蒼天已死 THE END OF CONFUSIAN EMPIRE A.D.190-A.D.192
後漢末の動乱をテーマとするシミュレーションボードゲーム『蒼天已死 THE END OF CONFUSIAN EMPIRE A.D.190-A.D.192』(以下、『蒼天已死』)を製作中であり、本稿はその覚書である。
ターンの長さ:1ターン=1か月
三国志はシミュレーションゲームのテーマとして取り上げられることが多いが、そのジャンルは戦略級に偏っている。もちろん、黄巾の乱(184年)から呉の滅亡(280年)までやろうとしたら、最低でも1ターン=1年の戦略級として豪快にターンを進めていくしかない。しかし、それでは実際の1年間の軍事作戦をゲーム上は一連の移動・戦闘という形で纏めざるを得ず、プレイヤー間の相互干渉はカードなどで間接的に表現するしかない。もう少しターンの刻みを短縮し、彼我の兵力の移動や配置に駆け引きを生じさせることはできないだろうか。『蒼天已死』では、1ターン=1か月とし、黄巾の乱から呉の滅亡までを通しでやるゲームではなく、「反董卓連合の成立~董卓の暗殺」といった3年の歴史的事象を切り取ってプレイすることにした。1ターン=1か月ならば、歴史上の事象をぎりぎり追いかける(あるいは「推定する」)ことができるので、好都合である。
移動の分割:作戦期間10日間×3回
1ターン=1か月で3年間、全期間で36ターン。これを36回のムーブと考えると、それでもリアクションのルールを用意しなければならなくなる。でなければ、攻勢側が有利な一撃必殺のゲームとなってしまうからである。だが、手番プレイヤーのプレイ中におけるリアクションのルールは、煩雑でプレイアビリティを損なう。非手番プレイヤーは手番プレイヤーのプレイを注視して、早く移動を終えようとしてイライラしている手番プレイヤーの顔色を窺いながらリアクションのタイミングを謀らねばならないからである。これではプレイヤーの集中力が持たない。『蒼天已死』では、1勢力に1ターン4つの行動チットを用意し、それらをランダムに選択することによって様々な移動パターンが生じるようにしている。4回目に選択された行動チットは内政用に使用されるため、移動のチットは3個。1つのチットがシミュレートする作戦期間は10日間となる。この方法ならば、ある程度の双方向の作戦余地が確保できるはずだ。もっとも、この方法でも、2人のプレイヤー間と仮定すれば、20分の1の確率で、他のプレイヤーに対してまったく指を触れることすらできない3回連続の移動が発生する可能性がある。単純計算では、ゲームの全期間で平均1.8回の戦略的奇襲が生ずることになるが、それが情勢に関係なくランダムに発生することと、『蒼天已死』が最大8人のプレイヤーでプレイされるということを考えれば、それほどの問題ではないだろう。
地図の表現方法:「郡」を拠点とするヘクス
地図の表現のキーは「郡」となるだろう。「州」は問題外であるが、「県」レベルでの地図にはかなり心惹かれるものがある。張邈の叛乱等は「県」レベルで表現したい。ただ、「郡」ならば100個内外だが、「県」だと優に500個以上のヘクスにマーカーを置いて管理しなければならなくなる。さすがに、これは非現実的である。よって、『蒼天已死』においては、争奪の対象は「郡」に限定し、「県」は地形効果的扱いとすることにした。point to point方式も魅力的であるが、中原と揚州や荊州では「郡」の間隔が全く違うため、中間点のポイントを設けないと辺境地ほど移動距離が速度が速いという珍事が発生する。プレイヤーが作戦的な手腕を発揮するためにも、より自由に動けるへクスを選択した。
地図の範囲:涼州西部、揚州・荊州・益州の南部は除外
