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2019-05-07〜|詩のまとめ

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2022年5月の記事一覧

静寂が肺を満たす。静かに寄せては返す波の向こうに、私は昨日の夢を夢見ている。
波はまだない。時は止まっている。
凪いだ岸辺に、舟が一艘泊まっている。明日は風が吹くだろう。その時にまた、私は岸を離れるだろう。舟を漕ぎ、一人沖へ向かって、名も知らぬ何処かへ旅に出ようとするだろう。
すべてのものには名前はまだない。まだ、今のところは。

言葉はいらない

弛緩しきって降り立つ場所を探す時
もうすぐ先に限界はある

筋肉の繊維のひとつひとつを
ひび割れた細胞の欠片を思う

金属質の唸るような風切り音に紛れて
大停電の夜は続く
夜も明けきらぬ 眠りも覚めぬ頃
風の中で錐揉みに揉まれて
舌の上に広がる極上の味を天罰と受け取って
果てに向かって 飛ぶ

風に吹かれて

海岸沿いに立ち尽くして 果てのない夜の旅
砂に埋もれる足の指
果てはない けぶる夜の彼方
夕闇色の気配を纏って 裾から覗いた踝の硬い骨
淡い骨の色を辿って あてのない旅に出る

耳の奥に残っていた 夕まぐれの風を切り裂いて
身体は前へ飛んでいく
もっと遠く 果てのないところへ

宵闇を切り裂いた夜の風 引き裂いて肌に纏えば
いつまでも胸の奥で 澄んだ音で鳴る風の色
ひとつ残らず掴んで 今はただ風に

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紫陽花の雨

柔らかかった
涙の味は柔らかかった
紫陽花に降る雨
濡れた葉の上に光るしずく
水滴は雨樋を伝って 静かに流れていく

向こう見ずな海岸線 振り返っても誰もいなかった
空はぼんやりと曇って
舌の先が痺れた

今日は海に抱かれる夢を見て
塩辛い眠りの中
明日は素肌の上 名も知らぬ魚と泳いでいる
遠くまで 君と……