錫森栞
私の創作物、エッセイを集めたものになります。 収集テーマは「寝読み本」 創作の深い海に潜りながら握り続けたペンの先は何処にあるのかを探していければと思います。
私の「街角のカフカ」という短編小説を集めたマガジンになります。 随時更新します。
新しい石鹸を開ける時が何故か好きだ あの柔らかな薫りが包紙をめくると わたしの鼻先へ流れてくる、 あの感覚が好きだ 石鹸が消えていく時、 私は 寂しく感じたり、 時によれば 早く無くなってしまえと 泡立てる そして消えたらまた その事は忘れて 包紙をめくる あぁ、私も人間なんだな。
キリンが死んでいる夢 羊が待っている午前二時半、コンビニ前 看板が歩き出す正午零時
心のなかで何度も殴る 何度も何度も 血が出ても肉が千切れても 泣きじゃくっても殴る 何度も殴る 顔が原型を留めなくなってもまだ殴る 心の中でずっと自分を殴っている
暗闇をぼんやりと眺めていると 誰かの目がぼんやりと浮かんできた それが見えた瞬間 切り離されていた心と身体が 睡魔でぐちゃぐちゃに混ぜられて 記憶がなくなった
あぁ、いきぐるしいな
小学生の頃、世界は単純に美しくて、面白おかしいものだった。 中学生の頃、人のすべてを信用するのは危険だと気づいた。 それと同時に自分のなかだけでとどめておける楽さを知った。 そこに底しれない苦痛が伴うことも知った。 高校一年生初めの頃、人の愛情にも種類があることを知った。 所有愛、偏執的愛、自己愛、性愛。 欲望が人をかりだたせ、愛という単一な言葉ではその欲望を表すことはできないのだと知った。 また私もその中のしょうもない人間なのだと知った。 自分は人付き合いが苦手なのだと気づ
彼女は波打際、自分の頭上に手を掲げた。その白く細い手を眺めている内に海は夕闇に染まり始めた。 それはまるで赤子がまだ生まれた時にする仕草のように。 彼女は死に方を知ろうとしていた。 「飴瓶」 空っぽな飴瓶みたいな世界を書いていたい。 何もないのに薫る甘い匂い そこにあった筈のもの 硝子に彩られた景色。 擦りガラス越しの飛行機雲。 抜け出せないような高いコルク。 何もない楽園。 何もないのに楽園を信じている。 何もないのに甘い匂いを吸う為に息をしている。
笑って 笑って 笑って 花曇りの下 片手には借りてきた本 栞には貴方の写真 戻ってこいよ 花曇りの中から笑い転げておいでよ
最近は万葉集の解説本を読んでいて、 日本語の原型を見ているような気がして面白いです。
忘れた頃に喉元から咲く 花冷えの叢雲
屋上でぼうっと夜風を浴びていた。灯り始めたマンションの明かりの下で、世間で謳われた希望やら願望やらが排気ガスにまみれて転がっている。 咳き込みながら考える。 帰りたい場所も無ければ、行きたい場所もない。 身も心もガスのように立ち消えてくれたら楽なのにな。
浅葱に浮かぶ月桂に 指を伸ばして大強盗 何夜も何夜も夢になる 幾度か起きてや部屋の底 幾度か起きてや 深空捧ぐ金色花 幾度か目にして手に取った 零れ落ちるる金剛花 幾度か起きてや海の底 気泡に溺れて 春の闇
昨夜、ちょうど部屋で「hibari」を聴いていた時、私のスマホに訃報が流れてきた。 思わず検索欄に「坂本龍一」の名前を入れてもう一度、ニュースを調べる もしこれが間違いなら間違いであってほしかった。 あぁ、そうか。 彼はもう、何日も前に亡くなっていたのだ。 彼の美しいピアノが私の部屋を満たしている。 少し力が抜けたような気がして、私は背もたれにもたれかかった。 彼の音楽は素晴らしい。 キャッチーなメロディ、軽やかに見える曲調の中に暗喩された憂鬱、心を揺さぶる迫
何もかも上手くいかない。 もう何もかもどうでもいい。 ろくに物語にも吐き出せなければ、 人にももちろん吐き出せない。 心が腐臭を放っているのがわかる。 自分の指先から向こうに帳が降りているのがわかる。
「恋をしていた時は花ばかり盗んでいた 仲間が死んだときは銃ばかり盗んでいた 誰かを妬んだときは絵画ばかり盗んでいた 結局何がしたかったんだろうな。俺は強盗を始めてから25、6経ったのに未だに足を洗わない。今度はあんたを盗んだ。」
自室から流れてくるラジオの声を聞きながら物干し縄を伸ばして洗濯物を干した。下の運河を見下ろせば煙を巻く船頭が下っていっていた。 「快晴。今日は素晴らしい快晴です。中央通りもいつにも増した賑わい…」 ラジオの漣に耳を澄ませると下の花屋で主人が高らかに笑う声が聞こえた。 廊下を横切って、階段から少し覗くと若夫婦が主人と談笑していた。 「あれ、なんて花ですの?」 大きな窓に顔を出した真っ白な花を白い帽子に白いワンピースの婦人が指さした。 「あれはガーディニア、綺麗でしょう。隣の島