相手が使った比喩を下敷きにして、からかったり冷やかしたりする ~ドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の場合
◆概要
【相手が使った比喩を下敷きにして、からかったり冷やかしたりする】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:ドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」(第9話)
▶1
本作の主要キャラの1人・テイスティ(20代の女性)。
彼女は犯罪者であり、いまは女子刑務所に収監されている。
テイスティは
・Step1:明るく元気なムードメーカーだ。
・Step2:ところがある日、彼女はいつになく落ち込んでいた。
・Step3:じつは出所日が迫っているのだ。かくしてテイスティは「私は外の世界でやっていけるだろうか?」「刑務所暮らしに馴染んだ私に居場所はあるのだろうか?」と不安に押し潰されそうになっていた。
そんなテイスティを
・Step4:囚人仲間たちが励ます。
・Step5:親友のプッセイも言った「あんたはいま、自分をアレだと思ってるんじゃないか?なんつったっけ……『囚われた動物は脳が変化しちゃう』ってやつ。私、見たことあるんだよ。昔動物園でさ、キリンが自分のゲロを食べたり頭を柵に打ちつけたりしていた。ああなっちまうともう野生に戻ることはできない。木の葉も食べられないしね」。
・Step6:テイスティはうなずいた「それだよそれ。私はそのキリンさ!」。――彼女は自らを動物園のキリンになぞらえ、「私はもう刑務所の外の世界には戻れないよ……」と不安を打ち明けたわけだ。
するとプッセイは笑った。
・Step7:曰く「んなわけないだろ!キリンはあんたみたいに太ってはいない。自分のケツをよく見てみろよ」。――テイスティはでっぷりと太っている。
・Step8:その言葉にテイスティは思わず笑顔になる。
・Step9:プッセイはさらに言った「社会なんかに負けるなよな!」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「んなわけないだろ!キリンはあんたみたいに太ってはいない。自分のケツをよく見てみろよ」「社会なんかに負けるなよな!」というプッセイのセリフである。
要するに「大丈夫だよ!刑務所の外の世界でもやっていけるさ!」と励ましているわけだが――ストレートにそう言ってしまっては面白みを欠く。
そこで【相手が使った比喩を下敷きにして、からかったり冷やかしたりする】という技法の出番だ。
改めてプッセイのセリフをご覧いただきたい。
彼女はまず、自らを動物園のキリンに喩えたテイスティの言葉を引き継いで「んなわけないだろ!キリンはあんたみたいに太ってはいない。自分のケツをよく見てみろよ」とからかった。その上で「社会なんかに負けるなよな!」と励ました。
「大丈夫だよ!刑務所の外の世界でもやっていけるさ!」なんて安直に激励するのと比べて、ぐっと愉快で印象的なやりとりになったといえるだろう。