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月の車輪 「 Mémorandum」

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私の創作物、エッセイを集めたものになります。 収集テーマは「寝読み本」 創作の深い海に潜りながら握り続けたペンの先は何処にあるのかを探していければと思います。
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#詩

22-49-901

忘れた頃に喉元から咲く

花冷えの叢雲

浅葱に浮かぶ月桂に

指を伸ばして大強盗

何夜も何夜も夢になる

幾度か起きてや部屋の底

幾度か起きてや

深空捧ぐ金色花

幾度か目にして手に取った

零れ落ちるる金剛花

幾度か起きてや海の底

気泡に溺れて

春の闇

車内音

許しが欲しいが
誰に頼んでなんの為の許しが欲しいのかは
わからなかった

ただ許されたかった

愛が欲しいが
誰に頼んでなんの為の愛情が欲しいのかわからなかった

ただ愛されたかった

ペンが欲しいが
誰に頼んで何に使うペンなのか
わからなかった

ただ与えられたかった

そんな夢ばかりを見ていた

風呂場

新しい石鹸を開ける時が何故か好きだ

あの柔らかな薫りが包紙をめくると
わたしの鼻先へ流れてくる、
あの感覚が好きだ

石鹸が消えていく時、
私は
寂しく感じたり、
時によれば
早く無くなってしまえと
泡立てる

そして消えたらまた
その事は忘れて
包紙をめくる

あぁ、私も人間なんだな。

縁

流れていく雲に手を伸ばそうが届かない

靉靆を眺めるばかりの
窓際の一輪の野花は

花弁を落とす

水をやる。

花弁を落とす。

薬をやる。

花弁を落とす

小さな灯火が最後に燃え盛るような八月某日

そこには散った花々の上に
蜉蝣がいた

虚構

虚構

虚構でしか生を描けない

虚構の中に愛情が宿る

虚構の中と早朝の喧騒に虚無透かし

足つけた生暖かい泥の上に寝て

湖面の月光が邪魔な目を包めば

想い出の狭間

孤独の平穏

愛と快楽

夜と人間の灯り

私は湖岬に一人

私の手を眺めても
体温のまま

雨粒眺めても

虚構の中でしか生を体感できない