「空から降下してくる悪魔」と「空を見上げたり、どこかに向かって疾走したりする地上の人びと」を交互に描写することで、緊迫した雰囲気を醸し出す→ところがじつは地上の人びとは各自の理由で動いているだけであり、悪魔のことなぞ露ほども気にしていなかった
◆概要
アニメ「邪神ちゃんドロップキック」(第12話)には、【「異なる場所で起きている2つ以上のシーン」を交互につなぐ→意図的に、読者・鑑賞者の誤解を誘う】というテクニックが使われている。
◆事例研究
◇事例:アニメ「邪神ちゃんドロップキック」(第12話)
▶1
本作の主人公は邪神ちゃん。
彼女は悪魔だが……いまは、ゆえあって人間界に滞在中。料理などの家事をする代わりに、ゆりね(人間。女子大生)の住むアパートに居候させてもらっている。
・Step1:第11話のラストシーン、いろいろあって宇宙の彼方へ飛んで行った邪神ちゃん。
・Step2:しかし第12話冒頭、邪神ちゃんが戻ってきた!彼女は大気圏外から地球を見下ろす。そして叫んだ「よくもこの私を見捨てたな!」。
・Step3:邪神ちゃんが宣言する「全世界76億の人間どもよ、見るがいい!恐怖の大王が19年遅れでやってきましたの!アンゴルモアを見たければ、我を見よ!!」。
・Step4:邪神ちゃんはキックの体勢を取る。そして大気圏に突入し、そのまま地上めがけて猛スピードで降下していった「真・邪神ちゃんドロップキーーーック!!!」。……彼女は人類を滅亡させるつもりなのだろうか!?嗚呼、人類はどうなってしまうのか!!
さて。
ここからは、【地上に向かって降下する邪神ちゃん】と【アレコレ行動する地上の人びと(人間、悪魔、天使)】が交互に描かれることになる。
・Step5【地上】:繁華街。人がたくさん集まり、空を見上げている。
・Step6【地上】:ぺこら(天使。いまは人間界で暮らしている。邪神ちゃんの顔見知り)がどこかに向かってふいに駆け出した。「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!」と息を切らしながら全力疾走する。
・Step7【邪神ちゃん】:引き続き、隕石のごとく空を切り裂いて落下を続ける。
・Step8【地上】:ミノス(悪魔。邪神ちゃんの親友)が街を疾走する。また、彼女はリアカーを引いており、荷台にはメデューサ(悪魔。やはり邪神ちゃんの親友)が乗っている。メデューサは不安げな表情を浮かべている。
・Step9【邪神ちゃん】:地上が近づいてきた……!
・Step10【地上】:街。ゆりねが真剣なまなざしで何かを見つめている。そして間もなく、ハッとした顔になる。
・Step11【邪神ちゃん】:さぁ、いよいよその時である。邪神ちゃんが地上に到達した!……が、大丈夫。人類は死に絶えていないようだ。それでは一体何が起きたのか?
ここからは解決編である。
空を見上げていた人びと(Step5)、ぺこら(Step6)、ミノスとメデューサ(Step8)、ゆりね(Step10)が何をしていたのか、そして邪神ちゃんはどうなったのかが描かれる。
・Step12【地上】:まずは、空を見上げていた人びとが再登場。そして、じつは彼らがアイドルのミニコンサートに集まったオタクだったと明かされる。つまり彼らは空ではなくて、舞台上のアイドルを見つめていたわけだ。アイドルが手を振った「みんなー、ありがとー❤」。
・Step13【地上】:その頃、スーパーの特売品売り場(「食パン一斤30円」という看板が貼ってある)。既に特売品が売り切れているのを見て、ぺこらは悲鳴を上げた「そんなー!!」。……じつは、ぺこらはホームレスである。とにかく金がない。つまり、Step6で彼女が全力疾走していたのは特売品を入手するためだったのだ(結局間に合わなかったわけだが)。
・Step14【地上】:一方、ミノスとメデューサは老婆に牛乳を手渡した。ミノスが謝罪する「ごめんな、おばあちゃん」。メデューサも謝る「もう忘れませんから」。老婆が微笑む。……じつは、ミノスは牛乳配達のアルバイトをしている。ところが今日は配り忘れがあったのだろう。だから街を疾走し、慌てて届けたというわけだ。メデューサはその付き添いと思われる。
・Step15【地上】:同じ頃、商店街の福引で一等が出た。スタッフが鐘を鳴らす「おめでとうございまーす!!」。野次馬がどよめく「おー!!」。一等を引き当てた幸運の持ち主は、そう、我らがゆりねである。……Step10で彼女が真剣な面持ちをしていたのは、ちょうど抽選器を回していたからに他ならない。
・Step16【邪神ちゃん】:最後に邪神ちゃんが再登場する。彼女は道路にぶっ倒れていた。というか、腰から下が見当たらない。辺りは血まみれである。……あまりにも猛スピードで落下したせいで体が耐えきれず、下半身が吹き飛んでしまったようだ。
▶2
【地上に向かって降下する邪神ちゃん】と【アレコレ行動する地上の人びと】が交互に描かれれば、誰だってこう誤解するはずだ。
・誤解1:「人びとは降下してくる邪神ちゃんに気づき、驚き、呆然として空を見上げているのだろう」
・誤解2:「全力疾走するぺこらとミノス。2人は、邪神ちゃんの落下が予想されるポイントへと急いでいるのではなかろうか?そして『エヴァンゲリオン』の対サハクィエル戦よろしく、2人が連携して邪神ちゃんを受け止めて地球を守るという激アツの展開が繰り広げられるのではあるまいか?こりゃ楽しみだ!!」
・誤解3:「メデューサが不安げな表情を浮かべているのは、彼女が邪神ちゃんの親友だからだろう。『お願い、邪神ちゃん!悪いことはしないで!!』と願っているに違いない」
・誤解4:「ゆりねが真剣なまなざしで見つめているもの……これはたぶん対邪神ちゃん用の武器だろうなぁ。あっ、エクスカリバーとか!?」
そして。
こうした誤解があるからこそ、「いやぁ、誰1人として邪神ちゃんを気にしていないとはね(笑)」「騙された~(笑)」「邪神ちゃんが奥義らしき技を繰り出したというのに全員無視かよ(笑)」「もう少し注目してやれ!(笑)」と、多くの鑑賞者は噴き出してしまったに違いない。
もちろん、この誤解は意図的に引き起こされたものである。
制作者は、鑑賞者を笑わせるために【地上に向かって降下する邪神ちゃん】と【アレコレ行動する地上の人びと】を交互に描き、鑑賞者の誤解を誘っているわけだ。巧い!
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