褒められた時に謙遜したり照れたりするのではなく、軽いジョークで応じる ~ドラマ「After Life/アフター・ライフ」の場合
◆概要
【褒められた時に謙遜したり照れたりするのではなく、軽いジョークで応じる】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:ドラマ「After Life/アフター・ライフ」(第5話)
▶1
本作の主人公はトニー(中年男性)。
彼は愛する妻をがんで亡くし、そのショックから立ち上がれないでいた。いまやすっかり荒んだ生活を送っている。
しかしいろいろあって、
・Step1:トニーが少しばかり前向きになってきた時のことだ。
・Step2:彼は、アン(知り合いの高齢女性)に言った。曰く「妻が死んでから何度も自殺を考えた」「しかしいまは、微力ながら人の役に立ちたい、善人になりたいと思っている」。
すると、
・Step3:アンは言った「あなたはいい人よ。いろいろな面を持った人だわ。賢くて、面白くて、素敵よ」。
・Step4:アンの言葉に対して、トニーはいたって真面目な顔で「『セクシー』を忘れている」。
・Step5:アンは微笑んだ「そうね。もうこの年だから照れちゃって言えなかったのよ」「20歳若ければきっと言っていたと思うわ」。
・Step6:トニーがツッコむ「絶対嘘だろ!」。
・Step7:かくして2人は大笑い。
▶2
ご注目いただきたいのは、「『セクシー』を忘れている」というトニーのセリフである。Step5-7を見ればこれがジョークだとわかるだろう。
要するに彼は、「あなたはいい人よ。いろいろな面を持った人だわ。賢くて、面白くて、素敵よ」と褒められた時に謙遜したり照れたりするのではなく、軽いジョークで応じたわけだ。
これがいい。
第1に、トニーがユーモアセンスを持ち合わせた魅力的な人物だと伝わってくる。多くの鑑賞者は主人公が魅力的だからこそその作品を見続けるのであり、したがって主人公トニーの魅力をアピールするのは極めて重要なことだ。
第2に、シーンが明るくなる。本作は「妻に先立たれた中年男性のその後の人生」を描いた作品。一歩間違えると過剰に重苦しくなってしまうだろう。だからこそ意識的に明るくしてやる必要がある。
第3に、「作中キャラが称賛されるシーン」は鑑賞者からすれば特段面白いものではなく(批判されたり非難されたりするシーンの方が100倍面白い)、したがってだらだら引き延ばすのはよくない。手早く終わらせるべきだ。軽いジョークで処理したことで、テンポよく次のシーンに進めたといえるだろう。