【本要約】2030年すべてが「加速」する世界に備えよ(第1部)
2030年すべてが「加速」する世界に備えよという本の全ての章を対象に印象に残った内容をまとめていきます。本書は大きく3部構成になっており、まずは第1部から投稿していきます。
第1部 「コンバージェンス」の破壊力
第1章 「コンバージェンス」の時代がやってくる
・「空飛ぶ車」は現実になる
2018年、ロサンゼルスは世界で最も渋滞のひどい大都市という称号を受け取った。
ドライバーは年平均約2週間半を渋滞にハマって過ごす計算になる。
世界で最も渋滞のひどい25都市のうち、10都市がアメリカにある。
それによる逸失所得や生産性のロスは3000億ドルに近くなる。
こうした課題もあって、ウーバーを筆頭に空飛ぶ車を開発する会社は少なくない。2019年までに少なくとも25社の空飛ぶ車の開発会社に10億ドル以上が投資されている。Googleの親会社のアルファベットのCEOラリー・ペイジは、ジーエアロやキティホークなどに個人的に出資している。
ウーバーは2023年には空飛ぶ車を完全に事業化したいと考えており、最終的には自動車よりも保有コストが低くなるように画策している。
・テクノロジーが「融合」しつつある
インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアが、「ムーアの法則」を唱えた。これは「半導体の集積率は18か月で2倍になる」という半導体業界の経験則。
今当たり前に普及しているスマートフォンが、1970年代のスーパーコンピュータより大きさは1万分の1、価格は1000分の1、性能は100万倍になったのはムーアの法則に則っているためである。そして新しく開発されるコンピュータの機能が増加すれば次にコンピュータが開発されるスパンは短くなっていく。エクスポネンシャル(指数関数的)なテクノロジーの中に強力なイノベーションがいくつもある。量子コンピュータ、AI、ロボティクス、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、材料科学、センサー、3Dプリンティング、AR、VR、ブロックチェーンなどだ。これらの技術が今「融合(コンバージェンス)」しようとしている。例えば医療品開発が加速しているのはバイオテクノロジーだけが進化しているのではない。AIや量子コンピュータなどがこの分野で融合しつつあるためだ。
・空飛ぶ車の三つの条件 安全性、騒音、価格
空飛ぶ車が開発されるためにも一つのテクノロジーだけではなく、複数のテクノロジーが融合することで加速していく。1つ目は複雑なフライトシミュレーションを行うための機械学習の進歩。2つ目が飛行できるほど軽量かつ耐久性がある安全な部品になる素材を作るための材料科学。3つ目はあらゆるサイズのモーターやローターを作るための製造技術である3Dプリンティング。
空飛ぶ車を安全に飛行されるためにはギガビット単位の情報を同時に処理できるコンピュータ制御が必須である。情報を正確に拾う技術に、GPS、LIDAR、視覚映像化設備、超小型加速度計。情報を正確に処理するAI、量子コンピュータ。それらの動力源の電力には太陽光発電やリチウムイオン電池の開発。空飛ぶ車を一般の人に普及されるために開発コストを低くしなくてはならず、3Dプリンティングを高速化することで解決させる。これらの開発は未来ではなく、「今」まさに行われている。
・「ローカルでリニアな時代」は終わる
アメリカの発明家レイ・カーツワイルが提唱した「収穫加速の法則」というのがある。先ほど紹介したムーアの法則と同じような法則だ。一つの重要な発明は他の発明と結び付き、次の重要な発明の登場までの期間を短縮し、イノベーションの速度を加速することにより、科学技術は直線グラフ的ではなく指数関数的に進歩するという経験則である。
要するに空飛ぶ車は技術的革新のほんの一部に過ぎないと言うことだ。
・自動運転車のポイントはデータ
