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見立てのすゝめ
こんにちは。千葉でデザインを学ぶ大学院生、1010です。就活真っ只中。
デザイン系就活では作品集が必要であり、その作品集のことをポートフォリオと呼んで日々デザイン系就活生はこのポートフォリオをねりねりすることになります。
例に漏れず私も現在進行形でポートフォリオをまとめているのですが、どうせなら効果的な見せ方をしたいと思い、かねてより好きなアーティスト鈴木康広さんの作品集を参考にしながら、コンセプトの訴求性について考えていました。
曇り空をひらくファスナー pic.twitter.com/1GGkwdGO36
— 鈴木康広 Yasuhiro Suzuki (@mabataku) July 8, 2021
鈴木さんの作品は日常の観察を通して、写真や作品を何かに見立て、解説の手助けのためのスケッチによって、今ある風景の「少し先」(少し後の時間、裏側、関係性)を想像させることができるのが魅力的だと考えています。自分もうまく見立てを使えるようになりたいので、以下の2つの問題立てをしてみました。
・魅力的な見立ての見つけ方を知りたい
・なぜその見つけ方が有効かも言語化したい
ということで先日、アーティストの鈴木康広さんがゲスト講師として参加されていた、すみだメタ観光祭に参加してきました。(メタ観光という新しい観光様式を作ろうとしていく試みです。詳しくはリンク先をご覧ください。これもインサイトをよく突いていて興味深いなと思っています。)
みたての探索
ワークショップは二日間。ワークショップ初日の内容は
・鈴木康広さんの講義
・一時間ほどあたりをお散歩して会場周辺の見立てを探す
でした。
私が撮ったこの日のベストみたてはこちら
足元に画素数少なめの夜空見つけた pic.twitter.com/Nwzrk3V5MF
— 1010 (@1010child) October 14, 2021
足元に夜空があるなら、地下の世界では誰かが足元を見上げているのかも。足元と夜空、写真と画素数、砂場と都会の夜景というように対になるものが多く取り込めたところが気に入っています。
他にはこれも気に入ってます。
水の地図 pic.twitter.com/aAp3Q7FhEC
— 1010 (@1010child) November 5, 2021
街における人流とその中の血流、そして葉脈における水流はかなり本質的に近いのかも知れません。
他者の作品も見て、この日のワークショップは終了です。次の日程まで二週間をあけて、その間に墨田区内で見立てを探し、見立て写真を撮影するという課題が出ました。ここでの発見を見立てのすゝめとしてまとめたいと思います。
①主体のすゝめ
初日の撮影時間は一時間でしたがピンときた写真が2枚も撮影できました。一方で、宿題の撮影には2日間時間と条件を変えて合計約6時間をすみだ散歩に費やしましたが、うまくいった写真は4枚ほど。明らかに効率が良くありません。
初日と宿題撮影2日間の違いは同行者がいるかいないかでした。
初対面のワークショップ参加者の方とおしゃべりをしながら撮影した初日は、必然的に歩調がゆっくりになり周囲を網羅的に見ようとしていて、意識が見る>歩くの関係でした。一方一人で撮影した課題ワーク中は、自分でルートを組んであるいたので意識が歩く>見るの関係になり、歩いていて気づくもの(道上にあるもの)しか見立てることができませんでした。
さらにみたての良さのキーワードである「少し先」は、作品の外側にあります。誰かと話して自分だけの視界に留まらない見方をすることは「少し先」の要素を取り入れる上で重要なのだと思います。
②被写体のすゝめ
被写体を人工物と自然物の二つに分けて考えます。
現存する人工物を見立てようとしたとき、それ単体ではあまり面白い見立てができません。例えば下の写真は時計を突き刺す釘みたいだなあと思って写真を撮りましたが、広がりがなくて面白くないです。
単体で見立てようとすると、その人工物がデザインされる際に利用されたであろう対象に辿り着いてしまうからかも知れません。
いっそ人工物を見立てるときは、人工物の外側の環境や、既存の概念などと組み合わせて見立てるとピンとくるものが撮れました。
万華鏡のなか pic.twitter.com/rAJaqrutg6
— 1010 (@1010child) October 31, 2021
一方で自然物は(雲や葉っぱなど)単体で見立てがしやすいことが多いですね。そもそもが人工物のデザインのもとになるものが多いからでしょうか。
(勝手に載せていいのか分からなかったので引用は実際に観光地図に提出した写真とは別のものを載せています。)
おわりに:みたての効能
2日目は参加者が自分の撮影してきた作品を投影しながらプレゼンするというものでした。ルールではありませんでしたが、参加者には他者の作品やプレゼンに対して感想や疑問を積極的に投げかけ、インタラクティブな場づくりが促されました。
最後は写真を撮った後の気づき、観察についてです。撮ったときに何かに見立てたり、何にも見えなかったりしたものが、後から見返すことによってふと全く違う何かに見えることがあります。
ここで面白かったのは、参加者のコメントの質の変化です。
「おもしろい!」
「おお〜」
「傾けているんですか?」
から
「引いて見ると外側にも見立てがありますね」
「(ロボットとみたてた題材に対して近くの違うものを差しながら)友達のロボットがいなくなったんですね」
「(影をみたてた写真に対して)時間帯で道幅が変わるんだなあ」
「回転させると違うものが見えますね」
へ。写真の写りや被写体そのものの感想から、写真の内側と外側を行ったり来たりするコメントへと変化していったのです。
みかたが変わる、と簡単にいうけれど、本当に変わったかどうかなんてなかなか分かりません。しかし、このワークショップでの全体の発言の変化は、その場で起こった鑑賞者たち自身のみかたの変化の裏付けではないでしょうか。鈴木さんの作品が魅力的なのは、作品が「その先」の解説をするのではなく、あくまで鑑賞者自信が当たり前に「その先」を想像できるように鑑賞者自身のものの見方を変えていくからだと感じました。(みかたの変化が完了した状態って、基準が何か変わることではなくて、自分の当たり前の許容量を拡張することなのかも。)
自分でやってみてうまくいったと感じるものも、見た目だけでなく、その作品の「少し先」まで見立てで想像させられるものなのかも知れません。
とりあえず一旦これを、自分なりの答えとしてポートフォリオ作りに還元していこうかな、と思います。
主催者の皆さん、講師の鈴木康広さん、貴重な機会をありがとうございました。メタ観光地図はそのうち公開されるはずですので皆さんよかったらみてみてください。見立てもよかったらやってみてください。
私の方はというと、鈴木康広さんに「なんか…ツボを押さえてますよね。面白いです」と言っていただいたことを胸に抱えて生きていこうと思います。