この時代を扱う場合、地図の北限は涼州・并州・幽州となる。南限は揚州・荊州・益州の北部までとした。揚州・荊州・益州の南部は、三国鼎立が視野に入ってきた時期から重要度が増すが、この時期には歴史の表舞台には立っていない。東側は遼東公孫氏の関係で遼東郡まで入れた。西側は涼州の東側のみとなってしまうが、韓遂や馬騰が自立した地域までで十分だろう。この範囲をA0に収めるとすると1ヘクス対向は約36kmとなる。ここから、最も整備されたルートを行軍した場合の最大移動範囲を5ヘクス/10日間とした。よって、何も障害がない場合の1日当たりの平均移動距離は18kmとなる。
領地の管理:マーカーとカード
『蒼天已死』の争奪の対象は郡である。これは、郡治所たる郡城と郡全体の支配権を統合的に表現している。軍事行動によって郡を手に入れた場合、そこにはマーカー等を置いてこれを示す。しかしながら、地図にすべての情報を書き込むのは、軍事行動を熟考する際は親切であるが、収税などの内政行動の際に、その都度マーカーをどけて数値を確認しなければならないというならば、それは苦行となってしまう。『蒼天已死』では、地図に表記するのは郡城の初期防御力のみで、それ以外の情報は「領地カード」によって表現している。プレイヤーがカードを手元に持っていれば、収税などの計数管理も行い易いはずである。
収入資金ポイント:最小と最大
収入資金ポイントとは即ち税収額である。収入資金ポイントは郡ごとの人口にほぼ比例している。ゲーム中で最も貧しいのは幷州の朔方郡である。その値はたったの2ポイント。朔方郡に限らず、幷州や涼州の郡はこのような辺土が多く、ワースト2位は涼州の北地郡と金城郡、幷州の定襄郡で同率4ポイント、ワースト5位は幷州の五原郡で5ポイントである。ちなみに、五原郡はあの呂布の生地である。対して、ゲーム中で最も豊かなのは、荊州(北)に属する南陽郡であり、その値は何と530ポイント。朔方郡の20年分以上の税収を南陽郡は1か月で稼ぎ出す。光武帝の支持基盤であり、「一州に匹敵する」と謳われたその経済力は隔絶しているのである。ベスト2位は豫洲の汝南郡と揚州(南)の豫章郡で同率410ポイント、ベスト4位は益州の巴郡で310ポイント、ベスト5位は益州の蜀郡で300ポイントであり、地方の大郡を抑えて手っ取り早く自立しようとするのも頷ける戦略である。
リーダーユニット:4+1要素ユニット
『蒼天已死』のリーダーユニットは4種類の数値(統率力、作戦力、白兵戦力、政治力)によって区別される。各数値は0~5の6段階評価であり、所謂「居ない方がマシ」のリーダーユニットは存在しない。むしろ、能力が低くてもリーダーが居ないと何も始まらない場合が多いだろう。これらの能力値とは別に、1~8の8段階評価の指揮ランクがある。ちなみに、◆:指揮ランク1 ◆◆:指揮ランク2 ◆◆◆:指揮ランク3 ◆◆◆◆:指揮ランク4 ★:指揮ランク5 ★★:指揮ランク6 ★★★:指揮ランク7 ★★★★:指揮ランク8である。9から指揮ランクを引いた値が概ねリーダーユニットの官品に相当する。上記の例は指揮ランク4で五品となる。指揮ランクが上がればリーダーユニットを差し替えるのであるが、これはイベントに依る。つまり、イベントによって昇進するリーダーは限定されているのである。
リーダーユニット:能力ベスト
統率力ベストは劉備◆◆◆5-3-2-1[劉備]。一流の傭兵隊長である。作戦力ベストは曹操★4-5-2-4[曹操]。統率力と政治力も4で、何でも自分でやりたがる感がある。白兵戦力ベストは呂布◆◆◆2-1-5-1[呂布]。ちなみに、関羽と張飛も白兵戦力5である。政治力ベストは荀彧◆◆◆◆0-2-0-5[清流派]。このユニットは在野区分で、清流派の人材プールにいる。