自動運転車の普及が進むと自家用車を所有する必要が無くなる。カーシェアの方が圧倒的にコストを低く抑えられるから。アメリカ人の多くは30分以内の通勤なら構わないと思っている。しかしロボットがハンドルを握るようになれば、車内は寝室、会議室、映画館にもなる。そうすれば多少通勤時間が伸びても不動産コストが低い地域に住むという選択肢が出てくる。車を所有しなくなれば駐車場を借りる必要が無くなる。また、スピード違反や飲酒運転のリスクも無くなるし、駐車スペースを探して彷徨き回ることも無くなる。(駐車場もデータベース化すれば空いているところに直接迎える。近場の駐車場が満車だった場合、路上で車を乗り捨て、自動的に元あった場所に戻ってもらえばいい)
自動運転車が普及すれば車のサブスクサービスが出来るかもしれない。費用は今自動車を所有するだけで掛かるコストよりも安い値段で。もちろん免許を持っていない人もこのサービスは使える。いずれにせよ10年後の交友手段は今日とはまるで違った姿になっているはずだ。
・イーロンマスクの怒りが生んだハイパーループ
マスクが提唱しているハイパーループとは磁気浮上技術を使い、筒状の真空チューブ内で乗客を乗せたポッドを最大時速約1200キロで走行させる高速交通ネットワークだ。
ハイパーループはパワーエレクトロニクス、計算論モデリング、材料科学、3Dプリンティングがコンバージェンスすることで実現可能になってきた。計算能力が高まったので今ではハイパーループのシステム全体の安全性と信頼性をクラウド上でシミュレーションできるようになり、電磁気システムから大規模なコンクリートまで3Dプリンティングできるようになれば製造面での課題もクリアできる。このようなコンバージェンスの結果として開発ステージは様々だがハイパーループを開発するプロジェクトは世界で10件以上は進行中だ。
・マスク、トンネルを掘る
イーロンマスクはニューヨークからフィラデルフィラ〜ボルモチア〜DCを結ぶ地下道路を建設する認可を受けた。ニューヨークからDCを約29分で結ぶ。この地下道路はいずれハイパーループ互換が出来るように設計している。
・ロサンゼルスからシドニーまで30分
2017年9月に開かれた国際宇宙会議に登場したマスクは飛行機エコノミークラス並みの価格で「地球上どこでも1時間以内に飛んでいける」ロケットサービスの実現を約束した。これは有人火星飛行のために開発していた「スターシップ」で実現する。
スターシップは時速約28000Kmで飛行する。これはニューヨーク〜上海間が39分で行けるスピードだ。実現には安全性を確認するため時間がかかるかもしれないが2019年4月にはスターシップ初の試験飛行が行われた。10年後の未来では「ちょっとランチにヨーロッパまで」というのが当たり前になるかもしれない。
・なぜヒトは未来を見通すのが苦手なのか
機能的磁気共鳴画像装置を使った研究では、私たちが未来を予想しようとすると奇妙な現象が起こることが明らかになっている。内側前頭前皮質が動作を停止するのだ。これは自分自身のことを考えるときに活性化する脳の分野だ。反対に他の人々のことを考えるときには不活性化する。自らの未来に想いを馳せると内側前頭前皮質が活性化すると思うかもしれないが、実際にはその逆で不活性化する。つまり脳は未来の自分自身を他人として扱うのだ。多くの人が老後に備えてダイエットを続けたり、食習慣を変えたりするのが苦手なのはこのためだ。脳から見ればそれによって恩恵を受けるのは努力した自分とは別人なのだ。
・あと10年で世界は激変する
起業家にとってシードキャピタルを調達するまでに掛かる時間は数年から数分に縮まった。ユニコーン企業が誕生するまでにかつては20年かかっていたが、今日ではたった1年で到達できるケースもある。残念ながら既存の大手組織はなかなかついていけない。今の大企業や政府機関は別の世紀に作られた。その目的は安全と安定、急速かつ劇的な変化に耐えられるようには作られていない。
これは社会制度にも同じように適応に苦しんでいる。今の教育制度は18世紀の産物で子供たちをバッチ処理して工場労働者に仕立てることを目的としていた。現状の世界でそういう仕事は無くなってきている中で18世紀と同じような教育制度で育っていくのであれば、社会のニーズとハマらない若者が出てくるというわけだ。
