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2019-05-07〜|詩のまとめ

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九月

明るい日差しに取り囲まれて、少し翳りゆく時の、物体に当たる影の形、その床に伸びた影の形。
俺は日差しの角度が少し変わったことに気づいていた。茹だるような夏は永遠に続くように思っていたけれど、祭りに終わりがあるように、やはり秋は来る。
秋は祈りの季節だ。収穫物に感謝を捧げ、豊作を願う。

忘却

闇の中に
朧げに赤い光が連なって揺れている
手を伸ばせば 触れているともいないともつかぬ
ただ内側から闇に潜み 花開いて潤んでいく肌の温もりがある
夜の闇に心を奪われ 戯れているうちに
今あるこの気配すら 忘れてしまっている

ブリガドーン

地の底を這うような音が聞こえる。それから乾いた音で鐘が鳴る。
ふとそれが、滅びの歌のように聴こえる。
風が地を這い、唸りをあげて地面を撫でるような。
まるで地鳴りのような。

僕は全ての神々について思った。
それらに仇なす人々が、命と引き換えに怒られるんだと思っていた。
でもそれが何故だか少し、嬉しかった。

夜の天使

公園のブランコではしゃぐ
夜の子供たち

闇の中で翼を広げる
夜に飛ぶ天使

キスは甘く柔らかく
肺の中に血を広げる
鉄錆の匂いをさせて

ふくらはぎの辺りまで
甘く痺れて
恍惚としてくる

環天頂アーク

駅前のホールにいた。
空間の中にぽつんと置かれたピアノ。その前に一人の人が座り、ピアノを弾いている。鍵盤から放たれる、宗教的な調べ。祈りと光とを合わせ持って、生まれ出る闇を柔らかく拭い去るような。
光は天から落ちてくる。速度を緩めて、今また柔らかく翻り、飛翔していく。
光の翼になって。

波のさざめきを聞いていた。きらめく光は、虹色になって消えた。
海は遠かった。

星のクズ

日の暮れ近く
夏の過ごし方を思い出す
宵闇を月が明るく照らす

昼間のうちに見る夢で
白昼堂々やって来た遠雷は
トタンの屋根を激しく叩いた

宵闇 月明かりの中
真昼の夢は背後に隠れた

二人を明るく照らすのは
降り注ぐ一粒一粒の雨
それらのすべてが星になり
流れて 宇宙の塵になる

あおぞら

手放す時の空は明るい
手を離した空は青い

夜はただ
青くて
冷たくて
張り詰めていて
美しい

東雲

悲しみを押し留めなければ
自然に涙が溢れる

東雲近く
あなたの寝息を聞けば
孤独は感じない

明け初めし夕暮れは
あるいは 世界の終わりかも

芳輪

白檀の匂いを嗅ぐと、その煙の流れに沿うように、
廻る法輪を思い描いてしまう。
甘やかな匂いの中に、薄っすらと苦痛すら感じるものだ。
その気配をいつも、罪深いと思っていた。
静けさの中に、蠱惑の誘い。
幾度罪を重ねても、止められるものではなかった。

滴りゆくもの

夏の午後の光の中で 永遠に時が止まったようになる。
彼女の輪郭は揺らいで 震える睫毛の上に 時が凍っている。
彼女の笑顔は柔らかく失われていく。はにかんだ頬の上に。
永遠に時が止まり 彼女はひとつの彫刻になった。
幾つ時を重ねても 彼女の笑顔は 戻りはしない。

自然に溢れる 時の流れを感じている。
緩やかな 祈りの上に。

砂丘

埃っぽい砂地にうずくまり
私は終わりの時を待っている
天から夢のような日々が降り注ぎ
全てが青に紛れ
虚空に吸い込まれていくのを
横たわり見ている。

遠くに聞こえている
空から
空から降りてくる――神の声が。
舞い降りる
白い花びらのように。
薄青い地平線に目をやっていた
砂漠の砂は、白いままだった。

静寂が肺を満たす。静かに寄せては返す波の向こうに、私は昨日の夢を夢見ている。
波はまだない。時は止まっている。
凪いだ岸辺に、舟が一艘泊まっている。明日は風が吹くだろう。その時にまた、私は岸を離れるだろう。舟を漕ぎ、一人沖へ向かって、名も知らぬ何処かへ旅に出ようとするだろう。
すべてのものには名前はまだない。まだ、今のところは。

言葉はいらない

弛緩しきって降り立つ場所を探す時
もうすぐ先に限界はある

筋肉の繊維のひとつひとつを
ひび割れた細胞の欠片を思う

金属質の唸るような風切り音に紛れて
大停電の夜は続く
夜も明けきらぬ 眠りも覚めぬ頃
風の中で錐揉みに揉まれて
舌の上に広がる極上の味を天罰と受け取って
果てに向かって 飛ぶ

風に吹かれて

海岸沿いに立ち尽くして 果てのない夜の旅
砂に埋もれる足の指
果てはない けぶる夜の彼方
夕闇色の気配を纏って 裾から覗いた踝の硬い骨
淡い骨の色を辿って あてのない旅に出る

耳の奥に残っていた 夕まぐれの風を切り裂いて
身体は前へ飛んでいく
もっと遠く 果てのないところへ

宵闇を切り裂いた夜の風 引き裂いて肌に纏えば
いつまでも胸の奥で 澄んだ音で鳴る風の色
ひとつ残らず掴んで 今はただ風に

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