「ドア1枚挟んで向き合う2人。キャラAがドアを開けた瞬間に激しい戦いが始まるだろう→……と思いきや、タックルでドアをぶち破ったA。Bはドアの下敷きになる。かくしてあっという間に勝負あり!」という展開で読者・鑑賞者を驚かせ、興味を引きつける ~映画「悪人伝」の場合
◆概要
【「ドア1枚挟んで向き合う2人。キャラAがドアを開けた瞬間に激しい戦いが始まるだろう→……と思いきや、タックルでドアをぶち破ったA。Bはドアの下敷きになる。かくしてあっという間に勝負あり!」という展開で読者・鑑賞者を驚かせ、興味を引きつける】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「悪人伝」
▶1
本作の主人公は、ドンス(中年男性)。
彼は、とある暴力団の組長である。裏の世界では大物として知られている。
いろいろあっていま、
・Step1:ドンスはギョンホ(恐るべき連続殺人鬼)の命を狙っていた。
・Step2:ギョンホは夜の街を逃げ回る。一方のドンスは「この野郎、絶対にぶっ殺してやるぜ!」と執拗に追い回す。
・Step3:しばらく後、ギョンホはカラオケボックスの一室に逃げ込んだ。ここに身を隠してやりすごそうというわけだ。
しかし、
・Step4:さすがはドンス。裏の世界のプロだ。彼はギョンホが隠れていることに気がついた。かくして息を殺し、足音を殺し、ギョンホが潜む部屋にそっと近づいていった。いきなりドアを開けて不意打ちしてやろうという作戦だろう。
・Step5:だがギョンホも只者ではない――ドンスの気配を察知した。そしてドアの前に立ち、ナイフを構えた。ドンスがドアを開けた瞬間に刺し殺してやろうというわけだ。
・Step6:ドア1枚挟んで向き合う2人!ドンスがドアを開けた直後に戦いが始まるだろう。ドンスが勝つか、それともギョンホが勝つか。さぁどうなる!?
と思いきや、次の瞬間だった。
・Step7:ドンスはドアを開けるのではなく――ドアにタックルをかました。ドアが破れ、ギョンホはドアとドンスの下敷きになる。
・Step8:下敷きになったギョンホは身動きできない。
・Step9:対するドンスは馬乗りの姿勢になり、拳を振り下ろした。いわゆる「マウントパンチ」である。彼の強烈なパンチはドアをぶち破り、そしてドアの下でぶっ倒れているギョンホに命中した。
・Step10:というわけで――勝負あり!
▶2
ご注目いただきたいのは、Step6-7である。
ドンスがドアを開けた瞬間に激しい戦いが始まるだろう――と思いきや、ドンスはドアを開けない。彼はタックルでドアをぶち破った!
「タックルかよ!(笑)」「ギョンホが下敷きになっちゃったよ(笑)」「ついさっきまで格好よくナイフを構えていたギョンホがバカみたいじゃん(笑)」と驚き、思わず笑ってしまった鑑賞者は少なくないだろう。
予想を裏切るこの展開がいい。
この先何が起こるかわからない。ゆえに、私たち鑑賞者の目はもう画面に釘づけだ……!
つまり、【「ドア1枚挟んで向き合う2人。キャラAがドアを開けた瞬間に激しい戦いが始まるだろう→……と思いきや、タックルでドアをぶち破ったA。Bはドアの下敷きになる。かくしてあっという間に勝負あり!」という展開で読者・鑑賞者を驚かせ、興味を引きつける】というテクニックである。