わたしの本棚73夜~「白い航路」
寒くなりました。換気が必要とのことでですが、なかなか暖房を消すのが難しくなってきました。空は澄んで綺麗です。冬晴れです。
この本を読むと、明治の文豪森鴎外の違った顔がみえます。薩摩藩の軍医として戊辰戦争に従軍し、後に脚気予防に取り組み、東京慈恵医大の創始者でもある髙木兼寛氏の自伝です。今、公開中の田中光敏監督「天外者」も同じ時代の薩摩出身の五代友厚の人生で(主演三浦春馬)、明治維新前後、この国のために働いた若者たちの熱い思い、重なってしまいました。2009年の第1刷の値段です。
☆「白い航路」上下 吉村昭著 講談社文庫 581円+税
薩摩藩の大工さんの子どもとして生まれた髙木兼寛氏。良き師や家族に恵まれ、藩の軍医となり、戊辰戦争に従軍します。維新後、海軍に入り、イギリスに留学し、抜群の成績で最新の医学をおさめ帰国します。海軍軍医にのぼりつめた兼寛氏は、海軍、陸軍の病死原因として最大の問題であった脚気にとりくみます。兼寛氏は、白米による「食物原因説」を唱えますが、陸軍最高軍医であった森鴎外氏らは「細菌原因説」と譲らず、真っ向から対決します。
鹿児島大学卒でイギリス医学を学んだ兼寛氏。東京大学卒でドイツ医学を学んだ鴎外氏。重なる妨害にもめげず、職を失っても、子どもを亡くす不遇にあっても、兼寛氏のまっすぐな思いは変わらず・・・。死後、大正時代に入って、「食物原因説」が正しいことが立証されます。後年は、失意のなか、東京慈恵医大を創設し、貧しい人たちにも医療を奔走する兼寛氏の男の歴史ロマン。明治という時代をまたいでの熱い思いは、端正な文体とともに、深く心を打ちました。
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