要はこういうことだ。すぐ先に待ち受けている未来を見通し、来るべき事態に適応する機敏さを持つことが今の世界ではとても重要なのだ。(以前までの世界と比較しても圧倒的に)
第2,3章 エクスポネンシャル・テクノロジー
・量子コンピィーティングとムーアの法則の終わり
ここ数年でムーアの法則はスピードが鈍化してきた。問題は物理的なものだ。集積回路の性能向上はトランジスタ同士の間隔を狭め、チップ1枚あたりに搭載する数を増やすことによって実現してきた。数を増やす毎に微細な制御が求められ演算能力が阻害される。これがトランジスタの数を増やす物理的制約となり、ムーアの法則は終わりを迎えるとされている。
ムーアの法則は終わりを迎えようとしているが、その代わりになるテクノロジーも生まれようとしている。2002年、初期の量子コンピュータ会社、Dウェーブ創業者のジョルディ・ローズは「ローズの法則」を提唱した。これはムーアの法則の量子版だ。例えば量子コンピュータは新薬開発をどう変えるのか。新たな癌治療薬を開発する場合、大規模なウェットラボを造って試験管の中で何十万種類もの化合物の性質を調べる代わりに、そのほとんどをコンピュータで済ませられるようになります。要するに新しいアイデアから新しい薬までの距離が一気に短くなるということだ。
・エクスポネンシャルテクノロジーの6つのステージ
エクスポネンシャルテクノロジーの成長サイクルには6つのステージがある。
①デジタル化
あるテクノロジーがデジタル化されるとムーアの法則、さらにはローズの法則に則り劇的な成長が始まる。
②潜行
エクスポネンシャルテクノロジーは最初に登場すると大きな注目を集める。初期の進歩はゆっくりなので、しばらくは世の中の期待に応えられない状態が続く。
③破壊
エクスポネンシャルテクノロジーが本当の意味で世界に影響を与え始めた時がこのステージ。既存の製品、サービス、市場、産業を破壊していく。
④非物質化
ほんの少し前にあったものが消える。第3ステージの「破壊」の後に消えてしまうのがこのステージだ。例えばスマホの普及によって現像する写真屋さんは消滅した。
⑤大衆化
エクスポネンシャルテクノロジーがスケールし、一般に広がるステージだ。
⑥非収益化
かつては製品やサービスにかかっていたコストが消えてしまうステージ。例えば写真はかつて高価だった。だが今ではスマホ1台で誰もがコストを考えるに写真を撮ることができるようになった。
・進化する人工知能
AIの真価は人間では決して気づかないような情報同士の隠れた関連性を見つける能力にある。このためAIに与えられる情報が増えるほど、そのパフォーマンスは向上する。
AIを育てるためのテクノロジーとしてニューラルネットワークが登場した。人間の脳の仕組みにヒントを得たもので、非構造化データから勝手に学習する。AIに一つずつ情報をフィードする必要はない。ニューラルネットをインターネットに解き放てば、あとは勝手に進化していく。
・見る、聞く、読む、書く、知識の統合
ニューラルネットに支えられたAIによって何が可能になるかを理解するために5つのタスクに分割して考えてみる。
①見る
1995年にはAIは手紙に書かれた郵便番号を識別できるようになった。2011年には43種類の交通標識を人間を上回る99.46%の正確さで識別できるようになった。今日ではAIは群衆の中から特定の人物を識別したり、遠くから唇の動きを読んだり、また追跡ソフトウェアの性能も向上し、AIの操作するドローンは木が鬱蒼と茂った森を駆ける人間を追尾できるようになった。
②聞く
アマゾンのEchoや、グーグルのGoogleHome、アップルのSiriなどを中心に人間の放った言葉を識別して検索や会話ができるようになった。
③読む
GoogleのTalk to Booksを使うと、あらゆる話題についてAIに質問できる。AIは0.5秒以内に10万冊以上の本を読み、そこから引用して答える。
④書く
