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言葉、言葉、言葉(2024年5月の観劇記録)

タイトルはハムレットの有名なセリフから。
5月に観た3本の芝居は、いずれも言葉を大事にした作品だった。

↑これまでの観劇記録はこちら↑


アラビアンナイト

文学座の公演を観るのは、2022年の「欲望という名の電車」に続き2度目。

↑「欲望という名の電車」の感想はこちら↑

文学座アトリエについて

今回の観劇の動機の一つとして、「文学座アトリエで舞台を観てみたい」という思いがあった。
キャパ200くらいの濃密な空間だけど、隣の座席との距離が近過ぎることもなく、いい劇場だなと感じた。
雰囲気としては、KAATの中スタジオが近い気がする。

ファミリーデイについて

今回の「アラビアンナイト」は、かつて上演していた文学座ファミリーシアターのレパートリーの中から選ばれた演目らしい。
なかでも、私が観劇した日は、未就学児も入場でき、休憩の回数を2回に増やしているファミリーデイという日だった。

実際、当日は大人の観客だけでなく、小学生くらいの子や、もっと小さなお子さんも観にきていた。
開場中にはキャストによるジェスチャーゲームがあったり、開演前には「お子さんが泣いてもいいですよー」みたいなアナウンスがあり、アットホームな雰囲気が魅力的だった。

作品について

特にあらすじ等を読まないで観劇したのだが、子どもにも見せるにしては結構ハードな物語だなと思った。
そもそも「毎晩、別の娘を妻に迎えては、翌朝には処刑する」という導入部分の物語が子ども向きではない気がする。表現方法は随分とマイルドにしていたが、身体を四つ裂きにするなんて描写もあるので、「怖くないかな」と他人ながら気になってしまった。
(もっとも昨今のアニメでも流血シーンがあるだろうし、意外と子どもたちは耐性があるのかもしれないが…)

また、入れ子構造の物語になっている点は、少なくとも未就学児には理解が難しそう。

演出

私としては、古典作品をシスターフッドの物語として演出していると感じたが、子どもたちがどのように感じたかは大いに気になるところ。

役者はスーツやジーパンなどの衣装を身に付けており、小道具にはWoltの水色の配達バッグが用いられたりと、ポップな雰囲気が特徴的だった。
現代にも通ずる物語であることを伝える演出なのかなと思うが、少し安っぽい雰囲気がしたので、ここは諸刃の剣な気もする。

劇中ではいくつかの物語が披露されるが、「船乗りシンドバッドの冒険」では影絵などを用いており、他の物語とは毛色の違う雰囲気で印象的だった。

キャスト

総じて台詞回しが達者で、耳馴染みが良かった。

松井 工さんは、話を聞いている場面が多い中、細やかな演技をされているのが印象的だった。
ダンディな雰囲気の方だなと思っていたら、小池修一郎さん演出のミュージカルへの出演経歴が多数あるらしく、何だか納得した。

千田 美智子さんは、観客の子どもとのコミュニケーションの取り方がとても上手で、観ているだけでも温かい気持ちになった。


ハムレット

藤原竜也さんや内野聖陽さんのハムレットなど、映像では何度か観たことがあるけれど、劇場で観るのは今回が初めて。

タイトルロールを演じる役者に全てがかかっているお芝居なんだなと感じた。
柿澤勇人さんはどこまでも生き生きと演じられていて、とても魅力的なハムレットだった。

彩の国さいたま芸術劇場について

大規模改修工事で長らく休館していた彩の国さいたま芸術劇場。
今回、リニューアル後はじめて訪れた。

これまで同様、今回もB席に相当する、2階サイドバルコニー席2列目で観劇。
いつもお財布との兼ね合いで座っているものの、座席位置的に見切れが必ず発生するので、正直そこは我慢するしかない悲しい席である。
今回のリニューアルを経ても、見切れは変わらずあったが、高さのある椅子になり、少し環境は改善された気がする。
(※ただ、肘掛けや背もたれがない椅子なので、その点は注意が必要)


演出

非常にオーソドックスな演出だったと思う。
(前回の「ジョン王」はなんだったのだろう…)

↑「ジョン王」の感想はこちら↑

上演時間は休憩込みで3時間35分と、赤坂のハリー・ポッター並みだったが、あまり長いという印象は受けなかった。

セットは必要最低限にとどめており、ほとんど素舞台に近かった。
シェイクスピア劇らしく、台詞を聞かせることに重きを置いている感じがするのはポイントが高い。
一方で、暗点が多く長いのは、難点。(蜷川さんもその傾向はあったけど…)

登場人物の個性を捉えた衣装も印象的だった。(衣装:紅林 美帆さん)
特にいいなと思ったのは、ハムレットが右足だけ履いている黄色の靴下。
狂気を装っている場面で、黄色の靴下を履いていて、ハムレットのことを考えると、「確かに気が狂ったように見せたいなら、服装も変にするはずだよな」と納得感があった。
その後、オフィーリアが狂気に陥った際、黄色のドレスを身に纏っており、「ハムレットの偽りの狂気がオフィーリアに伝染したのだろうか」と考えさせられた。