領土拡大のシステム:占領から統治へ
領土を拡大するためには、自領以外の郡城を獲得しなければならない。『蒼天已死』では、軍事力に自信があれば、序盤から中立群雄や他のプレイヤーの郡城を襲うことも可能だ。しかし、誰のものでもない無主の郡城も結構あるので、まずは自領に近いそれらを占領していくことになるだろう。無主の郡城は部隊ユニットを進入させれば、占領することができる。また、最低1部隊ユニットを残留させていれば、占領を続けることもできる(部隊ユニットが居なくなれば無主の郡城に戻ってしまう)。ただ、「占領状態」の郡城は移動の起点としては使用できるが、徴税や徴兵は行えない。それらの実行環境を整えるためには、内政フェイズにおいて、統治確立アクションを行わなければならない。1D6を振り、それに修正値を加えた値が6以上になればアクション成功である。所在するリーダーユニットの政治力の値と連絡線が通じている場合の+2が修正値で、1の目は自動的に失敗となる。つまり、連絡線が通じていれば政治力2以上の、そうでなければ政治力4以上ののリーダーユニットがいれば5/6の確率で統治確立アクションは成功し、郡城は統治状態となる。これは統治マーカーを置いて示されることになる。非常に容易な手順であるが、これはこのゲームにおける無主の郡城が、統治機構のネットワークから切れただけの状態を示しており、占領された他国を意味していないからである。漢室や他の豪族勢力の統治を受け入れれば、実質的な統治機構は温存されているので、簡単に集権的統制が恢復するのである。
領土拡大のシステム:郡城の荒廃
一度統治状態となれば、他者の軍事作戦の結果、守備隊が全滅してしまった場合を除き、それは滅多なことでは覆らない。統治マーカーの数はゲームバランスで制限されているので、より重要な郡城を占領するために、涼州や幷州の郡城を自発的に放棄するケースは考えられるが・・・。むしろ、様々な原因、多くは攻城戦の結果か冬季の出陣の結果として「荒廃マーカー」が置かれ、郡城が機能不全に陥ることの方が多いはずである。荒廃マーカーが置かれた郡城は経済活動が停止する。徴税や徴兵が行えない上、移動の起点としても使用できない。荒廃マーカーを除去するためには2つの方法がある。一つ目は、「投資アクション」である。財政的な振興策であり、まず、本拠地に連絡線が繋がっている必要がある。そして、税収額の5倍の資金ポイントを消費しなければならい。税収2ポイントの郡ならば惜しくはないが、税収530ポイントの郡を投資アクションで戻すのは非現実的である。これに対し、二つ目の方法は資金ポイントを要しない「治安アクション」である。1D6を振り、それに修正値を加えた値が6以上になれば成功である。これには、所在するリーダーユニットの政治力の値と郡城の治安修正を加える。ちなみに、南陽郡の治安修正は-4であるから、政治力5の荀彧の手腕を以てしても最終修正値は+1にしかならず、成功率は2/6である。期待値としては成功するまでに治安アクションを3回実行しなくてはならない。政治力4以下のリーダーユニットであれば、その成功までに要する試行回数は平均6回となる。
スタックのシステム:旅 赫々たる槍
『蒼天已死』はスタックごとに逐次、移動・戦闘を行うゲームである。移動においては、ユニットをピックアップすることもドロップオフすることもできない。蹂躙攻撃をしたとしてもそのスタックの移動はそこで終了する。これに対し、防御の際にはスタックの概念はなく、ヘクス内のすべてのユニットが戦闘に参加できる。そこで、陸上における、最も基本となるスタックが「旅」である。旅はリーダーユニットと部隊ユニット1つずつのシンプルな編成である。旅を構成するリーダーユニットと部隊ユニットは同じ地色かつ同じ旗標である必要がある。