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3冊目『独創はひらめかない』―研究とは自然との知的ゲームに勝つこと―


1.概要

―著者の紹介―

金出武雄先生
所属:カーネギーメロン大学(ワイタカー冠全学教授)
京都大学高等研究院(招聘特別教授)
専門分野:コンピュータビジョン・ロボット工学

本書は金出教授が実践している研究者としての「素人発想、玄人実行」から始まり、知的体力、教育観、会話術に話題が広がり、最終的には「自分で決める」勇気について触れるエッセイである。4章から構成されるが、今回は1章「素人のように考え、玄人として実行する」と4章「決断と明示のスピードが求められている」にのみ焦点を当て、エッセンスを抽出しよう。

―どんな人におすすめの本か?―

私のように
日ごろから研究者と接する機会がある方にぜひオススメしたい。
難しい数式などはひとつも出てこないのに
研究の本質が分かってしまう面白い本なのだ。
この本の中で触れられている
「創造は省略から始まる」の精神に通じるものだが
不要な情報を省略した結果
研究者の目指す極地のようなものがシンプルに提示されているのである。

2.研究者の考える本質

―研究とは自然との知的ゲームに勝つこと―

さっそく本質に迫るのだが
この本からの言葉を引用して説明するならば
「研究とは自然との知的ゲームに勝つこと」である。

「研究というのは、そういう問題を仕切っている自然の世界とか摂理に対して、交渉することである。その対話の中で、ちょうどいいところで交渉がまとめられれば研究は成功するのである」

ちょうどいいところを、自分で見つけることの難しさもあるだろう。
それにしても金出教授はこのようなたとえ話が本当にうまいのだ。

―科学、工学の基本―

こいいったたとえ話の肝は「省略」である。
重要なことだけを抽出して、不要なものを省略する。

金出教授が
「元の問題の本質を最も昇華した形で残し、最もわかりやすい形に仕上げたものが、最も素晴らしい理論」だと言うように
「世の中に起こっていることを簡単、省略、抽象化して見る」こと
それこそが科学、工学の基本なのである。

それでは私たちは省略がうまく出来ないために
本質的でないものに振り回され
本質的でないものに時間を使っているのではないか?

「思い切って簡単化できるかどうかが、よくできる人とできない人の差である」

基本の省略をしっかり理解した研究リーダーであれば
「どこを端折ればうまくできるか、まず攻めるか守るかどちらにするか」
そういう方針を示すことが出来る。
これはあらゆるリーダーに共通する項目だと私は感じた。

―研究者はわからないことを追求しようという人間である―

ここまで省略を重じ
自然との知的ゲームを行うことが研究であると書いてきたが
それでは研究者とはどういった存在だろう?

金出教授曰く
「研究者は基本的に楽天家でなければいけない。本来、研究開発とはそういうものなのだ。研究者は、わからないことを追求しようという人間である」

ビジネス職と研究職との決定的な違いは
研究職は「わからない」ことを始点とすることだ。
ビジネスにおいても、数字が読めない、うまくいくかは分からないことばかりだが、本質的な「わからない」ことは避けていく。
それに対して研究者はあえて「わからない」ことに対して
時間をかけて向き合っていく。

―知的体力の正体―

どんな研究者も壁にぶつかる。
そして前述したように常に「わからない」ことに対峙している。
その時に、必要なものが知的体力である。
知的体力とは同じことを考え続けたり
一つのことをいろんな方面から考えても飽きのこない力である。

その力を持続させるために金出教授は下記の方法を提唱している。

①イメージを描く
 問題の生まれる状況に身を置き、足場になりそうな材料をとにかく収集。
②足場を組み始める
 簡単な例題を作り、解いてみる。仮の解法を設定する。
 少しずつ難しくしていき、どういう仕組みで難しくなるのか
 仮の解法でどうして解けないかを考える。
③足場をだんだんと高く、強くする
ちょっとしたプログラムを作って試す。
 自信が点ついたら実問題を解いてみる。
 これが正しいと証明できないか考える。
 逆にその方法では、解けない例題を作れないか考えてみる。
 この逆を考えるというやり方は解法の本質に迫る実に有効な方法である。

これは数式などに限定される話ではなく
下記のように抽象化すればどんな問題にも適用できるものだと感じた。

①問題を外部から、かつ思ってもみない方向からたくさん眺めてみること
②複合的な要因を仮に組み合わせて検証すること
③複合的な要因と複合的な要因を組み合わせてどんどん検証すること

全てのことがこういった方法を経て
生まれてきているのだろう。

「何もないところから、突然考えるということは、普通はできない」

「真似をしてもいいではないか。最初は同じものだが、それに何を負荷するか。それを昇華されるレベルがどれほど高いかが勝負の岐路である。というわけで、『ほとんどの想像は、真似に付加価値をつけたものである。』独創、創造は無から有を生み出す魔法ではない。」

改めて、研究は小さな努力の積み重ねなのだと私は感じた。


3.決断をする勇気を持とう

最後に話題を研究から離そう。
日本に生まれ、日本で育ち、35歳で渡米した金出教授だからこそ分かる
日本のウィークポイントがある。

それは個人に決定権を持たせない、ということ。
また個人が決定権を持ちたがらない、ということである。

だからこそ
責任の所在がうやむやになり同じ失敗が繰り広げられる。
この問題については
私はまさに決定権を持たない環境で育ってきてしまった、という強い焦りがある。

驚いた例が文中にあった
「前任の担当者が決めたことをそのまま受け継いで成功に導いても、やめる時に『お前は在任中に何をやったのだ』と言われたら『何もない』ということになってしまう」

私は、何はともあれ実行したその人が評価されると思っていたが
アメリカで重要なのは、決断をした人物。
ただ倣って実行するだけでは、何もしていないことになってしまうのだ。

確かに私のチームでも
独自に考えて実施した新しいことの成果が重要視されている。
例えば私が担当するリサーチインターンシップでの
応募喚起の施策においても
前任者がしてこなかった新しいことを求められた。
今回選んだ新しい方法がどんな成果を生んだかを
私は半年後に説明する必要がある。

決定権を持つからこそ、責任が生まれ、責任が生まれるからこそ
本当に正しい選択かを多方面から考える。
複合的な目線を持って、物事の本質まで考えることが今
私をはじめ多くの日本人が必要とされているのではないか。



4.感想


アメリカで求められる研究者の立ち振る舞いが
本書ではシンプルにまとめられている。
若手研究者にとっては、明文化されていなかった
“研究者の逞しい姿”がひとつ示されているに違いない。

私は日々の業務を通して
研究者がパフォーマンスを下げることなく研究や事業化に集中できる環境を整えておくことを目指している。
そしてそれが外部の方から見ても
確かにそうだと思われるように
組織としてそこまでやっているのかと思われるように
それらを外部に発信していく務めがある。

さてGWも開けた。
また0からの気持ちでやっていこう。


自然との知的ゲーム
個人が決定権を持つこと



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