人は「余白」にこそ恐怖するものだから……|「奈緒ちゃんが死ぬまで」
漂うのは、静かな、しかし不気味な雰囲気……。
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こんにちは。傑作マンガを分析・研究する「21世紀マンガスタディーズ」のお時間です。
本日取り上げるのは……こちらの作品!
横谷「奈緒ちゃんが死ぬまで」
<DAYS NEO>
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<Twitter>
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既に始まっている終末の時
三葉「読んでみて、どうでした?」
清水「んー……何よりもまず、『終末感』の漂っている作品ですよね」
三葉「そうそう!『無慈悲で残酷で救いようのない何かが、いまにも始まりそうな雰囲気』……いや、違うな。『既に何かが始まっていて、主人公・奈緒はその中で終末を待っているだけ』という方が適切かな。……そんな不気味な雰囲気がありますよね」
清水「確かに」
三葉「ラストシーンもとても印象的でね」
清水「ええ」
三葉「奈緒は、感情の起伏に乏しいキャラです」
清水「ふむ」
三葉「そんな彼女が、唯一感情を露わにするのが……最後の2ページ。布団に横たわっている奈緒が、突然ガバリと起き上がって叫ぶ……『あっ、そういえば平成って、もうすぐ終わるのか!?』。そして一呼吸おいて、『さみしいなー』と呟く」
清水「ふむふむ」
三葉「これは一体何なんだろうと思うのです」
清水「というと?」
三葉「なぜ奈緒は寂しいと感じたのでしょうか?っていうか、本当に寂しいと感じているのでしょうか?そして、作者はなぜこれを本作のラストに置いたのでしょうか?……アレコレ考えてみるととても面白いと思うんですよね」
清水「なるほど」
三葉「とまぁ、そんな魅力的な本作ですが……以下、特に私が注目したポイントをご説明させてください」
清水「承知しました」
「説明されないクラスメイトの死因」に漂う不気味さ
三葉「さて、奈緒の周りでは、やたらと人が死んでいるわけですが……」
清水「ええ」
三葉「家族については、交通事故で死んだという説明があります」
清水「ふむ」
三葉「ところが、クラスメイトの死因は一切明かされていない」
清水「確かに」
三葉「つまり、『片方は説明されているのに、もう一方には言及がない』。その結果何が起こるのか?……片方が説明されているからこそ、読者はもう一方の<余白>が気になる。そして、その<余白>について、無意識の内に悪い想像を膨らませてしまうのです」
清水「ほぉ……」
三葉「例をあげましょう。……ここに、AとBというキャラがいたとします。作中、『Aさんはすごいヤツだよ』、『Aはよい人だね』と、みんながAを褒めたたえる」
清水「ふむ」
三葉「私たちは反射的に、『ではBはどうなんだ?』と考えるでしょう」
清水「そうですね」
三葉「ところが、Bについては一切説明がない。いつまでも、Aの話ばかりが続く。……いかがです?」
清水「まぁ、気になりますよね。『なんでみんなBについては何も言わないんだろう?何かヤバイことでもあるのか?』とか。あるいは、『もしかしてBは既に死んでいて、みんなにはBが見えていないとか……?』なんて想像するかも」
三葉「まさにそれです。説明がないからこそ、気になる!そして悪い想像を膨らませてしまう!」
清水「なるほど」
三葉「本作の場合……クラスメイトの死について、まったく説明がない。だから気になり、『奈緒はおそらくまだ20代。その若さでクラスメイトの3割が既に死んでいるのはおかしい』、『クラスメイトの死には何か特別な理由があるのでは?もしかして……!』なんて不気味な想像を膨らませてしまうのです」
清水「ふむ」
三葉「そして、人間は自分の想像にこそ恐怖するものです。怪談話やホラー映画を思い出していただければ明らかですが……『何が起きているのかこと細かに説明された作品』よりも、『読者・視聴者が想像を膨らませる<余白>のある作品』の方が怖いんですよね」
清水「ふむふむ」
三葉「冒頭、本作には不気味な雰囲気が漂っていると申し上げましたが……」
清水「ええ」
三葉「この『なぜか言及されないクラスメイトの死』が、不気味さの一因だと思うのです」
清水「語られないがゆえの恐怖か……なるほど」
補足
Twitter版には「とある女性が亡くなる少し前の生活の記録です」と記されている。
タイトルは「奈緒ちゃんが死ぬまで」だけれど、実際には死なないと思っていたのに……そうか。死ぬのか……。
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登場人物紹介
・清水:マスター・オブ・アニメ。年100作以上のアニメを見続けて20余年。 GONZO作品で最も好きなのは「超重神グラヴィオン」。
・三葉:清水とは中学からの友人。『銀魂』は本当に完結するのだろうか?いまだに信じられない(ファンとしては、終わる終わる詐欺であってほしい……)。
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(分析:清水、三葉 / 文、イラスト:三葉)