例えば、①呉景◆◆◆3-1-3-0[孫堅]と3-3[孫堅:呉景]は旅を構成できるが、②呉景◆◆◆3-1-3-0[孫堅]と3-3[孫堅:程普]では地色は同じだが旗標が異なるため、旅を構成することはできない。③勢力に対して与えられた部隊ユニット (徴募兵)はそれらの例外で、勢力に属するいかなるリーダーユニットとも組み合わせて旅を編成できる。旅はゲーム上で最小の戦闘単位であるが、小さきが故に恩恵を被っている。すなわち、徴発アクション(成功チェックの必要な移動)において+1修正、騎乗ユニットの旅の場合+1移動力を得ているため、牽制や側翼の防衛、敵の後方攪乱等に適しているといえる。もし、主力部隊のみで攻撃するのならば、3段の遅滞防御帯を構築すればそれを完全に防げてしまう。しかし、このような場合において、精鋭の旅を錐のように逐次ぶつけることで遅滞陣地に穴を穿ち、主力部隊の通路を啓開することができるだろう。
スタックのシステム:師 征戦の主力
戦闘の中核となるのが「師」である。師マーカーの下に1~10名のリーダーユニットとマーカーの編成値の個数以下の部隊ユニットを含む。編成値は2~5まで様々である。5部隊ユニットを擁する師はユニット数5倍によって成立する蹂躙攻撃を行えるため、側面や後方へ出てきた敵の旅を掃討することがが可能となり、作戦上で大きな意味を持つ。師を構成する師マーカー、リーダーユニット、部隊ユニットは同じ地色かつ同じ旗標である必要がある。
①例えば、師C3[孫堅:呉景]、呉景◆◆◆3-1-3-0[孫堅]、3-3[孫堅:呉景]は師を構成できる。②しかし、師C3[孫堅:呉景]、呉景◆◆◆3-1-3-0[孫堅]、3-3[孫堅:程普]では地色は同じであるが旗標が異なるため、師を構成することはできない。ちなみに、勢力に対して与えられた部隊ユニット (徴募兵)は前項の例外で、勢力に属するいかなる師マーカー及びリーダーユニットとも組み合わせて師を編成できる。英雄及び群雄直属の師マーカーには旗標が記されていない。これは、同じ地色であれば、旗標を考慮せずに師を編成できることを示している。③例えば、師一C5[孫堅]は孫策◆◆◆3-2-5-1[孫堅]、3-3[孫堅]、呉景◆◆◆3-1-3-0[孫堅]、3-3[孫堅:呉景]、3-3[孫堅:程普]という編成を行うことができる。もちろん、これに徴募兵を加えることも可能である。しかしながら、へクス内で師編成の最低条件(師マーカー×1 リーダーユニット×1 部隊ユニット×1)を満たせなくなった場合、即座に師は解散してしまうため、移動においては細心の注意を払う必要がある。師は攻城戦を行うことができる(旅は攻城戦を行えない)ため、より広範囲の作戦的な選択肢を有する。また、編成値5の師は野戦においても、会戦/大会戦解決シートの主力戦場(5ユニット分のスペースがある)でフル戦力を発揮することができるため、短期間ならば優勢な敵を支えることができるだろう。
スタックのシステム:軍 決戦兵力
『蒼天已死』において、師の上位に冠するのが「軍」である。軍マーカーの下に無制限のリーダーユニットとマーカーの編成値の個数以下の部隊ユニットを統率することができる。編成値は8~30まで、軍の率兵根拠たる将軍位に応じている。また、軍には自勢力の全ての師マーカー、リーダーユニット、徴募兵を含む部隊ユニットを所属させることができる。軍には地色及び旗標の制限がないため、英雄及び複数の群雄のユニット及びマーカーを組み合わせて所属させることも可能である。曹操勢力の奮武将軍の編成値は12なので、部隊ユニット12個を所属させられる。あるいは、編成値2を遣って、完全編成の師を1個所属させることもできる。つまり、編成値12を編成値5の師だけで遣うならば、部隊ユニット30個を所属させ得ることになる。