準備始めました
不登校だった息子は中学を卒業したあと、高校には行かず、働きにいくこともなく、うちでのんびりと過ごしている。悩みはあるといえばあるのだが、忘れしまうくらい、落ち着いた日々。
それでも、相談ができる場所をみつけたかった。家族だけで抱えてはいけない。話を聞いてもらって、新たな気づきを得たいし、話すことでわたしの考えをまとめたい。
一から説明する気力がなくて、結局息子が小学生のときにお世話になっていたところに、再びお世話になることにした。
久しぶりの相談に、胸がドキドキする。手には汗を握っている。うまく話せるだろうか。いや、うまく話す必要はないはずだ。素直にわたしが伝えたいことを話そう。
深呼吸して、相談室に入った。
わたしを相談員の先生は、笑顔で迎えてくださった。それだけで、ホッとする。
息子の様子をかいつまんで話す。
小学校卒業後、少しずつ体調の良い日が増えたこと。本人のペースで遅刻や早退、休みを入れつつ、中学に通えたこと。中3の夏からは、疲れからか休む日が増え、もっと通いたいのにと落ち込んだこと。卒業を経て、今はマイペースに好きなことをしていること。
わたしの印象がずいぶんと変わったことに、先生は驚いてみえた。無理もない。4年前に相談したときには、被害者顔で、焦りや戸惑い、不安ばかりを口にしていたはずだ。思い出すと恥ずかしい。
相談の最後。
「ではお母さん、そろそろ息子さんの巣立ちのこころ準備だけしておきましょうか。」
思いがけない言葉に、カチンと固まる。
「…は、い。」
車で帰る道すがら。
先程の言葉の意味を考える。
巣立ち…今、この状況で…
いや、巣立ちを意識するということなのだろう。巣立ちを妨げる親にならぬように、釘をさされたのかもしれない。
娘の巣立ち、1年前から意識して準備したのに、巣立ったあとの寂しさから体調を崩した。息子の巣立ちのときも、同じように不安定になるだろう。繊細な息子は気を使い、巣立ちができないかもしれない。そうなるのはごめんだ。
準備し始めよう。できることから。
一緒にいられる時間を楽しむんだ。
巣立ちのときがやって来るまで。
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