「キャラAが○○をやけに嫌っている。しかしそのわりには妙に詳しい」という描写を通じて「なぜこんなに嫌っているんだ?」「なぜこんなに詳しいんだ?」「過去に何かあったのか?」といった疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する ~マンガ「これ描いて死ね」の場合
◆概要
【「キャラAが○○をやけに嫌っている。しかしそのわりには妙に詳しい」という描写を通じて「なぜこんなに嫌っているんだ?」「なぜこんなに詳しいんだ?」「過去に何かあったのか?」といった疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:マンガ「これ描いて死ね」(第1巻)
▶1
本作の主人公は、相(「あい」と読む/高1女子)。
彼女は漫画を愛している。
第1話序盤、
・Step1:相は漫画を読みまくる。通学途中にページをめくり、授業中でも読みふける……!
・Step2:そんな相を見咎めたのが手島先生(中年女性)だ。いかにも堅物といった感じの手島先生は「入学して一か月、義務教育を終えて高校生になられた自覚を持ってください」。そして、相を職員室に呼び出した。
職員室、
・Step3:手島先生が説教を始めた「いいですか!」「漫画なんてなんにもなりません!」「荒唐無稽、乱暴狼藉、無意味の洪水です」「ただその場凌ぎの一時的な刺激があるだけで、あなたをどこにも連れては行きません」「時間の浪費、無駄なのです」「面白さ、のためにあの手この手でありもしないことを描いて『この作品はフィクションです』の一言で済ますような無責任な人達が描いているのです」「端的に言えば全て嘘なのです」「娯楽にしても今はウェブ動画にアプリにSNSと最新の遊びが色々とあるでしょう」「出版規模は縮小、書店の閉鎖は相次ぎ、紙で読むスタイルなんて流行りませんよ」……以上、丸々1ページに渡って延々と手島先生のセリフが並ぶ。
・Step4:さらに次のページでも「もっとも現在は電子出版事業の成功もあり、売り上げ自体は最盛期を超え……」。
・Step5:と、ここに至ってようやく「おっと話が逸れました」。手島先生の説教が終わった。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step3-4である。
手島先生の言動は明らかに異常だ。
「このセリフの量は何事か!?」「いくら何でも漫画を嫌いすぎでは!?」「そのわりには、妙に漫画業界に詳しいような……」と驚いたり、疑問を抱いたりした読者は少なくないだろう。
そして、「もしかすると過去に漫画関係で何かあったのかな?だから憎んでいるのか?」「家族に漫画関係者がいるとか?」と興味を引かれたはずだ。
つまり、「キャラAが○○をやけに嫌っている。しかしそのわりには妙に詳しい」という描写を通じて「なぜこんなに嫌っているんだ?」「なぜこんなに詳しいんだ?」「過去に何かあったのか?」といった疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激するというテクニックである。
なお、「いくら何でも漫画を嫌いすぎでは!?」といった違和感は正しい。じつは手島先生は漫画に関して秘密を抱えているのだ。それが明らかになるのは第1話終盤以降のことである。
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