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事前の情報が行動を抑制する「ネガティブ・プライミング」

エコな商品を買うと利他的な行動を取らなくなるという趣旨の論文があったのでメモ(1)。

私たちは事前に与えられた情報によって後続の認知処理が促進されたり,抑制されたりすることが分かっています(プライミング,2)。具体的な例を挙げると,以下のようなものがあります。

・レストランの写真を見ると食事のマナーを改善する(3
・高齢者を連想すると,歩く速さが遅くなる(4
・アップルのロゴは創造性を増す(5

このように事前に与えられた情報によって関連する概念が活性化し(6),無意識に結びつきの強い行動を取ってします傾向があります。

今回紹介する論文は環境に優しい商品を提示することによる即時的な効果と副作用があることを教えてくれます。

ブランコに乗って話をしている様子

2010年にトロント大学の二ナ・マザルらが環境に優しい商品が利他的行動に与える影響について調べるために実験を行いました。

実験の対象になったのは大学生156名でした。

実験参加者はランダムに4つに分けられ,それぞれ商品をオンラインで買ってもらいました。その4つのグループには以下のような差がありました。

<グループ1>
環境に良い商品サイトを見る

<グループ2>
環境に考慮していない商品サイトを見る

<グループ3>
環境に良い商品サイトから買う

<グループ4>
環境に考慮していない商品サイトから買う

その後,実験参加者には独裁者ゲーム(2者間でお金の分配をする)をしてもらい,ゲーム内で他者に利益が生じるような利他的な行動を取るのか否かを調べました。

肩を組んでいる様子

実験の結果,環境に良い商品を販売しているサイトをただ見ただけの場合は環境に考慮していない商品を販売しているサイトを見ただけの場合と比較して,独裁者ゲームで対戦相手に多くお金を分配した。

しかし,それぞれのサイトで購入までしてもらった場合の独裁者ゲームでの行動を見てみるとお金の分配行動の傾向は逆転します。環境に良い商品を購入した場合は環境に考慮していない商品を購入した場合と比較して,独裁者ゲームで対戦相手にお金を分配量が少なくなりました。

つまり,環境に良い事柄に短時間接触すると相手が利益を得るような利他的な行動を取る傾向が見られましたが,購入までするような積極的な行動は逆に利他的な行動を取りにくくします。

続く実験でも,環境に良い商品に対する積極的な関与は嘘をつく回数を増やすという結果が出ています。このようにプライミングされた情報が関連するプラスの方向の認知処理を促進するのではなく,逆に逆行するマイナスの行動を促進する場合があることが分かっています。

・男女平等主義に関わる行動は性差を意識させる行動を引き起こす(7
・人間性にを意識させると寄付額が減る(8

これらの結果から考えると促進した行動を活性化させるような情報を事前に提示することは必ずしも目的とした行動を促進するだけでなく,抑制してしまう可能性もあると言えるでしょう(9)。

風力発電をしている様子

(1)Mazar, N., & Zhong, C. B. (2010). Do green products make us better people?. Psychological science, 21(4), 494-498.

(2)Tulving, E., & Schacter, D. L. (1990). Priming and human memory systems. Science (New York, N.Y.), 247(4940), 301–306.

(3)Aarts, H., & Dijksterhuis, A. (2003). The silence of the library: environment, situational norm, and social behavior. Journal of personality and social psychology, 84(1), 18.

(4)Bargh, J. A., Chen, M., & Burrows, L. (1996). Automaticity of social behavior: Direct effects of trait construct and stereotype activation on action. Journal of Personality and Social Psychology, 71(2), 230–244. 

(5)Fitzsimons, G. M., Chartrand, T. L., & Fitzsimons, G. J. (2008). Automatic effects of brand exposure on motivated behavior: How Apple makes you "think different." Journal of Consumer Research, 35(1), 21–35.

(6)Anderson, J. R. (1983). A spreading activation theory of memory. Journal of verbal learning and verbal behavior, 22(3), 261-295.

(7)Monin, B., & Miller, D. T. (2001). Moral credentials and the expression of prejudice. Journal of personality and social psychology, 81(1), 33.

(8)Sachdeva, S., Iliev, R., & Medin, D. L. (2009). Sinning saints and saintly sinners: The paradox of moral self-regulation. Psychological Science, 20(4), 523–528.

(9)Mayr, S., & Buchner, A. (2007). Negative priming as a memory phenomenon. Zeitschrift für Psychologie/Journal of Psychology, 215(1), 35-51.

■嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実/アルダート ヴレイ (著), 太幡 直也 (監修, 翻訳), 佐藤 拓 (監修, 翻訳), 菊地 史倫 (監修, 翻訳)

■モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか/ダニエル・ピンク  (著), 大前 研一  (翻訳)

■情報を正しく選択するための認知バイアス事典/情報文化研究所 (著), 山﨑 紗紀子 (著), 宮代 こずゑ (著), 菊池 由希子 (著), 高橋 昌一郎  (監修)

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