今のAIは人間のジャーナリストの手を一切借りずに雑誌に載せられるレベルの記事を作成している。また、Gmailの文書補完機能は、単語の正しいスペリングを教えるだけでなく、私たちが文章を入力している間に完成した文章を提案してくるようになった。
⑤知識の統合
囲碁やチェスのAIがトップレベルのプロに勝利できるようになる程になった。
AIは予めトッププロの棋譜を読み込んで学習をするという機械学習をプロセスを行なっていた。それに対して今日のAIは事前に与えられたデータはゼロで強化学習、つまり自ら打つことを通じて学習するようになった。
最初にいくつか単純なルールだけを与えられたアルファ碁ゼロは、わずか3日でトッププロを倒したAIを倒せるようになった。3週間後にはトッププロ60人に完勝した。結局アルファ碁ゼロは誕生して40日で、地球上最強棋士にまでのぼりつめた。
・アイアンマンのAIは実現までの1歩
クラウド上のAIはアイアンマンに出てくるAIジャービスのようなパフォーマンスに必要な処理能力を備えている。シャオアイスのフレンドリーな対話力と、アルファ碁ゼロの正確な意思決定能力と組み合わせれば、さらに進化する。そこに最新の深層学習の成果を加えれば、システムは自ら考える能力を持ち始める。
・ネットワーク
ネットワークは輸送手段である。世界最古のネットワークは1万年以上昔の石器時代に牛車の轍という形で生まれた人類初の道だ。「道」は驚異の発明だった。道の誕生で人間が荒野を1歩ずつ移動する速度に縛られることがなくなった。現状ではインターネットという世界最大のネットワークが作られた。2017年には人口の約半分38億人に浸透しており、これからあと5年で全人類がインターネットの恩恵を享受するようになる。
・5G、気球、衛生
地表から8000キロメートル上空の「中軌道」と呼ばれるエリアでは、「O3B」というニューフェースが活躍している。「O3B」はOther 3 Billion(残りの30億人)の頭文字を並べた略称だ。ボーイングが製造したテラビット級衛星を複数使った「mパワー・ネットワーク」によって、現在ネットに接続できない人々に接続サービスを提供する。この活動が実を結べば、これから5年ほどでネットに接続したい人は皆接続できるようになる。そしてネット接続人口が二倍になれば、私たちは未だかつてなかったような技術的イノベーションの加速と、世界的な経済発展を目にするだろう。
・センサー
ラーテラの考案した「オーラリング」という睡眠トラッカーがある。光沢のある黒いチタン製の太めの指輪にしか見えない。だが3つのセンサーを搭載し、10種類の身体シグナルを追跡あるいは算出する。今の市場で流通している最も精度の高い睡眠トラッカーと言えるだろう。
だがしかし、私たちは「マイクロ」の世界から「ナノ」の世界へと移行しようとしている。すでに様々なスマート衣料、スマートメガネなどが生まれており、まもなくこうしたセンサーは私たちの体内に入っていくだろう。そうなれば人体について、そしてそれ以外のあらゆることについて、これまでとは比較にならないほどのデータと知識を得るようになる。これだけのデータは私たちに何をもたらすのか?挙げていけばキリがない。医者は患者の健康状態を追跡するのに、毎年の健康診断に頼らなくても良くなる。24時間365日、数量化された健康状態のデータが大量に送られてくるからだ。農家は土壌と空の含水量を把握し、的確に水やりが出来るようになる。農作物の収穫量が増え、水の浪費を抑えられるようになる。10年もしないうちに私たちは測定できるものは全て、ひっきりなしに測定される世界で暮らすようになるだろう。
・福島原発事故以降のロボティクス革命
2011年3月、東日本を揺るがした大地震が太平洋で津波を起こし、マンションサイズの巨大津波が福島第一原子力発電所に襲い掛かった。その1ヶ月後、国際原子力機関が策定した事故後の放射能レベルを測定する尺度に照らすと、センサーの数値は上限をはるかに超えていた。事故を収束させるには、作業員を迅速に現場に送り込むことが不可欠だったが、人間が作業できるような温度ではなかった。代わりにロボットを送り込むことになったが、そのロボットもあっけなく失敗した。そこからロボティクス開発はスピードを上げることになる。原発の事故から6年で、ロボットは使い物にならない状態から災害対応可能な忍者並みに進化した。雪に覆われた滑りやすい森の中を歩けるようになったり、木箱の上からバク転できるロボットなども誕生した。日本では数10年にわたって平均寿命が上昇する一方、出生率の減少が続いた結果、2000年台に入った頃には大勢の高齢者が引退を控え、その代わりとなる若者がいない状況になっていた。労働力不足と介護費用を捻出するために「ロボット革命」を呼びかけた。
