「相手が絶対にノーと答える質問」や「トンチンカンな質問」を投げかけることで、強く叱ったり批判したりする ~映画「レディ・バード」の場合
◆概要
【「相手が絶対にノーと答える質問」や「トンチンカンな質問」を投げかけることで、強く叱ったり批判したりする】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「レディ・バード」
▶1
本作の主人公は、レディ・バード(女子高生)。
本名は「クリスティン」だが、彼女は自らをレディ・バードと称し、家族や友人にもそう呼んでほしいと頼んでいる。
いろいろあってある日、
・Step1:レディ・バードが停学処分を受けた時のことだ。
・Step2:彼女の母は怒りを爆発させた。曰く「停学処分!?どういうつもり?誰のためにこんなに苦労しているの!私が好きでポンコツ車に乗っていると思う!?」。
・Step3:レディ・バードは答える「いいえ……」。
・Step4:母が訊く「そう思うの!?」。
・Step5:レディ・バードは「いいえ……」としか言えない。
・Step6:さらに母は叫んだ「私が、朝シフトから夜シフトまでぶっ続けで働いているのはなぜ?好きでそうしていると思う!?」。
・Step7:レディ・バードはやはり「いいえ……」。
・Step8:その後も母の怒りは収まらず、「あなたを育てるのにいくらかかったかわかる!?」「毎日いくらドブに捨てているか知っている!?」。
やがて――
・Step9:レディ・バードも叫んだ「……金額を言って」「いままで私に全部でいくらかかったか言って!将来きっと大金を稼いで全部返すから。2度とママに文句言われなくて済むようにね!」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「私が好きでポンコツ車に乗っていると思う!?」「私が、朝シフトから夜シフトまでぶっ続けで働いているのはなぜ?好きでそうしていると思う!?」といった母のセリフである。
要するに「苦労してあなたを育ててきたのに……この親不孝者!」と怒りをぶつけているわけだが――ストレートにそう言ってしまっては面白くない。
そこで【「相手が絶対にノーと答える質問」や「トンチンカンな質問」を投げかけることで、強く叱ったり批判したりする】という技法の出番だ。
例えば、あなたが友人との待ち合わせに遅刻してしまったとしよう。
友人は言った「ひどいじゃないか!」「約束は守れよ!」。もしくは、友人は言った「私が何時から待っているか知っている!?」「私が好きで1時間もここに突っ立っていたと思う!?」。どちらの方がより攻撃力が高いと感じるだろうか。あなたがより申し訳ないと思うのは、より胃が痛くなるのはどちらだろうか。
後者だろう。
そう、ストレートに叱ったり批判したりするよりも、「相手が絶対にノーと答える質問」を投げかける方が攻撃力が増すのだ。
というわけで、「苦労してあなたを育ててきたのに……この親不孝者!」を「好きで○○していると思う!?」といった疑問文形式のセリフに置き換えたことで、母の怒りが感じられるセリフになったといえるだろう。