映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の構成
◆概要
映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」には、【物語の序盤と終盤に「類似性」のあるシーンを配置する】というテクニックが使われている。
◆詳細
本作の主人公はリーガン。彼は「バードマン」という映画の主役を演じた人気アクションスターだった。
ところがその後20年以上に渡ってヒット作に恵まれず、いまや完全に過去の人。加えて妻とは離婚、娘は薬物依存症。つまり、すっかり落ちぶれている。
本作は、そんな彼が一発逆転を狙ってブロードウェイに進出するという物語である。
◇序盤
冒頭、まずは空が映る。隕石のようなものが「落下」してくるのが見える。
続いて、劇場の控室のシーン。リーガンが座禅を組んで「浮遊」している(リーガンには特殊能力があるのだろうか?いや、本当は彼の妄想に過ぎぬのだが、まぁそれはともかくとして、ここでは「浮遊シーンから始まる」というのが重要だ)。
リーガンは床から1mほどのところを浮いている。彼は白いブリーフ1枚だ。皮膚はたるんでいる。部屋は雑然としている。お世辞にも格好いいとは言えぬ。
つまり、本作は「落下 + 格好悪い浮遊」から始まるのだ。
これは「現在のリーガン = 落ち目で、かろうじて役者を続けている」を象徴しているのだと思われる。
◇終盤
舞台は病室だ。
リーガンは窓越しに空を見上げた。鳥が飛んでいるのが見える。窓を開ける。深呼吸する。表情が和らぐ。リーガンは窓から身を乗り出した。
間もなく、病室に娘が入ってきた。ふと見ると……大変だ!リーガンの姿がない!娘はリーガンが飛び降り自殺を図ったのではないかと考え、慌てて窓に駆け寄った。
窓の外を見下ろす。しかし、リーガンは見当たらぬようだ。彼女はゆっくりと顔を上げた。そして空を見つめる。
娘の表情が和らぐ。笑顔になる。「ふふふっ」と笑い声が漏れる。画面には映らぬが、どうやらリーガンは大空を飛び回っているようなのだ!そう、映画のバードマンのように!!
……これが本作のラストシーンである。
つまり本作は「飛翔」で終わるのだ。それも、娘が思わず笑顔になるような「格好いい飛翔」である。
◇注目ポイント
以上をまとめると、
・序盤と終盤の類似点:リーガンが宙に浮く、空を飛ぶ
・序盤と終盤の相違点:序盤は「落下 + 格好悪い浮遊」、終盤は「格好いい飛翔」
この【序盤と似ているけれどじつは大きく異なる】という終盤は、リーガンの変化(作中でいろいろあったが、彼は最終的にハッピーを手に入れたのだった。よかったね!)を示唆するものだと言えるだろう。