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カラマーゾフの兄弟/ドストエフスキー

人の心における善悪の問題、生と死の問題、宗教と科学の問題、一族の血の問題、家族愛、友愛、師弟愛、男女間の愛と憎悪、出自や運命を呪う気持ち、人が人を裁くという問題。
とにかくありとあらゆる普遍的な問題をふんだんに織り込み、さらに各パートそれぞれがひとつの作品といって良いほどの内容の濃いストーリー群。
それらを紡ぎ合わせ、壮大な一本の物語へと形作る手腕。
魅力的な登場人物を描く上での緻密な人間描写。
心の移りゆく様を描き切る忍耐。圧倒された。

幼少の頃、親に自分の罪を認め、全てを打ち明け許しを乞うたときの晴れやかな心を、全てを受け止めてくれた親への感謝を。兄弟や友達と喧嘩し仲直りする過程での気持ちの清らかさを。大人になって忘れていたたくさんのことを思い出した。

罪とは。良心とは。真実とは。人間らしさとは。人間の良心を信じ抜くドストエフスキーの優しさと強さと忍耐に感動した。
飾りのない真っ直ぐで情熱的な会話のやりとりに涙を流さずにはいられなかった。

いつか読みたい、読めたら格好良いなどと不純な動機により、中古で一部のみ購入していた。
古典であり、しかも海外の文学となると読むまでにどうしても時間と心の余裕を必要とする。しかし「罪と罰」同様、読み始めるとあっという間に作品の時代、場所へと引き込まれる。時代背景や、ロシアの風習、宗教の知識が薄い分、読み進めるのが困難な箇所もあったが、なんとか読了できた。できて良かった。

村上春樹は言った。「世の中には2種類の人がいる。カラマーゾフの兄弟を読んだ者と読まない者」果たして僕は「読んだ者」となることができた。
この経験は問題を読んだものにしか得られない。時代も国も宗教も言語も、あらゆる違いがある作品を読むことで得られる幅広い視野と価値観。
そしてそれらの違いをも乗り越えて訴えかける普遍的なテーマの炙り出しと、本質的な人間同士のコミュニケーション。それらが描かれた本作品はやはり大作にして名著。めいちょ。

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