平成26年2月23日
その男がバイオリンの弦───小さなアクリルの透明な抽斗の中にあったものを全て、ごっそり掴んでコートに入れたのを見たあと、ぼくたちは何mも離れていたのにばっちり目が合った。
棚卸しが合わないなと気付き始めた今日この頃、よく見かける怪しい男がいる───とぼくに相談していた同僚に、「アイツです」と耳打ちされたぼくは、少し離れた陳列棚に隠れ、ギターピックを整理しているフリをしながら男を見張っていた。
男の死角になる音楽教室の入り口の方に退がらせた彼女の顔色は少し悪い。管楽器の専門学校