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現代のホラー『ありがたむら』ショートショート
男は、ひとりで黒鳥山に登っていた。この日は男の32歳の誕生日で、ひとり、頂上にてワインで祝杯をあげる計画だった。だが、途中で道に迷ってしまい、薄暗い山のなか、つい足を滑らせて岩に頭をぶつけて意識を失ったのだった。
翌朝、気がつくと、いつのまにかベッドで寝ていた。緑色の土壁で、なんの装飾品もない、六畳ほどの薄暗い和室だった。
「ここはどこだ!」
大声をだすと、頭に激痛を感じ、頭を押さえた
現代のホラー『地雷を抱いて眠る男』ショートショート
ぶんぶんと音がする。まわりをみわたすと、部屋の中を蚊のやつがひょいひょいと飛んでいた。私は蚊をみるたびに、昨年、32歳で亡くなった青谷の事をふと思いだすのだ。
青谷は私と同期で、広告代理店での同僚だった。おたがいに新入社員として入社し、おなじ事務の仕事をしている関係で、一緒によく飲んだものだった。青谷はまえからどちらかというと潔癖症で、洋式トイレではテッシュでふいてからすわると青谷は話
ショートストーリー『笑葬』
桜の花が甲信越の地を、薄紅色に染めあげた頃、円山の訃報をうけとった。春は彼の一番好きな季節だった。
連絡をうけたのは、ホ―ムセンタ―での仕事を終えたあと、自宅でくつろいでいたときのことだった。北海道に住む高校時代の旧友である竹原から、円山が今朝、糖尿病が悪化して、突然亡くなったと知らされたのだ。私は父の転勤のため、高校時代を北海道で過ごした。その後、新潟に帰り、就職をしてから十五年の時が流れてい