第9回 『猫と庄造と二人のおんな』 谷崎潤一郎著
こんばんは、JUNBUN太郎です!
今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
ラジオネーム、ヘミングウェイウェイさん。
JUNBUN太郎さん、こんばんは。
僕は社会人3年目の25歳、都内で一人暮らしをしています。関西出身です。デジタルネイティブ世代ってことで笑、ふだん僕はあんまり、というかほとんど本なんて読まないのですが、そんな僕が最近珍しく本を読みました。
『猫と庄造と二人のおんな』という小説です。
谷崎と言ったら、春琴抄や細雪が代表作かなと思うんですけど、と言ってもこれは受験勉強のときの知識で実際には読んだことないのですが笑、なぜこれを読むことになったかというと、彼女が部屋に置いていったのです。
実は、先ほど一人暮らしをしていると書きましたが、一月ほど前まで同棲していました。それが突然、彼女が荷物をまとめて出て行ってしまったのです。置き手紙もありません。明らかに僕のものではない文庫本だけがぽつんと部屋に残されていました。
ところで僕は猫アレルギーなのです。猫を見るだけで喉が痒くなってきます。彼女は猫が好きでした。2年前に同棲を始めたとき、彼女は猫を飼いたがりましたが、僕のせいで飼うことはできず──思えば僕たちは始めから相性が最悪だったのかもしれません。
気の強い彼女のこと、この本はきっと猫アレルギーの僕に対する当て付けなのだ。そう思うと、悔しくて、読まずにはいられず、僕は文庫本を手にとりました。すると、僕の人生に思わぬ展開がありまして──
一匹の飼い猫を巡って悲喜こもごも右往左往する男女を描いた人間諷刺小説『猫と庄造と二人のおんな』をまだ読んでないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!
太郎さん、猫って可愛いですね!! 犬と比べて猫は冷淡で、そっけないと思っていたけれど、飼い主ひとりになると、猫は甘えたように寄ってきて、頭を胸に擦り付けてきたり、顔中を舌でぺろぺろと舐め回してくるなんて。正直言うと始めは恐る恐る、喉にほんのり痒さを覚えながら、読み進めていましたが、そのうち、主人公の庄造の体を借りて、愛猫のリリーにエサの魚をやったり、寝床で一緒に眠ったりするのを楽しんでいる自分がいました。
思えば僕はもともと猫が好きでした。幼い頃に遊びに行った友達の家にいた猫が可愛くて、撫でたり抱っこしたりしていたら、喉が痒くなって、目が赤くなってきて、親に猫から引き離されました。アレルギーだからという理由で、僕はいつの間にか自分のことを猫嫌いだと思い込んでいました。この本は、猫が好きだった頃の僕を思い出させてくれました。そして、元妻にやってしまったリリーに一目会いたさに庄造が繰り出す冒険を楽しむことができました。
でも、こうして猫好きになってみると、猫と一緒に暮らせないことの辛さや苦しみがよくわかります。庄造がリリーを手放して、その後どんなに後悔したか、安否を心配して、どんなに狂おしい時間を過ごしたことか──。きっと僕の彼女も猫が飼いたくて飼いたくてたまらなかったのでしょう。
それにしてもあれだけリリーを溺愛している庄造がそもそもリリーを手放してしまうなんて、人間ってなんて愚かなんでしょう。母親のおりんや妻の福子、元妻の品子にしてもそうです。リリーを可愛がってみたり、かと思うと疎ましくなっていじめてみたり、はたまた不憫に思ってみたり、けむたがってみたり、自分を重ねて泣いてみたり──本当に自分勝手で愚か過ぎます。でも僕だってきっと自分勝手で愚かなのだろうな……少し反省……。
僕は部屋を出て行った彼女にLINEしました。
「読んだで」
「いきなり何?」
「本、置いてったやろ。猫を一緒に飼える男がみつかるよう祈ってるわ。マジで」
「は? あんた、それでも男か?」
「はあ? そんな口きいて、お前それでも女か?」
「うちはなあ、猫やで?!」
……女心、いや、猫心はようわかりません。
それから昼間のハチ公前に呼び出されまして、これも人前では冷たいという猫の特徴なのでしょうか、会うなりまずビンタです。それからプロポーズされまして──逆公開プロポーズというやつですね──そして、いまは結婚に向けて、式場の手配やらなんやらに忙しい毎日を送っています。どうやら、彼女は同棲を切り上げて、さっさと結婚したかったようです。それを煮え切らない僕に業を煮やしたようでして……。
ちなみにこの本を部屋に置いていったことを訊ねても、彼女はいまでもただニヤリと笑むだけです。やっぱり、女、いや、猫は何を考えているのか、さっぱりわかりません笑
ヘミングウェイウェイさん、ありがとうございます!
ぼくもこの小説を読んで猫好きになった読者の一人です。多くの愛猫家に愛されている作品と聞きますが、なるほど、確かに猫好きの猫アレルギーの方にはなお一層この小説はうってつけなのかもしれませんね。もっとも、猫とご結婚されるヘミングウェイウェイさんにはもうこの先コスプレは必要ないかもしれませんが……。それにしても、読書が縁で結婚するなんて、まさに読書婚ですね笑?! 読書婚万歳!! どうぞいつまでもお幸せにー!!
それでは、みなさんまた来週。
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