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「出さない手紙」〜100円の重さ

拝啓
貴方へ


貴方は私に
ずいぶん痩せたね と言った
私が衰弱し
疲弊しきっているのを気遣ってか
貴方は小銭入れから 硬貨を一枚ずつ
大事そうにつまみ出し 店員へ渡した

店を出ると お茶とパンを私に手渡して
「これ 明日の朝 食べてね」
と言った
「全然食べていないでしょう」
と気遣うように…

私はあの時
貴方が店員へ支払う姿を何気なく見ていた
ずいぶんゆっくりだなぁ~ と
それから 無意識に
貴方から手渡されたペットボトルのお茶が
自分で買うお茶と違い
なぜか もったいない と感じながら
大事に そして ゆっくりと飲んだのを
今も覚えている

翌朝 
テーブルの上にある
貴方が私に手渡してくれたパンを見て
私は急いで封を開け 大事に大事に
愛おしむように食べた

その瞬間
前夜 貴方が小銭入れから 
大事そうにつまんでいた100円が
私に重く そして鮮烈に映った

私の100円と 貴方の100円は違う
私の1000円と 貴方の1000円も違う

それをはっきりと私に自覚させたのは
貴方のあの 無心で働く 
一生懸命に生きる姿を
あの遠く離れた場所で
私は目の当たりにしたからでしょう

貴方がつくり出すお金は
今を一生懸命に生きる上に成り立っている
片時も手を抜かず 無心で働く貴方から
間違いなく生み出されている

その生み出された10円
100円という硬貨は
貴方の小銭入れから出される
それは私に とても重かった
今を一生懸命に生きて
そうして生み出されたお金

あれから
私は変わらず
今もひとりで暮らしているけど
小銭入れがとても大事に感じられ
ちょっと愛おしく 
いつも買い物は 
現金を使うようになった
よっぽどのことがない限り
カードは使わない

1円 10円 100円 という硬貨が
大切で大切で 愛おしく思えるのです
小銭入れの中にあるお金で
大切に 何を買おうかな 
何が買えるかな と
自販機の前で硬貨を手にして
どれにしようかな と
一日一回きりのご褒美のように

あの日のことがなければ
私は今も変わらず
カードで消費していたでしょう
金銭感覚のない 
電子マネーで麻痺したままに…

これから私は
小さいながらも 身の丈で
いつか仕事をつくろうと思っています
事業を起こすといったら大袈裟ですが
私も今を一生懸命になれる
一生懸命に生きて働く
無心で生きて働く自分になりたい
と強く願い そう思っています

そんな働く自分をつくり
そんな働く場所をつくりたい
と考えています

私は事業の才もない お金の管理もできない
お人好しで 利益とは無縁でしょう
でもね
甘いかもしれないけど
利益や事業収益なんて考えて
頭の先にいつも気にして
そんな生き方はしないのです

遠く離れたあの場所で
貴方は無心で働く
今を一生懸命に生きている
私も一日そうやって生きる自分になりたい
ただ 本気でそう思いました

何が尊いか
みなそれぞれだけど
私は自分の尊い生き方に
気づいた気がします

私はどう生きるか
お金になる ならないは別にして
今 無心で一生懸命になれる自分
気が付いたらあっという間に
一日が終わってしまっている自分

お金は大事だけど
それ以前に
私は今を一生懸命に
無心になって生きているだろうか

貴方が
私に気づかせた
100円 10円の重さ

私は 今を一生懸命に
無心に生きて
重い重い100円を 
10円をつくり出すような
そんな風に働いて
そんな風に働く場所をつくりたい
そう思っています

2024年 6月27日










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