物語の初っ端から悲壮感を漂わせるのは止めた方がいい!!|「SSSS.GRIDMAN」の第1回【覚・醒】を分析する
※引き続き、アニメ「SSSS.GRIDMAN」の第1回【覚・醒】を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。
裕太くん、人生最悪の日!!
さて、まずは本話前半の出来事を大雑把にまとめてみましょう。
すなわち……
・1:裕太が突然ぶっ倒れる
・2:目を覚ますと、裕太は記憶喪失になっていた
・3:しかも裕太にだけ、訳のわからぬ超人(グリッドマン)やら巨大怪獣やらが見える
・4:裕太の両親は出張で長期間不在(裕太はまだ高校生ですからね。両親の存在は大きいはずです)
いかがでしょうか?
いやぁ、裕太くんかわいそうですね。彼にとっては人生最悪の日と言っても過言ではないはず。
【重要】本話には悲壮感が漂っていない!!
とまぁ、上述したような展開です。普通に描けば<シリアスで、悲壮感漂うオープニング>になるでしょう。
ところが、本話は違う!
ちっともシリアスではない!
悲壮感がほとんどまったく漂っていない!
【ポイント】物語の初っ端から悲壮感を漂わせるのは止めた方がいい!!
<1>
この<悲壮感のなさ>が、私、じつに巧いなぁと思うんですよ!
だって、裕太や六花がどんなキャラなのか、彼らがどんな世界に住んでいるのかちっともわからない段階で、いきなり重苦しい雰囲気を出されても……ねぇ。
<2>
物語を作る上では、
・Step 1:まずは軽いエピソードを積み重ねて、キャラや世界観について鑑賞者にざっくり理解してもらう
・Step 2:そして、キャラに特別な感情(興味、好意、萌え、同情、感情移入 etc.)を抱いてもらう
・Step 3:その上で、キャラをひどい目に遭わせる
・Step 4:その結果として、鑑賞者の感情を揺さぶることができる
……これが基本です。
「Step 1~2」をすっ飛ばして「Step 3~4」をやってしまうと、鑑賞者は白けるばかり。
【問】本話には、なぜ悲壮感が漂っていないのか?
というわけで、本話の<悲壮感のなさ>は巧いなぁと思うのですが……さて。
それでは、本話に悲壮感が漂っていないのはなぜでしょうか?
いろいろな理由が考えられますが、以下、特に重要と思われるものをピックアップしてみましょう。
【理由①】裕太が悲劇のヒーローを気取らないから
<1>
何よりもまず、裕太自身が悲劇のヒーローを気取らない。これが重要です。
もしも彼が自身の境遇を嘆いたり、涙を流したりしていたら、本話は悲壮感MAXだったに違いありません(そして鑑賞者を白けさせるのです)。
ところが裕太は違う。
彼がちょっとブルーになる場面があるとすれば、
・【1】六花には巨大怪獣が見えていないと判明するシーン:裕太は眉を八の字にして、一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべる
・【2】自宅に戻った後、裕太が1人で夕飯を食べるシーン:「他人事みたいで現実味がない。グリッドマン、やっぱりあれ……幻覚かなぁ」というモノローグが入る
……これくらいでしょう。
これ以外のシーンでは、彼は戸惑いつつもどこか飄々としています。
<2>
なお、「裕太はあまりにも飄々としすぎている。もうちょっと嘆いたり、取り乱したりするべきでは?」と違和感を抱く方もいるかと思いますが……じつはこれは伏線です。
第10回で、【裕太(の意識・自我)= グリッドマン】であったことが明かされる。
だから、彼は飄々としていたんですね。
【理由②】六花が取り乱さないから
六花が取り乱さないというのも重要なポイントです。
もしも彼女が「響くんがかわいそう!」「響くん、大丈夫!?」と泣いたり、喚いたり、大声を張り上げたりしていたら、本話には悲壮感が漂っていたことでしょう。
では、なぜ六花は取り乱さなかったのか?
「六花はそういう性格だから」と言ってしまえばそれまでなのですが、加えて、とある事情も影響していると思われます。
<とある事情>とは何か?
こちらの記事に詳述しました。ご参照ください。
【理由③】内海が取り乱さないから
さらに、内海が取り乱さないというのも重要なポイントです。
はて、内海はなぜ取り乱さないのか?
これはもう、「そういう性格だから」としか言いようがないように思います。何しろ内海にはこんなセリフがあるのです。「俺の顔まで忘れるとはねぇ。……まあ、いいか。4月に知り合ったばっかりだし、もう1回友だちになったってことで!」。
そう、メッチャいい奴!
<いろいろ大変だろうけど、まぁ、俺たちは友だちとして仲よくやっていこうぜ!>と言ってくれる内海の存在は、本話から悲壮感を取り除くのに大いに貢献していると言えるでしょう。
【理由④】クラスメイトが騒ぎ立てないから
六花や内海同様、クラスメイトも「記憶喪失ってマジ!?」「かわいよー!」と騒ぎ立てたりはしません。
なぜか?
おそらくは、
・裕太は、元々地味なタイプだったらしい。クラスの人気者ではない。そんな彼が記憶喪失になったからといって、いちいち騒ぎ立てたりはしない。それが普通の高校生。
・彼らはバカではない。他人の不幸やナイーブな問題に無遠慮に立ち入ったりはしない。それが普通の高校生。
……だからでしょう。
【理由⑤】グリッドマンがボケるから
<1>
グリッドマンの性格や言動も重要なポイントです。
というのも……グリッドマンはめったやたらとカッコいい声(CV:緑川光さん!)で、生真面目に語り続けるのです。「私はハイパーエージェント・グリッドマン」。
裕太は訳がわからない。大いに困惑し、ポカンとします。
しかし、グリッドマンは気にしない!
彼は続ける「思い出してくれ、きみの使命を」「きみの使命を思い出してくれ」。
この【イケボ&生真面目なのに、空気が読めない】というギャップ!
もうこれだけで私たち鑑賞者は爆笑必至ですよ。
<2>
さらに。
後日、グリッドマンは再び裕太に語りかけようとします「私はハイパーエージェント……」。
しかし、裕太はその言葉を遮る「それは昨日聞いたっす」。
グリッドマンは一瞬沈黙。だが、彼はへこたれない。すぐまた「裕太、急いでくれ。この世界に危機が迫っている」。
何だこれ!面白すぎる!!
裕太とグリッドマンのやりとりは、ほとんどコントにしか見えません。
<3>
また、<グリッドマンが抽象的なことばかり言う>というのも笑いどころの1つです。
彼は「きみの使命だ」「この世界に危機が迫っている」と煽るばかり。具体的なことを何1つとして言いません。
つまり、【イケボ&生真面目なのに、発言の中身がない】というギャップですね。
最高に面白い!
ちなみに、グリッドマンが具体的なことを一切言わないのには、ちゃんと理由があります。じつはこの時、グリッドマンは記憶を失っているのです(第4回で明らかになる)。だから抽象的なことしか言えなかった。
余談ですが……こういう<アレにもコレにもちゃんと理由がある。後々伏線だったと明かされる>というのが、本作の魅力の1つですよね!
<4>
とまぁ、こんな具合にボケまくるグリッドマン。
いや、彼自身はいつだって真面目なのですが……グリッドマンの天然ボケ的な言動が本話から悲壮感を取り除くのに貢献していることは間違いないでしょう。
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以上、本話の<悲壮感のなさ>と<悲壮感がない理由>をご説明してきました。
ぜひ参考にしてみてくださいねー!!
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(担当:三葉)