大量の兵員を移動させることができる、これが何物にも勝る軍のメリットである。軍はまさに主攻軸であり、決戦の主力である。しかしながら、軍は街道上しか進めないというデメリットも有している。旅や師が、移動力の制約はあるにしろ比較的自由に盤上のへクスを機動するのに対し、軍は郡城の間に張り巡らされた街道に沿って機動するしかないのである。侵攻ルートは容易に予測され、防衛側が予め兵力を集めることも可能だろう。徒に軍のみに頼って作戦を立てることは、戦略の硬直化を招来することになる。
移動のシステム:任意の移動
このゲームにおいて、ユニットの移動は、任意に動けるものと移動のためのチェックが必要なものに大別される。前者が「騎行アクション」「出撃アクション」「行軍アクション」であり、後者が「徴発アクション」である。騎行アクションは、リーダーユニットを単独で移動させる方法である。特筆すべき制限はないが、郡城以外のヘクスで移動を終えた場合、他勢力の旅による攻撃(捕虜となる)を警戒すべきである。出撃アクションは、自勢力支配下の荒廃マーカーの置かれていない郡城から移動を開始するアクションである。郡城は移動のための補給マーカーを自動的に供給していると解していただきたい。出撃アクションの移動範囲内の郡城を占領するだけであれば兵站に関して問題はほとんど生じない。しかしながら、互いの郡城が1回の移動範囲内(他勢力の部隊ユニットのいるへクスへの侵入に1移動力余計にかかるため、4移動力以内)に収まるのは中原の最も人口稠密な地域のみで、通常は1回以上の経由点を設ける必要が生ずる。このような経由点に補給マーカーを設置し、それを消費して移動を行うのが行軍アクションである。注意しなければならないのが、行軍アクションで消費する補給マーカーは、各勢力に3個のみ与えられており、しかも、行動フェイズを3回行った後に訪れる内政フェイズでしか設置できないということである。機敏な機動戦を行うならば、補給マーカーは事前に設置しておく必要がある。
移動のシステム:ランダムの移動
「徴発アクション」は前記3つの移動とは異なる。移動の起点が郡城である必要も、補給マーカーの消費も必要ない。その代わり、1D6を振り、それにリーダーユニットの統率力、スタック規模による修正、地形による修正等を加え、それが6以上となれば移動成功である。例示してみよう。呂布◆◆◆2-1-5-1[呂布]が師を率いて、荒地(このゲームでは平地は緑豊かな農業地帯を示しており、少し外れれば荒地だらけである)から徴発アクションを行う場合である。呂布の統率力:+2 スタックの規模による修正:0 スタックの移動起点の地形による修正:-1で最終修正値は+1である。つまり、移動が成功するのは2/6の確率である。県城のあるへクスから移動するのであれば3/6となるし、冬季に移動するのであれば1/6に低下する。では、もっと能力の高いリーダーユニットではどうなるだろうか。曹操★4-5-2-4[曹操]が師を率いて、荒地から徴発アクションを行う場合である。曹操の統率力:+4 スタックの規模による修正:0 スタックの移動起点の地形による修正:-1で最終修正値は+3である。つまり、移動が成功するのは4/6の確率である。県城のあるへクスから移動するのであれば5/6となるし、冬季に移動するのであれば3/6に低下する。ちなみに、徴発アクションのサイコロの目が修正前に1であった場合は、消耗が発生する。また、徴発アクションの試みが失敗した場合は、その行動フェイズが終了してしまうので注意が必要である。これは、来援する予定だった友軍を待ち続けたために、好機を逸してしまう状況を想定している。
戦役の構造:軍師の戦争、都督の戦争
