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2019-05-07〜|詩のまとめ

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2020年4月の記事一覧

貝拾い

遠浅の日差しの中
痛み止めを飲んで
華奢な脚をゆらゆら動かした
砂浜の温かさに皮膚も呼吸している
澄み切った季節も滲んで
まばらに通過していく

波打ち際に貝殻を捨てて
湿った空気の中で手足をひらひらさせている
空気は生温かった
空は白かった

春には名前がない貝が
いくつも打ち寄せられて
それらの全ては押し流されて
海鳥の餌になる

花冷え

遠くへ行けば行くほど
言葉は溢れるけれど
緑滴る五月に向かって
林は雨を溜め込んで
土に水を含み
木漏れ日に柔らかな風を吹かせて
誰もいないところで待っている
待っている
柔らかな肌に傷をつけたあの日に
もう二度と来ない春の宵に

水のゆらぎ

雨が窓を打つときは
前世の記憶にしたがって
そっと耳を傾ける
記憶は妄想の彼方で いつも静かに眠っている
深い眠りに包まれていた遠い日に

雨の降り注ぐ細かな水滴の走る音
滔々と流れる川の
水を湛えて揺蕩う様子
それらのすべてに意味はあり
それらのすべてに意味などなかった

手のひらを走る葉脈に沿って
流れる記憶の彼方に
すべての過去が 消えていく

残響(呼吸)

焼けつくような孤独の果てに
人は何の夢を夢見ているのか
いずこへ いずこへ行こうとするか

石で出来た冷たい十字架
不穏な時代に共鳴している

白い肌に流れる血
石段の踊り場まで流れて
絶え間なく床を濡らしていく

血も涙もない人形になって
もう一度
冴えない時代に生まれ変わる
神の僕

礼拝堂の隅で 擦り切れた羽根に見とれていた

静寂が谺している
血の色は呼吸している…