヒーを飲むと仕事が捗る、とかそういうもの。
 自分にとって妙に相性が良い気がするなと思う果物があり、それは金柑だったりする。食べた次の日はどこか調子がよく肌質もいい。そういう食べ物を多く見付けることが、健康への近道になるのかもしれない。

大豆もあるけど落花生を撒けばいいじゃない // 240203四行小説

 落花生を投げればいいのだと知り合いが言っていた。実家にいるとき、節分で撒いた豆はスリッパに踏まれて粗いきな粉になっていた記憶は確かにある。
 合理的ではあるが、それでいいのか? とは思いつつ、食べ物を粗末にしないに越したことはないので、酩酊に任せ枝豆を投げている。

貫入の手 // 240202四行小説

左手の甲が、ひび割れている。
肌のキメの三角をなぞるように赤い血が滲んでいた。
遠目に見れば釉薬に細かいひびの入った食器にも似ている。
長い時間を掛けて使用してきた故のヒビだと云うならば、こんな手でも愛着が沸く気がした。

薔薇の少女 // 230524四行小説

 薔薇を踏みしめる音はしなかった。靴の下に残骸の感触があり、足を退かすこともせずに隣家の庭を向くと真顔の少女がこちらを向いていた。
 薔薇は隣家の庭の薔薇だった。咲いた花がフェンスを越えてこちらの敷地へと落ちたのだ。
 何が言いたい。領土を侵したのはそちらだ。
 無言で少女を見ていると、不意に破顔した。にらめっこに負けたときみたいで、花が咲くような笑顔だった。それこそ、薔薇みたいな。
「そんなに敵

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白い窓辺 // 230523四行小説

 白い窓辺から見える風景には川があった。その川縁を犬の散歩をする人やジョギングをする人、通勤に行く人など朝の日常が広がっていて、寄せては引いていく波を見るような気持ちでそれを眺めている。
 部屋にいる自分とは時間の進みが違っているようで、自分が窓の向こうにいないことが不思議だった。休息を取るべきだと分かってはいても、この風景に気持ちが急いてしまうのは仕方ないと思う。とはいえ何も出来ないことは分かっ

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コツコツ // 230522四行小説

コツコツと何かをすることは苦手だった。
小さなハードルをいくつも越えることで出来ることは次第に増えていく。前に進めば進むほど見える景色も変わってくる。
ふと振り返ったときに、歩んできた軌跡を見れば毎日一歩ずつ進んだだけなのにここまで来たのかと少し驚いた。
苦手だけれども、苦手なりに半歩でも前に行けば出来ることは増えるらしい。
進んだ道のりを思い出しながら、次に見える景色はどんなものだろうかと胸を躍

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雨女の君 // 230521四行小説

 雨はあまり好きではない。太陽が翳ると自然と気分も落ちるし、湿度が高いと髪が言うことを聞かないから。
 君は雨女で、いつもいつもめでたい日にこそ雨を連れてきて、僕は「またかよ」と呆れてしまう。けれども傘の下で君は楽しげに「まただよ」と笑うから、仕方ないかという気にさせられた。
 いつもいつも君はめでたい日に雨の中で笑っている。だから、今では雨を見ると何かめでたいことが起こるのでは無いかなんて思うよ

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窓の金木犀 // 221008四行小説

 金木犀のマスキングテープを買った。秋になり、その匂いが恋しいものの、この地域の木はまだ花を付けていない。北の方ではもう咲いていると聞くから、殊更恋しくなってしまった。だから目についたこのテープを買ってしまったのだった。
 世の中は季節を少し先取りするから、実は一ヶ月前に雑貨屋で金木犀のヘアオイルを買っていた。世に金木犀の香りのものはあれどどこか本物とは違って買い控えていたのに、そのオイルは記憶の

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クジラの骨 //221006 四行小説

「クジラの骨が浮いている」
 隣の君が指さした先には、夕暮れの光を受けた雲が暮れつつある空に浮いていた。赤みがかったオレンジと白が斑になった筋雲は確かにクジラの骨のようで、右から左へと空を大きく占めている。
 骨の後ろには淡く光る円があり、何の光かと目を凝らせば雲の裏でしめやかに輝く月らしい。
「なら、あれは?」
 聞けば、そんなことも分からないのか? とでも言うように目を開き、呆れたように笑いな

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羽根ひとつ //220302四行小説

 水面に波紋が広がった。行き道に通りかかる池は、この時期になると鴨が夫婦でやってくる。一昨日も昨日もいたから、きっと波紋を作ったのは鴨に違いないとそちらを見やる。
 羽根が一枚、水面に浮いていた。
 鴨はいない。そういえば、どこか今日は池が静かな気がする。生き物の気配が少ないような、何かに脅えてどこかに隠れてしまったような、奇妙な静けさがある。一体何がいるのだろう。池を覗いても底は見えず暗い。深く

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花知らず //220228四行小説

 道なりに植えられた桜を見上げていると、隣の君
もつられるように見上げた。蕾が膨らんできていて、春が着々と訪れていることを感じた。確か明日から暖かくなると天気でも言っていた。
「西館に何か咲いてたよ。梅? かな。今の時期なら多分梅!」
 君は花についてあまり詳しくない。詳しくないけれど、花が咲いたり匂いがしたりするとどこか嬉しそうだった。詳しくないからといって、好きではない訳ではないだろう。芸術を

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栞 //220225四行小説

 空いた座席に栞が落ちていた。主要駅を過ぎて車内の人は減っていたから、誰かが置いている訳では無いようだった。
 落とし物として届けるべきかどうしようかと思案しつつ、栞を摘まんで観察する。この栞には見覚えがあった。上の方にパンダが描かれている、どこかの出版社の出している栞だ。確か書店で無料で配られていたはず。それだけなら別に届ける必要も無いと思えたはずなのだが、問題はこの栞の配布されていた時期が最近

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