軍師が想定する戦争は、すべてを計画することができる任意の移動を前提とするだろう。郡城に集結した軍勢が、前衛部隊の前進、側防部隊の展開、補給マーカーの設置、主力軍の推進といった段階的手順を経て目標の郡城に迫っていく手法である。郡城の間隔によっては設置すべき補給マーカーの数が変わる。これは進軍距離によって戦争にかかる資金と時間が変化することを雄弁に物語っている。郡城から将来的に得られる利益、損害の補充も含めて、国家がこの作戦の費用負担と時間的浪費に耐えれるかどうかを勘案するのが、大局を見る軍師の責務といえる。これに対し、彼我の行動フェイズの偏り(「敵が3回の行動フェイズを終えたのに対し、当方は3回の行動フェイズを丸々残している!」場合等)が発生したときには補給マーカーを設置する時間的余裕はない。出撃アクションと徴発アクションを組み合わせて、目標の郡城を攻略する最低限の兵力を突進させるのである。事前に予測し難いこのような戦争は、作戦的優位を積み重ねて戦略的優位を形成しようとする都督(方面軍担当将軍)の戦争といえる。もちろん、現実はそれほど単純ではなく、二つの戦争要素が複雑に絡み合って戦略を形成していくことになるだろう。
戦闘解決:蹂躙攻撃と遭遇戦
このゲームには、彼我のユニット数によって4種類の戦闘解決法がある。第一は、「蹂躙攻撃」である。一方が他方の5倍以上のユニット数であった場合、蹂躙攻撃が発生し、無勢側は捕虜となる。よって、師(最高の編成値5であっても)の蹂躙攻撃は、部隊ユニット2個があれば阻止できる。逆に、軍の蹂躙攻撃は師を2つ配置しても防げないかもしれないので、50ユニット以上に兵力集中した軍に対しては、5移動力の間合いを取る必要がある。第二は、「遭遇戦」である。どちらかの部隊ユニット数が1個であり、かつ他方が4個以下であった場合、遭遇戦が発生する。遭遇戦は文字通り、行軍中の出会い頭の遭遇戦を想定しており、双方のプレイヤーは秘匿して戦闘に参加する部隊ユニット1個を選択し、1ラウンドのみの戦闘を解決する。どちらか一方のみが生き残った場合は、生き残った側が勝者側、他方が敗者側となる。双方の参加ユニットが共に生き残ったか、共に全滅した場合は、非手番プレイヤー側が勝者側となる。敗者は、そのヘクスから撤退しなければならない。このようなルールによって、精鋭部隊ユニット1個の攻撃によって部隊ユニット4個が撤退させられるという状況が発生する可能性がある。
戦闘解決:会戦と大会戦
会戦と大会戦は、その規模を除き、似通っている。どちらも、会戦解決シート上の配置ボックスにユニットを並べ、複数ラウンドの戦闘を行う。戦闘の合間には、幾つかの戦術アクションを行うことができる。配置ボックスの数は、会戦で5個、大会戦で11個(3+5+3)である。大会戦のそれは、左翼・主力・右翼に三分されている。戦術アクションは会戦においては1ラウンドにつき1個だが、大会戦においては戦術ポイントの範囲内で自由に組み合わせてそれを行う。会戦と大会戦の場合、撤退は容易であるため、単純に殴り掛かっただけでは敵に大きな損害を与えられない。予め、敵の後退路を断つ機動を行う必要があるだろう。
水軍:南船北馬
三国志のゲームであれば、水軍の要素を入れないわけにはいかない。当時、代表的な水軍といえば、長江を巡って覇を競い合った揚州と荊州の水軍だろう。ただ、孫堅が旗揚げ当初から水軍を整備していたわけではないし、荊州北部を制圧した劉表も初めから水軍を擁していた訳ではない。勢力に直属で水軍を持たせるには難がある。このゲームにおける水軍は、特定の郡城に付属する形になっている。すべての郡城が長江沿いではないので、実際の艦艇ユニットは郡城ごとに指定された港湾に置かれる。