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SFショートショート『マリアの涙』
お知らせ
8月26日、午後10時45分から、NHKさんで、星新一さんの実写化ドラマが始まります。前回は少し期待しすぎて、あれっという感じでしたが、今回は名作の回もありますので期待大です。
そこで今回は、書き上げたばかりの私のSFショート・ショート『マリアの涙』をUPします。動画にして、ドラマ風に作成もする予定です。書き上げたばかりなので、今後、推敲して手直しもあると思います。よろしくお願いします。
SFショートショート『マリアの涙』
私はとある市の福祉課で仕事をしている。
AIの従業員たちの管理が主な仕事だった。
未だに市民のなかには、AIに対して違和感を抱くものがあり、そうした人との対応もしているのだ。
AIを搭載しているアンドロイドたちが市役所に常勤して何年たっただろう。
AIが事務職をはじめ、さまざまな業種に進出して、活躍していた。
市役所で働くAIはマリアと呼ばれている者がいた。
顔立ちが慈悲深く、聖画で描かれているマリアさまに似ていたからだ。
マリアは以前、都内のキリスト教会で、シスターをしていたそうだが、教会に来る人達から批判が多くでて、市役所での仕事につくことなったのだそうだ。教会での仕事ということで、ほかのAIアンドロイドにくらべて、より人間性が感じられる仕様になっているそうだが、私自身、人間にしか思えないと思うことがよくあった。
そんなある日のこと、就業時間が終わり、マリアから相談を受けたのだ。
少し、うつむいているマリアにどうした? と、声をかけると、
マリアは少し瞬きをして、ゆっくりと唇を動かした。
なんて皮肉なことだろう。
今のAIアンドロイドの表情は、現代の私たち人間よりも表情が豊かだ。
マリアの美しい顔にみとれていると、
「志波さん。私、悩んでいるのです」
「なにがどうした?」
私があわてて訊くと、マリアは悲しげな表情を浮かべ、
「私、涙がでないのです。市民のみなさまから、どんなに辛い身の上を聞いても、悲しくなるのに、涙がでてこないのです。私、涙を流したい」
私は腕組みをして、AIも人間に近づいてきていることに、少し怖さも感じた。
「いやいや、マリア。私たちでも相手の感情に流されることなく、つねに冷静かつ客観的に対応しているのだよ。涙をみせることもしていないよ」
マリアは、それでも納得することができないでいるようだった。私はよくわからない不安に襲われていた。
そんなある日、福祉課の個々に相談を受けている、小部屋から、女性の叫び声が聞こえてきた。あわてながらも、走りより、小部屋のドアを開けると、マリアが床に倒れていた。よくみると、マリアの頭の部分から黒い煙がでていて、目のあたりには火花が散っていた。
「いったいどうしたのですか?」
相談に来所していた市民の女性に聞くと、女性が悩みや身の上話をしていたら、マリアがなんども目になにかを入れ始めたのだと言う。マリアの近くには目薬が落ちていた。私の不安が的中してしまった。マリアは目薬をさして、涙を流そうとしたようだ。
そして、目薬のなかの水分と薬品の成分が、マリアの目から入り、内部の機器を損傷させてしまったのだろう。
マリアは震えながら、白く美しい腕をあげて、手のひらで自分の目をぬぐうそぶりをした。
そして、マリアは言った。
「私……、人間として生まれたかった……」
そして、赤く焦げたマリアの目からは、幾筋もの液体が流れてきた。
それがオイルのようなものなのかはわからない。
私は思わずマリアを抱き起こし、
「マリア。君は人間よりも人間らしいよ」
と、震える声でつぶやいた。
私はマリアを強く抱きしめた。もう数十年も流していなかった涙が、止めどなく私の頬を流れていた。
マリアの目をみつめる私に、マリアはありがとうとつぶやくと、微笑み、私の頭を撫で、そして動作を止めた。
(fin)
星谷光洋MUSIC Ω『銀の指輪』VOCALOID
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