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言霊になれない言葉たち。

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#現代詩

クラクションとサイレン

海のある街に育った私は
波音だけが聴こえない。
夜が堕ちた砂の上は
間際の声を並べて攫われ続けているだけ。

事実と結果だけを突き付けられる人生。
産声を上げた側から塞がれていくのと同じ。

引きづられる流木が月明りに浮かべば
溺れる赤ん坊の手に見えた。
夜に向かう波に紛れて
私だけを誘う声が聴こえ続けている。

目が覚めても闇の中。
産声がもう聴こえない。

握り締めてた筈の赤ん坊の手が月明りに

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夜の誕生日

夜を見つめる幼い目。
強く手を握り怯えている。

暗いのが怖いわけではない。
別に誰を頼るわけでもない。

口笛が高く切り裂く道の途中。
どちらも正しい別れ道がある。

夜が明けるのを見つめる幼い目。
時間ではなく太陽を待っている。
怯えているのではない。
逃げない様に捕まえていた。

迷子になった私は声を高く響かせ
繋いだ手から溢れた汗を拭う。
どちらも正しい別れ道。
それでも私は選べない。

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他人事の人生

他人事の人生

夕日が溺れて黙り込む隙間に
焼け付いた日常を重ねてただ見ている。
海の底から見上げた光
音もなく黙り込んでまだ見上げ続けている。

誰かが叫ぶ声に耳を塞いで目を閉じて。
私は此処に居ないと叫んでいた。

憧れて東京

憧れて東京

このまま無口に追えば良かった。
自由に見つめているだけで良かったのに。
いつしか知って欲しいと願ってしまった。
あのまま知らずに逃げていれば良かった。

砂時計を逆さにしても
時間が経つのを愛しく思えて
次第に暮れる窓にカーテンを敷く。
映らない幸せを信じ過ぎて
涙が溢れて砂が乾く。

惨めに夜目覚めカーテンを捲る。
暗闇に浮かぶ私を愛しく思う。
独りよがりの幸せを掻き集め
手の平の砂を弄び朝を待

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土曜日の昼

土曜日の昼

魚の焼かれる匂いがする。
吐き気がするほど腹が減る。
隣の家からだと気が付いて、
ランドセルを投げ捨てた。

ブランコは
いつも夕暮れに揺れている。
砂場は猫と一緒に眠る場所。
ブランコは
いつも夜に止まる。

母を演じる他人が夫婦の舞台から降板し
寂しさを演じる子供の目に映る世界を
僕は探している。

駆け出せば坂道
転ばないと止まれない。