艦艇ユニットは当然ながら、長江の流れるへクスと湖へクス、それに沿岸の浅海へクスしか進入できない。遼東公孫氏との絡みを再現するため、青州と幽州の海上移動は、特別に許可されている。黄河に関しては、艦艇ユニットは進入できないことにした(黄河の水運は補給線としては使用できるが、艦隊の運用はできない)。地形の相関関係のシミュレートを優先させたため、このゲームの地図は河がへクスサイドでなくへクスの中を流れる形になっている。艦艇ユニットは部隊ユニットを搭載することができる。戦闘解決方法は陸軍と同じであるが、追撃は発生しない。また、全てのプレイヤーの行動フェイズが終了した時点で、艦艇ユニットはその所属する港湾へ自動的に帰還してしまう。このルールよって、水軍の作戦行動範囲は港湾から一定の距離内に限られる。
攻囲:長期的で確実な攻城法
郡城を攻略するためには、攻囲と強襲戦がある。攻囲を行うためには、手番プレイヤーのスタックが師マーカーまたは軍マーカーを含み、かつ未使用の「攻囲マーカー+0」を保有している必要がある。師マーカーまたは軍マーカーが攻城兵器を含んでいると考えていただきたい。攻囲を選択したなら、攻囲マーカーと荒廃マーカーを置く。籠城側は攻囲側を内側から攻撃することはできない。このルールは採用の可否をかなり悩んだが、気楽に籠城を選択できないようにするため、この形をとった。ちなみに、籠城できる部隊ユニット数は郡城の防御力(1~4)×10であるが、このルール故に大軍を籠城させるのは自殺行為となる。一度攻囲マーカーを置けば、攻囲解決アクションが可能になる。郡城の防御力の10倍の値の資金ポイントを支払い、1D6を振ってその値に攻囲マーカーの修正値を加えた値が6以上であれば、攻囲は成功する。攻囲マーカーは成功する度に+0→+1→+2とグレードアップし、+2マーカーで成功すれば、攻囲は完了して籠城側は捕虜となる。最短2か月、期待値4か月(6+3+2ターン)で攻囲は成功する訳だ。また、攻囲マーカーのあるへクスは他勢力のユニットへの攻撃を強制されないため、攻囲マーカーを置く副次的な効果として、複数のスタックを対象へクスへ移動させることが可能となる。一旦攻囲マーカーを置いて複数のスタックを集結させ、強襲に転ずるのがこのゲームの常道である。
強襲:拙速の策
攻囲はいつでも強襲に切り替えられるし、初めから強襲を行ってもよい。まず、強襲戦が発生した時点で、該当の郡城の非手番プレイヤーの部隊ユニット数が郡城の防御力未満であり、かつ手番プレイヤーの部隊ユニット数が郡城の防御力以上であった場合、その郡城は即座に落城したものと見做す。城を固め切れない兵力の場合、最低限の攻城兵力があれば自動的に落城させられるのである。各郡城に1部隊ユニットを詰めさせるのは支配マーカーを維持する上での必然なので必須であるが、後方の全ての郡城に2部隊ユニット以上を置くのは難しいだろう。防御する郡城(防御力以上の部隊ユニットを置く)と無防備の郡城(1部隊ユニットを置く)を使い分ける必要がある。また、攻める側はそこに乗ずる隙を見出すかもしれない。強襲は強襲解決シート上の配置ボックスにユニットを並べ、複数ラウンドの戦闘を行う。防御側の楼門と呼ばれるボックスは郡城の防御力の番号までしか使用しない。各楼門に対し、攻撃側は3部隊ユニットを充てることができる。戦闘解決時、騎乗ユニットは全て2-2または(2)-2の下馬戦闘ユニットに一時的に置き換えられるので注意が必要である。また、防御側は楼門の部隊ユニットの攻撃力と防御力に郡城の防御力を加えることができる。よって、殆どのケースで、攻撃側の攻撃成功率は1/6となり、防御側の攻撃成功率は5/6となってしまう。3部隊ユニットで楼門を攻めた場合でも、防御側を除去するまでにかかる攻撃は単純計算の期待値で2ラウンド、攻撃側は1~2ユニットの損失を計算に入れておく必要がある。つまり、防御側1部隊ユニットに対して、攻撃側が用意すべきなのは5部隊ユニットとなる。もっとも、一か所でも楼門を落としてそこを空白とすれば、その楼門を攻めていた部隊ユニットの数だけ籠城側を減らすことができるので、穴が開けば勝敗はたちまち決する。