また、前半は思ったより笑いどころが多いのも発見だった。
まさか亡霊のシーンで笑いを起こす余地があるとは思ってもいなかったので、とても新鮮だった。

キャスト


ハムレット役の柿澤勇人さんはとにかく素晴らしかった!
これは当たり役と言ってもいいと思う。
台詞を歌ったり、過剰に叫んだりすることなく、一言ひとこと丁寧に発していて、真摯にこの役と向き合っていることが伝わってきた。
劇団四季に在籍していたこともあってか、口跡がよく、全ての台詞が聞き取れるのが嬉しい。(当たり前のようで意外と聞き取れない方も多い…)

シーンとしては、船に乗る前にフォーティンブラスの一行と遭遇するシーンが特に印象的だった。
このプロダクションを観るまでは、正直そんなに印象的なシーンではなかったが、今回はじめて「ここでハムレットの気持ちが変化したんだな」と理解することができた。
「このままでいいのか、いけないのか。それが問題だ。」という小田島先生の訳がしっくり来るハムレット像だった。

オフィーリア役の北香那さんも存在感があった。
お飾りの悲劇のヒロインになることなく、狂気のシーンでは場の空気を掌握していた。歌が上手だったので、ミュージカルでも観てみたい。

正名僕蔵さんは、ポローニアスだけでなく、墓掘りの役でも出演されていた。
(ポローニアスと墓掘りを兼任するのは珍しい気がするけど、どうなんだろう?)
笑いどころとシメるところの緩急が効いていて、ベテランの妙技を見た気がする。

役者1の原慎一郎さん(櫻井 章喜さんとWキャスト)の長台詞も良かった。


ライカムで待っとく

2022年の初演は観劇できず、今回が初見。
初演の評判が良かったことは何となく知っていたので、再演の知らせを聞いてぜひ観たい!と思った。

想像以上にヒリヒリとした作風で、カーテンコールになっても、心が追いつかないくらいには作品に引き込まれた。
これが最も適切な表現なのかはわからないが、とにかく「観て良かった」と思える舞台だった。

上演意義が感じられる戯曲

「1964年の米兵殺傷事件に着想を得た」というような前情報を仕入れていたので、当時のエピソードが語られるのかなと思っていた。
しあし、あくまでも事件は導入に過ぎず、現在進行形で起きている問題を語ろうとする、とてもパワフルで今日的な戯曲だった。

また、沖縄を舞台にした物語でありながら、神奈川の米軍基地についても言及するなど、KAATで上演する意義も感じられる内容だった。

沖縄のなはーとでも上演するようだが、現地の人がどのようにこの物語を受け取るのか、とても興味がある。

安易な寄り添いを拒否する戯曲

この作品は、「沖縄は日本のバックヤードとして、犠牲を払いながらも、そういう決まりだからと受け入れています。」と訴えてくる。
でも、「辛いですよね、なんて簡単に寄り添わないでよね」とも。

私自身、沖縄にルーツが一部あるものの、沖縄で暮らしたことはないし、現地の人からすれば、内地に住む一人に過ぎないと思う。
「ルーツがあるから、皆さんの苦しみがわかります」なんていうのは驕りでしかないけど、かと言って「何もわかりません」なんて開き直りたくもない。
正直、今明確な答えはないけれど、この戯曲から受け取るモヤモヤ感を一過性のものとして消費したくないなと思う。

先月観劇した「夢の泪」で「私たちは見捨てられた」なんて台詞があったけれど、諦観漂う感じは何となく共通しているなと思った。

スタッフ

田中麻衣子さんが演出する作品は、今回初めて観たと思う。これだけ作家の想いが乗った戯曲を演出するのは相当のプレッシャーではないかと想像する。
劇中で何度か、客電がつく場面があり、「これはお前たちにも関係する話だぞ、フィクションじゃないぞ」というメッセージだと解釈した。
(戯曲を読んでいないので、もしかするとト書きに指定があったのかもしれないが…)

国広和毅さんの音楽が印象的だった。沖縄の三線の音色も良かったが、個人的には時々挟まれる不穏なエレキギターの音色が非常に効果的だと感じた。
特に、エレキギターの演奏のもと、アメリカへの怒りを露わに俳優たちが躍動するシーンが心に刻まれた。

キャスト

浅野 悠一郎役の中山祐一朗さんは、初めてお目にかかる役者さん。
記者は記者でもカルチャー誌の記者という設定がまた絶妙で、政治的なコンテクストはなるべく避け、なぁなぁで生きていきたい感じが現代の日本人の典型みたいな設定だなと感じた。
ある意味感情移入しやすいキャラクターで、すぐに周囲に「どうしたらいいですか?」とか説明を求めるところは観ていてイライラするところがありつつ、身につまされる部分もある。
だからこそ、自分の意思で回り続ける舞台セットを止める最後のシーンには、ジーンと来るものがあった。
初演に出演されていた亀田佳明さんは、どんな感じだったのか気になるところ。

タクシー運転手役の佐々本宝さんは、柔らかな雰囲気なのに、どこか影を感じさせるお芝居。
全てを諦め受け入れようとする、作中で描かれる沖縄の人たちを体現したかのような存在だった。




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