・ロボットは至る所に
高齢者介護、ホスピスケア、乳幼児ケア、ペットケア、パーソナルアシスタント、アバター、自動運転車など「ロボットが来るぞ」と言われていた分野には既にロボットが登場した。だがこれだけでは「木を見て森を見ず」になる。ロボットだけの話ではないからだ。今起きているのは、ロボット技術と他のエクスポンシャルテクノロジーとのコンバージェンスだ。
・仮想現実
ピクセルが目に見えず、視野が人間のそれを模倣し、影からうごきまで全てに真実味があれば、脳は幻想を信じる。これまで私たちの生活は物理法則に縛られ、五感に制約されていた。そうしたルールを置き換えるのがVRだ。VRは経験をデジタル化し、五感をコンピュータの生み出した世界に転送する。そこには想像力の限界以外に、現実を縛るものは何もない。
・拡張現実
学校ではARによって、子供たちがバーチャルな物体とバーチャルな世界の両方を探究できるようになる。道を歩けば全ての建物の歴史が視野に表示されるようになるなど、ARが新しい学習経験を提供してくれる。消費者市場ではさらに大きな変化が起きるはずだ。空腹だがあまり食費をかけられない人には、ARレンズが周辺のお得なランチとレーティングを見せてくれる。産業界ではARトレーニングシミュレーションが飛行機の操縦方法など様々な機械の操作方法を教えてくれる。美術館ではARを使った展示が、不動産会社ではARを使った物件訪問が行われる。医療現場ではARが医師に詰まった血管の内側を見せ、医学生はバーチャルで解剖できるようになる。
・3Dプリンティング
建設業界での3Dプリンティングのインパクトはものすごいスピードで広がっている。2014年には中国のウィンサンが、10軒の戸建て住宅を24時間以内に3D印刷した。1戸あたりの費用は5000ドル以下だ。2017年には別の中国企業が3Dプリンティングをモジュール工法と組み合わせ、57階建ての高層ビルを19日で建てた。2019年にはカリフォルニアのマイティビルディングが、3Dプリンティングの進化をロボティクス、材料科学と融合し、アメリカの建築基準法を満たす戸建て住宅を人件費は業界平均の10分の1、最終価格は3分の1d完成させるという初の試みをやってのけた。
・ブロックチェーン
ブロックチェーンは私たちの身元を証明できるのと同じように、あらゆる資産の正当性を証明することもできる。例えばあなたのエンゲージリングのダイヤが搾取労働の産物ではないことを保証するといったことだ。土地の所有権もブロックチェーンの役立ちそうな分野だ。
・材料科学とナノテクノロジー
材料科学の進歩はデバイスの進歩に直結する。今日のスマホと同じものを1980年代に作ろうとすれば(開発技術は今の時代のまま)、コストは1億ドル、高さは14メートル、そして200キロワットの電力を消費したはずです。この説明で材料科学の進歩の威力が分かるでしょう。
ナノプロダクトが市場に流通すると、自動車、飛行機、ヘルメット、自転車、スーツケース、電動工具など様々なものを軽量化できる。応用例を挙げていけばキリがない。しかもその実現の速度も驚異的だ。これからの10年で極端に小さなモノたちが極端に大きな影響力を持つようになる。
・バイオテクノロジー
