「先輩の姿を見失ってしまう」という描写によって、そのキャラが「先輩のようになりたい!」「先輩に追いつきたい!」という願望を抱くには至っていないことを暗示する ~アニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」の場合
◆概要
【「先輩の姿を見失ってしまう」という描写によって、そのキャラが「先輩のようになりたい!」「先輩に追いつきたい!」という願望を抱くには至っていないことを暗示する】は「キャラの感情などを暗示する」ためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:アニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」(第6話)
▶1
本作の主要キャラの1人・晴(「はる」と読む、小6の少女)。
彼女はアイドルである。某芸能プロダクションの「第3芸能課」に所属している。とはいえ、まだまだ目立った活動実績はない。同じ課に所属する同年代のアイドルたちと共にトレーニングに励んだり、下積み仕事に精を出したりしている。
第6話冒頭、
・Step1:晴は自分がアイドルであることに違和感を持っている。彼女は家族の勧めで、半ば無理矢理事務所に入れられたのだ。晴自身はアイドルよりもサッカーに興味がある。
・Step2:だがその後いろいろあって、彼女は「アイドルも面白いじゃん!」と考えるに至る。
・Step3:そして第6話終盤、人気アイドルグループ「LiPPS」のバックダンサーとして初めてステージに立った。
で、ステージ直後。
・Step4:興奮冷めやらぬ晴の楽屋に、志希(「LiPPS」の一員で大人気アイドル)がやってきた。志希がねぎらう「おつかれー!」。
・Step5:晴は志希のもとに駆け寄ると、「今日すげぇ楽しかったぜ!またバックダンサーやらせてくれよ!」と頼んだ。
ところが、
・Step6:志希は「えー、ノーセンキュー」。晴はギョッとする。一体なぜ!?問題なくダンスできたはずなのに……。
・Step7:志希は続けた「楽しかったんでしょ?じゃあ……ここまで来たまえ!」。志希はそれだけ言うと、さっさと廊下を歩いていってしまった。
・Step8:晴は志希の言葉の意味がわからない。慌てて廊下を覗く。だが、志希の姿はもう見えない。晴は狐につままれたような顔をする。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step8である。
いま廊下を歩いていったばかりの志希。その姿がもう見えないというのは、ちょっと現実的ではない。つまりこれは「リアルなシーン」というよりも、何かを暗示する「象徴的なシーン」だと考えられる。
では、何を暗示しているのか。
そもそも……上述の通り、晴は第6話を通じてアイドルの魅力を理解するに至った。しかしいまの晴には、「バックダンサーをもう一度やりたい」というところまでしか見えていない。それを象徴するのが「またバックダンサーやらせてくれよ!」というセリフだ。
そう、彼女は「志希のような大人気アイドルになりたい」「バックダンサーを従える立場になりたい」という目標を持つには至っていないのだ。
だから、「楽しかったんでしょ?じゃあ……ここまで来たまえ!」(=バックダンサーに満足するな。バックダンサーを従えるところまで来い)という志希の言葉の意味を理解できない。
そしてまた、アイドルである以上誰もが憧れ目標とすべき存在であるはずの志希の背中を見失ってしまうのだ。
つまり、「先輩の姿を見失ってしまう」という描写を通じて、晴が「先輩のようになりたい!」「先輩に追いつきたい!」という願望を抱くには至っていないことが暗示されているわけだ。
晴はアイドルとしてはまだまだ成長途上。彼女がいつかトップアイドルに上り詰めるとすれば、その前にもう1段階、2段階の心構えの変化が必要なのだろう。