外交アクション:一発逆転
このゲームにおける外交アクションは、英雄以外のプレイヤーが直接担当していない勢力(群雄)を自らの勢力に引き込む試みを言う。行動チットに混ぜ込まれた外交フェイズチットが引かれた場合に、直前に行動プレイヤーフェイズまたは内政プレイヤーフェイズを行ったプレイヤーのみが外交フェイズを実行する権利を得る。外交アクションは2種類あり、第一が使者派遣である。まず、費用として100資金ポイントを支払う。次に、使者派遣を試みる対象の群雄カードを指定し、1D6を振る。物理的な距離は影響しない。サイコロの目が6であれば、外交アクションは成功、その他の目の場合は失敗となる。外交アクションに失敗しても不利益はない。第二が直接交渉である。直接交渉を試みる場合は、この勢力の英雄リーダーユニットが直接交渉を試みる対象の群雄リーダーユニットの隣接へクスに存在しなければならない。費用は不要。プレイヤーは次1D6を振り、そのサイコロの目が6であれば、外交アクションは成功、その他の目の場合は失敗となる。サイコロの目が1であった場合、英雄リーダーユニットは処刑されたものと見做され、直ちにリーダーユニットを撃破ボックスに置く。サイコロが2~5であった場合、不利益は発生しない。どちらも成功率は6分の1であり、例えば8人プレイだとすると36ターン中に外交フェイズが回ってくる期待値は4.5回であるため、幸運に恵まれない限り外交アクションは成功しない。これが6人プレイであれば36ターン中に外交フェイズが回ってくる期待値は6回であるため、外交アクションの成功1回が見込まれる。外交アクションが成功した場合、指定された群雄の全軍が自勢力に属することになるため、勢力図が一変する可能性がある。
臣従:臥薪嘗胆の体制
後漢末期に対等の同盟関係はあったのだろうか。この例は思い当たらなかったので、このゲームにはルールで規定する対等の同盟関係は存在しない(プレイとしてそうプレイする事は妨げないが)。このゲームに用意されているのは臣従というプロセスである。各プレイヤーは、いずれかのプレイヤーの外交フェイズ中を除き、いつでも他勢力への臣従を申し出ることができる。臣従を申し出られたら、受け入れるか拒否するかを即決する。臣従は君主側からは解消できず、臣下側からは自由に解消できる。臣従関係にある勢力同士は、お互いのユニットやマーカーを有するヘクスへ進入できない。加えて、臣下勢力は君主勢力のユニット及びマーカーのあるへクスの隣接へクスにも進入できない。また、臣従関係にある勢力のユニットは補給線と連絡線を妨害しない。そして、君主勢力は1ターンに1回、ゲーム中ならいつでも指定する臣下勢力に貢納を求めることができる。臣下勢力は祭器マーカー1個か財貨マーカー1個のどちらかを選択して君主勢力へ渡さなければらならない。この貢納は祭器マーカーも財貨マーカーも有していない場合を除いて拒否できず、当然ながら貢納を避けるために臣従関係を解消することもできない。つまり、臣従関係にある勢力同士は軍事的には安全な関係となるが、他勢力との戦闘に何らかの援助を生ずる訳でもなく、臣下側は100資金ポイントまたは100勝利ポイントに匹敵する莫大な犠牲(安全保証料)を払わなければならない。このような同盟関係が生きてくるのは、君主側が軍事大国で、臣下側が祭器マーカーや財貨マーカーを得るほどの大国ではない場合に限定されるだろう。