バイオテクノロジーとは生物学をテクノロジーとして使うことだ。遺伝子、タンパク質、細胞といった生命を操作する手段として使うのだ。人体は数十兆個の細胞の集まりでその働きによって私たちの健康が左右される。個々の細胞には母親からの遺伝情報が32億文字、父親からの遺伝情報が32億文字含まれている。これがあなたのDNAであり、「あなた」を形作るソフトウェアだ。あなたの身長や、性格の相当部分、病気の発症のしやすさ、寿命などを決定づける。最近まではこの「文字」を読むのは困難で、それぞれの働きを理解するのは難しかった。アメリカのイルミナなどは、今から数年後にはそれを所要1時間、コスト100ドルで実現すると約束している。バイオテクノロジーが進めば現在では不治の病とされている病気も治るようになるだろう。
・CRISPR
CRISPRを使えば遺伝子を編集し、細胞内のDNAを修復することができる。遺伝子を編集するということを理解するために幹細胞について考えてみよう。幹細胞は身体の重要な修復メカニズムだ。あらゆる細胞に変化する驚くべき能力があり、傷ついた細胞組織を修復するのに使われる。現在、アメリカで承認されている幹細胞治療はごくわずかだが世界中の研究機関では途方もない量の研究が行われている。
・パーソナライズされた医療の時代が来る
最も重要なのは幹細胞、遺伝子治療、あるいはCRISPRそのものではなく、こうした技術が全て組み合わさったコンバージェンスの威力である。このコンバージェンスの最大の成果は「N=1治療」と呼ばれる個人にカスタマイズされた医療だろう。自分にとって最適な食事、サプリメント、運動メニューが分かるようになる。どんな疾患にかかりやすいか、それを防ぐには何をすれば良いかも分かるようになる。
第4章 加速が「加速」する
・加速を「加速」させる七つの力
変わらないのは「変化が続く」という事実だけであり、変化は加速する一方だ。変化を加速させる要因は「七つの推進力」である。個別に見れば融合するエクスポネンシャルテクノロジーの副次的効果だ。それぞれの推進力は個別に作用するが、組み合わさった時に最大の力を発揮する。
・推進力1 時間の節約
イノベーションが生まれるには自由な時間が必要だ。数世紀前まで世界の変化が非常に遅かった大きな原因は人々に新しいものを生み出すための時間がなかったからだ。ここ100年で誰もが嫌がる家事労働にかかる時間は1900年の週58時間から2011年には週1.5時間まで減少した。節約によって浮いた時間が積み重なり、発明家、起業家などが実験し、失敗し、方向転換し、再び失敗し、最終的に成功するための時間が増えていく。テクノロジーはイノベーションを生み出すまでの時間を短縮する一方、イノベーターがそれを生み出すために使える時間を増やした。
・推進力2 潤沢な資金
カネほど技術開発を加速するものはない。カネが潤沢にあればより多くの人材を雇うことが出来、実験、失敗、成功に辿り着くまでの時間も短縮することが出来る。今ほどイノベーターが容易に資金を入手できる時代は無い。その資金源もデジタルテクノロジーが答えだ。新たなテクノロジーは新たな「事業機会」を生み出すものと相場が決まっているが、デジタルテクノロジーには一つ重要な違いがある。デジタルテクノロジーは新たな「資金調達」の方法も生み出した。その一例がクラウドファンディングである。さらにはブロックチェーン技術の推進により、「新規仮想通貨公開(ICO)」する方法で資金調達する方法も出来た。
また、クラウドファンディングやICOの他にも、巨大ファンドがイノベーターに積極的に投資をすることで、新たな技術開発の後押しも行っている。SWFという政府系投資ファンドや孫正義のビジョンファンドなどが有名である。
クラウドファンディングやICO、巨大ファンドなどによって記録的なスピードでお金をアイデアやイノベーションに変えていく。
・推進力3 非収益化
数年後には太陽光だけで世界のエネルギーニーズの200%を賄えるようになる。私たちは地球を動かす全ての電力が、完全に非収益化する時代に向かっている。あらゆるイノベーターは電力を必要とするので、このトレンドも世界の変化の速度をさらに加速するだろう。
・推進力4 天才の発掘しやすさ
ごく最近まで天才のほとんどは埋もれてきた。それはジェンダー、階級、文化の壁が立ちはだかったからだ。今日の世界がハイパーコネクテッド化したことの副産物の一つがこうした天才がジェンダー、階級、文化の犠牲者にならずに済むようになったことだ。浪費された才能の機会費用はあまり注目されないが、おそらく相当なものだろう。
