坂本龍馬を追っかけて
25才のとき、ひとりで高知に行ったことがある。保育士資格試験を受けることを理由にしていたけれど、本当は違った。
8月頭、夜行バスで降り立った高知は、朝から日差しが強く、蒸し暑かった。その日の最高気温は、38度。
ジブリの映画『海がきこえる』に出てくるような私立高校で、汗をかきかき、筆記試験を受ける。窓近くの扇風機が、カラカラと申し訳なさそうに、回り続けていた。とにかく、とんでもなく暑い。
どうして、高知に来たかといえば、坂本龍馬の生まれたところだからだ。歴史好きなわたしは、特に武士に強い憧れがあって、小学生のころは戦国時代、中学以降は幕末に惹かれていた。それで、剣道を習っていたこともある。
歴史は、壮大な物語だと思う。特に、劇的に世の中が変わったであろう、幕末期。その中で、歴史を動かした人物、坂本龍馬。かっこいい。かっこいいだけでなく、かわいらしい人でもある。人柄や生き様を知れば知るほど、惹かれていった。関連の本を手当たり次第、読んだ。
学生時代、ひとり、日帰りで京都に行き、迷いに迷い、坂本龍馬ゆかりの地を探索していた。おかげで、道を尋ねることは得意になった。
坂本龍馬は、筆まめな人で、その手紙の一部が残されている。博物館で、その手紙を見たり、坂本龍馬が歩いたであろう道を歩いてみたり。そうやって、当時に想いを馳せていた。
なんとなく友達には言えない、親や祖母には言いたくない、妹たちには少し話し、共感は得られなかったけれど、「お姉ちゃんらしいよね」と納得されていた。
さて、肝心の保育士資格試験は、1日目の音楽の筆記試験で落っこちて、2日目のピアノの実技は受けられなかった。勉強が全く足りなかった。
翌日、気を取り直し、高知弁に耳を傾けながら、高知の街を歩きまわる。意外に小さいはりやま橋を見て、商店街で鰹のたたきを食べた。高知城にも行った。それから、バスで桂浜まで。坂本龍馬記念館では、坂本龍馬の手紙をじっくりと味わった。
そのあと、桂浜を散策。空が青く、風も強く吹いていた。桂浜の向こうには、海がずっとずっと向こうまで広がっている。波が荒い。ぼんやりと、きらめく海を見つめ続けた。
ここで、坂本龍馬は、生まれて育ったんだなぁ。あぁ、日差しが痛いくらい。でも、気持ちのよいところだ。
桂浜で潮風に吹かれていたら、なんとなく、もういいかと思えた。やりきった感がある。
それからは、もう龍馬ゆかりの地には行っていない。龍馬関連の本も読まなくなった。結婚して、子どもたちが生まれて、もうほとんど、龍馬のことを忘れてしまった。
2010年のこと。大河ドラマ、『龍馬伝』を観て、やっぱり、龍馬はかっこいい!と久しぶりに胸が高鳴った。それからも、大河ドラマに龍馬が出るたび、うれしくなる。
けれど、熱量が違う。あの学生時代の、ひたむきだった想いを、ちょっぴり、懐かしく思い出している。