しかし、天才が発掘されやすくなった話は前段に過ぎない。天才は希少な存在かもしれないが、その根底にある神経生物学的メカニズムが解明されつつあるのだ。
このテクノロジーを使って認知機能を高め私たちの脳に恒久的に移植しようとイーロンマスクは画策している。数10年後の未来はAI対人間ではない。目指すのは両者を融合したHI。すなわちヒューマンインテリジェンスの開発だ。ターミーネーターや攻殻機動隊のポストヒューマンのような存在が現実になるかもしれない。
・推進力5 潤沢なコミュニケーション
人と人とを繋ぎ、アイデアの交流を促し、発明を後押しする手段がネットワークだ。18世紀のヨーロッパではカフェの誕生が啓蒙主義の重要な推進力となった。カフェは情報共有のハブ、つまりはネットワークとして進歩を促す役割を果たしたのだ。当然ながら同じようなネットワーク効果は都市にも見られる。しかし規模という面で都市も地球と比べれば霞んでしまう。数年後には全人口がインターネットによってネットワークに繋がることになれば、地球全体が市場最大のイノベーション培養装置になることを意味する。
・推進力6 新たなビジネスモデル
今後20年〜30年の産業界に大きな影響を与えそうな新たなビジネスモデルが現時点で7つ見えている。それぞれが全く新しい価値創造の方法であり、加速の推進力だ。
「より良い」ビジネスモデルは、つまり現実世界の問題を「より良く」解決するということだ。ビジネスモデルの新たな創造は世界を変革する大きな推進力となる
①クラウドエコノミー
クラウドソーシング、クラウドファンディング、ICOなど既にインターネットにつながった数十億人と、これから繋がる数十億人と活用する仕組みだ。例えばエア・ビー・アンドビーは世界最大のホテルチェーンになったが客室は一つも所有していない。
②フリー&データエコノミー
優れたサービスを無料で提供するという餌を撒き、集めた顧客データで儲ける仕組みだ。(フェイスブックなど)。ビックデータ革命がもたらした進化もあり、かつてないほど詳細なデモグラフィックデータが活用できるようになった。
③スマートネスエコノミー
昔は既存の道具を電気で動かすようにすれば革新的なテクノロジーだった。例えば洗濯機や電動ドリルなどである。今は電気がAIに代わる時代になった。スピーカーはスマートスピーカーになり、携帯はスマートフォンになり、自動車は自動運転車になろうとしている。
④閉ループエコノミー
完全循環型の社会を目指す取り組みのことだ。例えばプラスチックバンクという会社は、プラスチックの再利用を目指し、ユニクロなどは服の再利用をビジネスに落とし込もうとしている。
⑤分散型自立組織
ブロックチェーンとAIのコンバージェンスによって誕生するのが従業員のいないノンストップで操業を続ける組織だ。例えばブロックチェーンに支えられたスマートコントラクトレイヤーを搭載した自動運転タクシーの会社が出来れば、年中無休で人間の介入一切なしに操業することができるはずだ。
⑥多重世界モデル
私たちの住む世界はもはや一つではない。現実世界とオンライン世界にそれぞれペルソナがあり、拡張現実や仮想現実への産業が拡大していく。今まで現実世界だけで成り立っていた衣服の販売なんかも優れたCGデザイナーがブランドしたアバターへの衣服販売などが活発化していく
⑦トランスフォーメーションエコノミー
トランスフォーメーションエコノミーとは自己変革経済という意味だ。今後は経験にお金を払うのではなく、経験によって人生を変えることができることにお金を払う。例えばライザップのようなビジネスモデルだ。
・推進力7 寿命を延ばす
ジョブズがあと30年長く生きていたら、今の世界はどれだけ変革が進んでいたことだろう。人類の平均寿命が伸びるということはその分一個体のイノベーションに携わる時間も増えるということだ。今、平均寿命を伸ばすテーマについて3つの大きなアプローチが行われている。細胞分裂の癌化を防ぐ薬や、幹細胞の研究、または若い血を輸血することで細胞の機能を回復させようとする手段もある。